第7話 雨の日
雨の降る中僕が大学から帰ってきた時、玄関でふと違和感を抱いた。
「あれ、琴音の傘家にあるじゃん。······ってことは傘を忘れて行ったな? 」
今日は大学の講義が午前中で終わりだったから僕は早く家に帰ってきている。琴音は高校が今日は六限まであるらしいのでまだ帰ってこない。これは琴音を迎えに行ったほうがいいかもしれないな。そう思った僕は琴音にその旨のメッセージを送る。
優:玄関で琴音の傘を見つけたんだけど、六限終わったあたりで傘持って迎えに行こうか?
ことね:うっかり忘れちゃいまして······えへへ お願いしますお兄ちゃん迎えにきてください!!
優:りょーかい
さて、六限が終わる頃に琴音の傘を持ってお迎えに行くことが決まったし、それまで何をしようかなぁ······。そうだ、夜ご飯のクラムチャウダーを今のうちに準備しよう。窓の外に目を向けるとまだ冷たい雨が降り続けている。先週までは暖かかったのだが、今週はどうやら三月のような寒さが続くらしい。こんな寒い日にはクラムチャウダーで身体を温めるのが良いだろう。
必要な材料を冷蔵庫から取り出してカットしたり茹でたりして、クラムチャウダーのルーを入れる直前まで仕込みを終えた。この後の作業は琴音が帰ってきてからやることにして、残りの時間は今日の講義の復習をすることにしよう。
復習をしているとあっという間に時間が経ち、六限が終わる時間が近づいてきたからそろそろ琴音を迎えに行く。家から琴音の通う高校までは歩いて20分ほどの距離だ。僕は琴音の傘を片手に持って琴音の待つ高校へと歩き始めた。
高校の校門が見えてきたあたりで校舎から六限の終了を告げるチャイムが聞こえてきた。自分も数ヶ月前まではこのチャイムを聞いていたのだが、大学に入った後は全く聞かないためか聞こえてくるチャイムがとても懐かしく思えた。
優:校門の近くで待ってる
ことね:了解です! 今行きます!
琴音を待っている間、英単語帳や参考書を片手に持って下校する生徒を何人か発見してとても懐かしくなった。僕が下校風景に懐かしさを覚えていると、人目を引く少女二人が相合傘をしてこちら側に向かってきていた。片方は琴音で隣の子はおそらく琴音が前に話していたお友達だろう。琴音は僕と目が合うと手を振ってきた。周りの人たちに思いっきり見られているけど恥ずかしくないのか······? 僕がそう思っている間に琴音たちは傍まで来ていた。
「お兄ちゃん待たせちゃってごめんね! 傘持ってきてくれてありがとう〜」
「迎えに行くぐらい全然大丈夫だよ。それよりも琴音の隣にいる子は······? 」
「紹介するよ! 友達の冬華ちゃんです!! 」
「琴音ちゃんのお兄さんですよね······? 初めまして、冬華と言います。琴音ちゃんにはお世話になってます······」
そう言って頭を下げる冬華さん。美少女な冬華さんが僕みたいな一般男性に対して頭を下げているからだろうか、周りからの視線が少し痛い。
「ちょっ?! 冬華さん頭あげてください! 周りの視線が痛いので······えっと僕は琴音の兄の優です。妹がいつもお世話になっています」
「冬華ちゃん、私がいつもお世話になっています······」
そう言って琴音も頭を下げる。妹よ、それは自分で言うことじゃないぞ。冬華さんは頭を下げ始めた琴音を見てくすくす笑っている。当人たちが面白そうならいいか······
「冬華さん、ここまで琴音を連れてきてくださってありがとうございます。これからもうちの妹と仲良くしてください······」
「それはもちろんです! 学校での琴音ちゃんはお任せください! 」
胸をトンっと叩いてそう宣言する冬華さん。良い子だなぁ······心強い友達が琴音に出来たようでお兄ちゃんは安心です。
「それと優さんは琴音ちゃんのお兄様なんですから、私には敬語ではなく気軽に接してください」
「わかった。冬華さんも僕に対しては敬語じゃなくても良いからね? 」
「いえ、これは私の癖みたいなものなので気にしないでください! 」
「そっか、あと琴音がそのうち『私の家で遊ぼう』って言うかもしれないけどその時は僕のことは気にせずに遊びにきて良いからね」
「分かりました。その時になったら喜んでお家にお邪魔させていただきます」
「よし、じゃあここら辺でそろそろ家に帰るとしますか。冬華さんもこっち方向? 」
「そうだよ! 冬華ちゃん一緒に帰ろ〜! 」
「私もご一緒して良いのですか? ありがとうございます! 」
そうして僕、琴音、冬華さんの三人で一緒に家に帰ることにした。
「冬華ちゃん、お兄ちゃんね塾講師のバイトしてるんだよ〜 だからテスト前になったらうちでお勉強会しようよ! 」
帰り道、琴音が突然こんな提案をした。勉強会か······僕も理系分野なら教えられるし楽しそうだな。
「優さんは塾講師をしているんですか?! すごいですね······優さんさえ良ければ私にもお勉強を教えてもらっても良いですか······? 」
「全然構わないよ。 普段も琴音の勉強見てるし一人増えたところで特に変わらないから心配しないで」
「本当ですか?! 楽しみにしてますね······あ、私はここら辺でお別れです。」
名残惜しそうに冬華さんが言う。気づけばもう冬華さんと別れる場所まで歩いてきていたらしい。
「ここでお別れなのか、冬華さん今日はありがとう。これからよろしくね! 」
「いえこちらこそありがとうございます! 優さんにもこれからお世話になります! 」
「冬華ちゃん今日はありがとう! また明日会おうね〜! 」
「はい、琴音ちゃんまた明日もよろしくお願いしますね! 」
別れの挨拶を交わすと冬華さんは僕らの家とは違う方向に歩き出した。
「さて、僕らも家に帰りますか。琴音は家着いたらお風呂入りなよ? 」
「わかった! それよりもお兄ちゃん、冬華ちゃん可愛かったでしょ〜! 」
「うん、冬華さんほんとに可愛かったね。琴音もだけど二人はこれからすごいモテそうだな〜」
「私は分からないけど、冬華ちゃんは絶対モテるよ。私が男だったらもう告白してるよ」
「琴音なら絶対告白してるな確かに」
「でしょ!! だって冬華ちゃんはねーー」
グゥーー
咄嗟に自分のお腹に手を当てて顔を赤くする琴音。お腹空いたんだね······。
「琴音、今日の夜ご飯はクラムチャウダーだよ」
「え、ほんとに?! お兄ちゃん早く帰ろう! クラムチャウダーが私を待っている! 」
「落ち着け」
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第七話を読んでいただきありがとうございます!
ついに琴音の友達(第四話参照)が登場です。当初は冬華ちゃんを登場させるつもりはなかったのですが、シチュエーション的に登場しないとおかしいよなと思ったので······。
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それでは第八話でお会いしましょう!
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