特別短編4 メグの最高の日

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 今から一年以上前のその日。

 メグはとっても浮かれていて、やわらかいプニプヨ星人の体をぽよんぽよんと弾ませながらポスリコモスの市場を歩いていました。

 なんとなんと……超超超レア物である、地球のアニメのブルーレイディスクを入手したからです!

 メグは地球が大好きで、特にその中でもアニメが大大だーい好きなのですが……住んでいるプニプヨ星にそんな趣味の人はもちろん居らず……。

 ということは当然、プニプヨ星では地球のアニメに関するものなんて手に入らないため、暇があるときにわざわざこのポスリコモスまで出向いては、掘り出し物のアニメグッズを探しているのでした。

「はぁー……今日は最高の日でス、いい買い物が出来ましタ! これでおうちにある『でーぶいでーぷれーやー』で新しいアニメが見

られますネ!」

 でも……どうやらこのアニメのブルーレイ、地球の数字で3と書かれている気がします。

「うう……もしかしてまた、前の話や続きが気になるパターンですカ……」

 しょんぼりと触手をくねらせるメグには……ある夢があります。

 それはいつか、得意の変身能力で地球人に変身して……地球人として、地球で生活すること!

 そうすれば、アニメだって見放題、グッズだって買い放題で……もしかすると、憧れの『アキバ』にだって行けるかもしれません!

 しかし現実は厳しく……そもそもETは、まだ文明の発達していない地球に住むのは基本的に禁止されていますし……ちょっと地球旅行をするのにだって結構なお金がかかります。

「ふゥ……プニプヨ星でモジェリを育ててる、しがないワタシには夢のまた夢ですネ……」

 お財布の中の残り少ないお金を見つめて、メグがため息を吐いていると……



 突然、大きな何かがメグの小さな体にぶつかりました!

「わ、ワ⁉」

 メグはその場に転んで、お財布の中身や買ったばかりのブルーレイが辺りに散らばります。

「ごめんなさい! よそ見をしていました……お怪我はありませんか⁉」

 やわらかい体のおかげで一切怪我はありませんが……メグは頭を持ち上げてびっくりしました!

 何とぶつかって来たのは……メグの憧れ、地球人です!

 もちろん地球人を見たことがない、というわけではありませんが……いつも遠目でチラリと見かける程度なので、こんなに近くで見るのは初めてです!

 どうやら服装的に宇宙警察らしいその地球人は、慌ててメグの落とした小銭を拾った後、一緒に落ちているアニメのブルーレイに手をかけました。

「これも、貴方のですか?」

「は、はイ! あぁっ、わ、割れていませんカ⁉」

 メグは慌ててブルーレイのパッケージを開いて……中のディスクが傷ついてないことを確認して心底ほっとしました。

「よ……よかっタ……おうちの『でーぶいでーぷれーやー』で見られなくなったらどうしようかと思いましタ」

「でーぶい……ああ、DVDプレイヤー……あれ? でもそれ」

 地球人はメグの持つパッケージを覗き込みます。

「これ、ブルーレイディスクですよ。DVDプレイヤーでは見られません」

「エ⁉」

「これを見るためには、専用のプレイヤーが必要ですね……ってあれ⁉ 大丈夫ですか⁉」

 ……あまりのショックでメグはもうドロドロに溶けそうです。

 せっかくここまで来て手に入れたのに見られないなんて……これじゃあまた何百回見たかわからない、数少ない持ってるDVDの中ではまだ新しい方の『ドキドキ♪メイド大作戦 六巻』を見るしかありません。

 メグが地面に突っ伏してシクシク悲しんでいると……自分を心配して跪いてくれている地球人の手に持っているものが目に入りました。

「……あレ。それもしかしてモジェリの芽ですカ?」

「え、この花をご存じなんですか⁉ そうか……貴方はプニプヨ星人ですもんね」

 ……地球人の持っている透明な瓶の中に植わっているモジェリの芽は、何だかとっても弱っています。

「うーン……そのモジェリ、オレンジの光が足りませんネ」

「オレンジの光?」

「はイ。プニプヨ星には色とりどりの空模様がありまス。モジェリの芽が大きく育つのは、オレンジ色の空から光が降ってくる日でス。このポスリコモスで言うト……今日の光はモジェリの芽にはあんまり良くないですネ」

「す、すごい……待ってくださいメモしますから!」

 地球人はポケットから取り出した紙束にペンを走らせました。

「ありがとうございます。僕、どうしてもこのモジェリを……地球人に毒の無い状態で大きく育てたくて。でも全然わからなくて……困っていたところなんです」

 メグはアニメで見たことあります……これは、地球人の『悲しい顔』です。

「地球人に毒の無いモジェリ……それはとっても難しそうですネ。ワタシも結構長くモジェリを育てる仕事をしてますガ、聞いたことがありませんン」

「やっぱり、そうですよね……ああ、お時間取らせて申し訳ありません」

「いえいエ! 憧れの地球人と話せて感激でス!」

「憧れ……? そういえば、地球のアニメのブルーレイを買ってましたね。お好きなんですか?」

「はイ!」

 メグは触手をぶわっと伸ばして体を膨らませました。

「地球はすばらしいでス! 学園、戦隊、メイド、サムライ……素敵なものがいっぱいでス! ああ、ワタシも一度でいいから地球に住んでみたイ……ハっ!」

 妄想が止まらないメグは、やっと正気に戻って頭を振ります。

「すみませン……地球のことについて考えるといつもこうデ……」

「それなら……地球に住んでくれませんか?」

「エ?」

 ……あまりに突拍子も無い地球人の言葉に、メグはとっても不抜けた声を出してしまいました。

「僕、今は地球に住みながら毒の無いモジェリの花を咲かせる研究をしているんです。是非、貴方のモジェリに関する知識と技術をお借りしたい」

「エ、エ?」

「もちろんお給料も出しますし、僕と……もう一人のアンドロイドと同居にはなりますが住む場所も保証しましょう。あ、それに……」

「ソ、それニ……?」

「僕の家、ブルーレイプレイヤーありますから。それ、見られますよ」

「住みまス!!!!」

 メグは超高速で頭を何度も上げ下げします。

 ……地球ではこの動作は賛成を表すはずです!

「助かります! それならお時間があるときに宇宙警察本部で手続きを……」

「今すグ行きまス!」

「え、今すぐ⁉」

 メグはぴょこぴょこ飛び跳ねたかと思うと……その体をむにゅむにゅ変形させて、メイド服を着たピンク色の髪の地球人へと姿を変えました。

「やっト……やっと何年も練習してたこの変身が使えますネ!」

「わぁ……さすがプニプヨ星人、すごいですね……!」

「そう言えバ、名前をまだ言ってませんでしたネ。ワタシはメグウカミノ、 長いのでメグって呼んでくださイ!」

「メグさんですね。僕はライトです、黒武来人」

「ライトさん! まさしく地球人っぽいですネ、覚えましたヨ。さぁさぁ早速本部に行きましょウ!」

 長いスカートをひらりと翻して、軽やかに走って行くメグを、ライトは慌てて後ろから追いかけます。


 ああ、これから一体どんな楽しいことが待っているのでしょうか!

 今日はメグのプニプヨ星人生が……運命が変わった最高の日です!

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