特別短編3 ヒカルとエイギスの出会い

**ヒカルとエイギスの出会い**


 ここは宇宙警察本部の中のとある一室。

 うにょうにょとした形の真っ白な椅子に、ヒカルは極度の緊張でチクチクと痛むお腹をさすりながら座っていました。

 というのも、今日はヒカルのコンビになる予定のETと初めて顔を合わせる日です。

 本来コンビは同じ種族、地球人であれば地球人と組むことがほとんどで別の種族と組むのは非常に珍しいことです。

 ヒカルもそうしたかったのは山々だったのですが……ヒカルが宇宙警察試験に合格したとき同じく試験に合格した地球人が四人おり、その四人がそれぞれコンビを組んだためヒカルは相手が見つからず、今日までの数か月間コンビがいない状態で仕事をしていたのでした。

 そんなヒカルと是非コンビを組みたいというETがあらわれたのです。

 どうやらそのETはこんな珍しい時期に特例で宇宙警察になったらしく、しかも同じ種族の宇宙警察も一人もいないらしいのです。

 昔アニメで見たビルより大きい怪獣のようなETが来たらどうしようかとヒカルが体をガタガタ震わせていると、部屋の扉がコンコンとノックされて仕事仲間である宇宙警察本部の職員が入ってきました。

「お待たせヒカル、それじゃあ行こうか」

 職員と一緒に部屋を出て、真っ白な長い廊下を歩きながらヒカルはどんよりと俯いていました。

 職員はそんなヒカルの様子を気にかけることもなくご機嫌に話し始めます。

「いやーよかったよかった! あの子は試験の結果も優秀でさ。きっと立派な宇宙警察になるからコンビが組めるなんてすっごくラッキーだよ、ヒカル!」

「そ、そうなんだ……でもそんなすごい人がなんで俺とコンビを……?」

 宇宙警察試験の結果だって下から数えた方がよっぽど早かったのですから、お世辞にもヒカルは優秀とは言えません。

「それはね、その子に目と耳と腕と足……っぽいものがあったから! まだ地球の生物に近いねってことになって。ほら、コンビを組むなら生物的に似ていた方がやりやすいでしょ?」

 目と耳と腕と足だけで本当に近いのだろうかとヒカルは不安ですが、今案内してくれているETの職員にはどれもありませんのでそう考えるとまだ近いのかなという気もしてきます。

 職員はこれまた真っ白な扉の前でピタリと止まりました。

「ここだよ。じゃあボクは仕事に戻るから!」

「え、一緒にいてくれないの⁉」

 ヒカルはわかりやすくソワソワし始めます。

「コンビになるんだから二人で話した方がいいだろ。じゃあ頑張れよー」

 職員はふよふよと飛んでどこかへ行ってしまいました。

 それから数分間。

 ヒカルは立ったり座ったり、頭を抱えたりうずくまったりしながらどうしようかと扉の前でずっと悩んでおりました。

 いえ、どうするも何もノックするしかないことはわかっているのですが、その勇気がヒカルにはありません。

 すると部屋の中からコツコツと金属が当たるような足音が近づいてきました。

「貴方(あなた)がヒカル?」

 ドア越しに聞こえたその声は、まるで鈴がシャランと鳴ったように澄んでいます。

「は、はい……そうです……」

 ヒカルはあんまり綺麗なその声に、さっきまでの逃げ出したかった気持ちも忘れてとっさに返事をしてしまいました。

 扉が開きます。

「はじめまして、ワタシはエイギス。会えて嬉しいわヒカル」

「よかった、なかなか扉を開けてくれないから……てっきりワタシに会いたくないのかと思っちゃった」

「ヒカル……ヒカル?」

 ヒカルは扉が開いたときのまま、廊下で固まって動きません。

「……やっぱり違う種族だから、嫌……?」

 長いまつ毛を揺らして泣きそうな顔をするエイギスに、ヒカルはハッと気が付いたように口を開きました。

「い、いやいやいや!」

「嫌……?」

「いやそうじゃなくて! その……ごめん、あんまり綺麗だから驚いちゃって……」

 顔を真っ赤にしてへにょりと笑うヒカルを見ると、エイギスは長い耳を嬉しそうにピコピコと動かしてふわりと笑いました。

「春子と諄弌(じゅんいち)が言ってた通りだわ」

「え、母さんと父さんのこと知ってるの?」

「ええ、とっても良くしてもらったの。ヒカルは聞いてた通りとっても優しくて……とっても綺麗ね」

 内側まで見通すような透き通ったエイギスの瞳と目が合って、ヒカルは思わず目を逸らしてしまいました。

「え、ええと……ありがとう……」

「ふふ、どういたしまして」

 そう言ってもう一度エイギスは笑いました。

「ねえヒカル?」

 エイギスは金属でできたような長い足を擦り合わせながら、細い腕を胸の前で組みます。

「ワタシと……コンビになってくれる……?」

 どうやら緊張しているのはヒカルだけではなかったようで、エイギスは不安そうに首を傾げました。

「も、もちろん! 俺でよければ!」

 まともにエイギスの顔が見られないまま、ヒカルは廊下に響くくらい大きな声で返事しました。

 なんだか胸がひどくドキドキして、頭はなんだかポワポワして。

 全く、どうにかしてしまったのでしょうか。


「ありがとう。貴方のコンビになれてとっても嬉しいわ。これからよろしくね、ヒカル」

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