第10話 惑星ミッシェル冒険記①
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月が眩しいほど明るく光って、辺り一面を照らしていた金曜日…いえ、地球はもう土曜日でしょうか。
タカヤとショースケは特急こすもに乗って、ポスリコモスにある宇宙警察本部へやってきました。
今回やってきた目的は…
「ウヒョー ホンブ ヒサシブリ!」
そう言ってはしゃぎながら、タカヤの腕の中でパタパタと足と触覚を動かしているロボット、ツバサを肖造にメンテナンスしてもらうためです。
「ツバサー、あんまり暴れたら落ちるよー」
肖造の研究室がある最上階へ繋がる透明なチューブのようなエレベーターに乗り込んで、ショースケはツバサの足を触りながら一言注意しました。
「ところでショースケ、今回はポスリコモスに何か用事があったのか? 俺がツバサをメンテナンスに連れて行くって言ったら一緒に来るって言うから」
「んー? 別に無いよ。僕はポスリコモスが大好きだからね、来られるなら毎週来たいくらいさ。あ、見て見て今日の空は虹色だよ!」
タカヤの質問に答えながら、ショースケは嬉しそうに外を指さしました。
地球では到底見られない極彩色にカラフルな空を、エレベーターは切るようなスピードでどんどん上へと進んでいきます。
「…まぁ、行きの特急こすもは僕ら宇宙警察はタダで乗れるけど、帰りのUFO(ユーフォー)タクシーやワープ装置なんかは結構お金がかかるから毎週は来られないけどね」
ショースケは小さくため息をつきました。
特急こすもは週に一本しか時目木町へやって来ないため、一週間以内に帰りたければ他の交通手段を使わなければならないのです。
「早く大きくなってポスリコモスに住みたいなー、そしたら毎日じーちゃんと発明三昧するんだ。あ、もちろんタカヤともお仕事するから安心してね?」
「ショースケはすごいな、立派な将来の夢があるんだな」
「タカヤは無いの? 将来の夢」
「俺は…」
エレベーターの中に、到着を知らせるリーンという音が響きました。
「あ、着いたよ!」
ショースケは一番に外へ飛び出して、肖造の研究室に向かって走って行きます。
「…俺は…」
「タカヤー ドシタノー ダイジョウブ?」
ツバサは袖無しの服から出たタカヤの二の腕をプニプニつつきます。
「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ」
腕の中のツバサを優しい笑顔でぎゅっと抱きしめて、タカヤはエレベーターを降りてショースケの後をゆっくり歩いて追いかけました。
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「ワオワオ ハカセ ゲンキ ダッター?」
「おおツバサ、久しぶりじゃのう。むむ…この極上の抱き心地…さすがワシの作った発明品じゃな!」
ツバサの真っ白なお腹に顔をうずめて、肖造は何度も息を吸いながら頬ずりしました。
「ショースケとタカヤもよく来たな。まあそこの椅子に座って、机の上に置いてあるワシが作った茶でも飲んでくれ」
「え、茶ってこれ…?」
ショースケは目を疑います。
紫色でとろみのある液体からは炭酸のような泡が立ち、さらに細長い棒状の何かが中でくねくねと動いています。
きっと百人に聞いたら百人が茶では無いと言うでしょう。
「ぼ、僕…喉渇いてないからいらないかな。ねぇタカヤもそうだよね…ってタカヤ⁉」
出されたものは断れない性分のタカヤはすでに茶では無い茶を口に含んでいます。
「えっと…独特な味がして…その、おいしい、ですね…」
タカヤの顔はみるみる青くなっていきます。
「タカヤ何してんの! そんな顔して美味しいわけないでしょ、ほら早くぺーして!」
ショースケはタカヤの背中を叩いてなんとか液体を吐き出させました。
「どうじゃったワシの作った茶。さっきここを手伝ってくれている二人にも飲ませたんじゃが、すぐに吐き出して一階のカフェに口直しに行ってしまったわい」
「そんなもの僕らに飲ませようとしないでよ…」
「えー、人によって味覚は違うんじゃから美味しいかも知れんじゃろー」
肖造は口を尖らせてブツブツ言いながら、ツバサのメンテナンスを始めました。
「ヨロシク ハカセー。ア、トコロデ コノアイダ オモシロイ コト アッテ アノサ」
…いつまでも喋られてはやりにくくて堪らないので、肖造はツバサのスイッチを切ります。
「ふむふむ…ここは良しここは良し…む、このパーツは交換が必要じゃな」
肖造は机の下に置いてある箱を開けて、新しいパーツの材料を取りだそうとしましたが…。
「およ? もう無かったかのう…。そうじゃ! 惑星ミッシェルで採ってきてもらう予定じゃったんじゃが、隊員が急遽体調不良で行けなくなってそのままじゃったわい」
「え、じゃあメンテナンス出来ないってこと?」
ショースケが首を傾げて尋ねると、肖造はむむむと少し頭をひねって…突然大きな声を出しました。
「そうじゃ! ショースケ、タカヤ。ちゃちゃっと行って採ってきてくれんかの!」
「採ってくる…って、まさか! わ、惑星ミッシェルで⁉」
ショースケはプルプル体を震わせながら、目をこれでもかと輝かせます。
「そうじゃ。惑星ミッシェルに行って、そこにしかない『コール石』と『ヤワクの実』を採ってきてもらいたい」
「行く‼ いくいくいく絶対行く! ねえタカヤ行くよね⁉」
ショースケのあまりの迫力に、タカヤはうんともすんとも言えずにただ何度かうなずきました。
「十級の間はさすがにどこの星にも行かせてもらえないと思ってたのに! まさかこんなチャンスが巡って来るなんてじーちゃん様々(さまさま)だよ!」
ショースケは喜びのあまり肖造に抱きつきます。
「おーおーワシの孫は可愛いのお! じゃが二人で、ではないぞ?」
「二人じゃない?」
「十級だけ…で行かせたらさすがに本部から何て言われるかわからんからな。じゃからワシの研究の手伝いをしてくれておる二人と一緒に行ってもらう、よいか? スイ、ティナ」
肖造が扉の方を向くと、ちょうど開いた扉から十六、七歳くらいの褐色の肌の女の子二人組が入ってきました。
二人とも、手には一階のカフェで買ってきたであろうお菓子をいっぱいに持っています。
そのうちの一人が短いツヤツヤの黒髪をパサリとなびかせ、切れ長の瞳で肖造をにらみました。
「まったく博士はいつも急ですね…この後はポポミル星の環境汚染をさらに改善する薬品の実験をするんじゃなかったんですか?」
「それはもうさっきワシ一人で済ませたんじゃよ、スイ。で、どうじゃ行ってくれるか?」
顔をしかめているスイに、もう一人の女の子がウェーブのかかった長い茶色のツインテールを揺らしながら笑いかけます。
「行こうよお姉ちゃん! なんだか楽しそう!」
「楽しそうって…ティナはいつも楽観的過ぎるわよ。いい? 惑星ミッシェルには危険な生物がいて、そいつは縄張り意識が強いから…」
くどくどと説明を始めるスイの横をスタスタ通り過ぎて、ティナはショースケとタカヤの前で歩みを止めました。
「わたしはティナだよ! はじめまして、タカヤくん、ショースケくん!」
「え、僕らの名前知ってるの?」
「もちろんだよ。特にショースケくんは博士がいつも孫自慢してるからいろいろ聞いてるよー。それに、二人は地球人で史上最年少の宇宙警察試験合格者でしょ? 有名人なんだから!」
「え、えへへー僕たち有名人だってタカヤー」
ショースケはへらへら笑いながらタカヤの腕をツンツンつつきます。
「ちょっとティナ! まだ話は終わってないでしょ!」
スイはぷりぷり怒りながらティナの隣に立ちました。
「えーだってお姉ちゃんのお話長いんだもん、聞いてたらいつまでも惑星ミッシェルに行けないよー。それに、危険な生物…オンガイルゴンは奥地にしかいないじゃない。ねぇ行こうよお姉ちゃんお願い!」
「ワシもワシも! スイお願い! 『コール石』も『ヤワクの実』も安全な場所で採れるものじゃからいいじゃろ?」
ぶりっ子ポーズをする肖造を薄めでちらりと見た後、スイはおねだりするティナに目線を移して大きなため息をつきます。
「しょうがないわね。今回だけよ?」
「やったー! お姉ちゃんだいすきー!」
左腕に抱きついてきたティナをまんざらでもなさそうに見た後、改めてスイはタカヤとショースケの方へに向き直ります。
「私はスイ。足手まといにならないでね、あなたたちの子守りはごめんなんだから」
腕を組んで冷たく見下ろしてくるスイに、ショースケはふんと鼻を鳴らしてニヤリと笑って見せました。
「僕は霧谷ショースケ。そっちこそ、僕はお姉さん守りはごめんだよ?」
「お、おいショースケ! すみません…はじめまして、石越タカヤです。よろしくお願いします」
ショースケの前に立って、タカヤは礼儀正しく挨拶をします。
「こちらこそごめんねー。お姉ちゃん本当は優しいんだけど素直じゃないの」
「ティナ、勝手なこと言わないの」
「えー本当のことでしょ? 今日だってお菓子分けてくれたり荷物持ってくれたり…昨日だって」
「もうティナ! 後で聞いてあげるからから今は言わないで!」
スイは耳まで真っ赤にしながら右手でティナの口を塞ぎました。
「とにかく! そうと決まれば早く行くわよ! 博士、博士のUFO借りていいですよね?」
「おう好きに使っとくれ。そうじゃスイ。物置に余っとる制服あるじゃろ、二人に一番小さいサイズを貸してやってくれ」
「制服って、宇宙警察本部職員の! 宇宙服の代わりになるやつだよね、やったー僕あれ欲しかったんだー!」
「貸すだけよ、後で返してよね」
スイははしゃぐショースケに綺麗に畳まれた制服を二人分手渡しました。
タカヤとショースケは物陰でそれに着替えます。
「そうじゃタカヤ、ちょっとこっち来てくれるか」
ショースケより少し早く着替え終わったタカヤは、肖造に呼ばれて研究室の奥にある資料室に入りました。
資料室の扉を内側からしっかり閉めると、肖造はタカヤの姿をまじまじと見つめます。
「ほう、制服もなかなか似合っとるじゃないか。どうした? やっぱり腕のあたりが落ち着かんか」
「はい…長袖着るとなんだかそわそわして。でも学校の制服でも着てたので大丈夫です」
タカヤは腕を触りながらへにゃりと笑いました。
「コスモピースの力も難儀じゃのお。まあタカヤなら宇宙に行くのに本当はその服も必要ないじゃろうが…他の三人が驚いてしまうからな、今回はちと我慢してくれ」
ちらりと扉の方をに目をやり、人がいないことを確認して肖造は続けます。
「本題に入らんとな。タカヤ、オンガイルゴンは知っておるよな」
「はい、惑星ミッシェルの奥地に生息しているかなり強いETですよね」
「そうじゃ。そいつらが最近何故か荒れておるらしくてな…近隣の村にも被害がでておる。そこで、ワシの作ったこの袋をオンガイルゴンの住処(すみか)の近くに置いてきてもらいたい」
肖造は緑色のリボンがついた白い小袋をタカヤに渡しました。
「袋、ですか?」
「この小袋の中身はオンガイルゴンを落ち着かせる効果がある成分を放っておる、それも超強力じゃ。頼んだぞタカヤ…おっとそうじゃ」
扉を開けようとした肖造はくるりとタカヤの方を振り返ります。
「もちろんこの仕事は特級のお前に頼んでおる。オンガイルゴンは超危険なモンスターじゃからな…くれぐれも他の三人は近づかせないように、内密に行ってくれ」
「もちろんわかってます」
タカヤは小袋を大事にエッグロケットの奥にしまいました。
「…すまんな。本当はタカヤに頼みたいわけじゃないんじゃが…お前の両親もここを離れておるし、難しい依頼がこなせる級の高い宇宙警察は多くない…ワシ自身も戦闘向きでは無いからのぉ…」
珍しく謝る肖造に、タカヤは首を横に振ります。
「いえ、お仕事任せていただけて嬉しいです。是非やらせてください、この力で出来るだけ役に立ちたいですから」
…研究室で出発の準備をしているティナは、資料室の閉じた扉をじっと見つめていました。
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「うひゃー! これがじーちゃんのUFO?」
鮮やかな青色の円盤形の機体に丸いドームのような窓が一つ付いた、絵に描いたようなUFOにショースケは興味津々です。
肖造は一番の年長者であるスイに運転の方法を教えました。
「ここのパネルのスイッチを押したら自動的に惑星ミッシェルに向かうように設定しておいた。それでは四人とも気をつけて行って来い、頼んだぞ」
UFOに乗り込んだ四人は肖造に見送られながら、広い広い宇宙へ旅立ちました。
「ここから惑星ミッシェルまではどれくらいかかるの?」
「そうかからないわよ、ワープ機能を使って三十分くらいかしら」
ショースケの質問に、スイは運転席に座ってパネルを操作しながら答えます。
「へー案外と近いんだね。そういえばタカヤ、さっきじーちゃんと何話してたの?」
「ああ、ツバサの新しい機能について話してたんだよ。こっそり増やしてショースケを驚かせたいんだってさ」
タカヤは流れるように嘘を吐きました。
「えー、何それ。じーちゃんも変なこと考えるんだから」
「ねぇねぇところでタカヤくんショースケくん。わたしたち実は二人と同じ試験で合格した同期なんだよー覚えてる?」
二人の話に割って入るように、ティナはニカリと笑って自分の顔を指さします。
「はい、覚えてますよ。試験会場にいる地球人ってだけで目立ちますから」
「え、タカヤ覚えてんの。…僕試験の記憶あんまり残ってないや、必死だったから」
「あはは、俺はショースケのことも覚えてるよ。肖造さんから話も聞いてたし」
「うーん…タカヤ余裕だったんだね。あれ? でも同期ってことは…」
ショースケはスイとティナの方を向きました。
「スイとティナも十級だよね? でもじーちゃんは十級だけではいかせられないからって…あれれ?」
「ちょっと。さりげなく呼び捨てするんじゃないわよ一応年上なんだから」
スイはじろりとショースケをにらみます。
「わたしは呼び捨てで全然いいよー! ふふふ…実はわたしたち十級じゃないんだなー」
ティナは胸につけていたバッジを外して、裏面を二人に見せました。
そこにはしっかり『九級』と書かれています。
「えええええ⁉ なんでなんで同期なのに!」
ショースケは急いで自分もバッジを外して裏を向けてみますが、悲しいかなそこには『十級』の文字が光っています。
ティナは人差し指を頬に添えてうーんと考えてから口を開きます。
「やっぱりわたしたち本部に住んでるから、お仕事の量が違うんじゃないかな。あんまり暇なときって無いもの」
ショースケがやっている時目木町の仕事は一週間呼び出しが無いこともざらにありますので、当然と言えば当然でしょう。
「ううん…なんか不公平だ…」
座席の上で膝を抱え込んで頬を膨らませているショースケの背中を、隣に座っているタカヤがぽんぽんと叩きます。
「で、でもでも! 僕らにはタカヤのコスモピースだってあるもの。きっとすぐに追い抜いて特級になっちゃうんだから!」
何か言い返さないとどうにも気が済まないのでしょう、ショースケは少し大きな声を出しました。
「コスモピース?」
スイとティナが声を揃えて尋ねます。
「すっごいんだよ! 空を飛んだり物を探したり…とにかく何だって出来ちゃうの!」
自慢げに語るショースケの横で、タカヤは顔を赤くして困っています。
「ショースケ、あんまりその話は…」
「えーなんで。あんなにすごいのに! タカヤはもっと自慢したらいいんだよ」
ショースケの話を半信半疑で聞きながら、スイは持ち込んでいた細長いクッキーのような携帯食料を二つ手に取り、一つをティナに差し出しました。
「へー…そんな力本当にあるのかしら。後で是非見せてもらいたいものだわ、ねぇティナ…ティナ?」
ティナはうつむいて考え事をしているようです。
「ティナったら。これいらないの?」
「…あ! いるいる。ごめんお姉ちゃん」
「え! 何か食べてる! いいなー僕にもちょうだいよ」
ショースケが後ろの席からぐぐっと身を乗り出しました。
「あなたたちのなんて持ってきてるわけないじゃない。二つしかないわよ」
「お姉ちゃんいじわる言わないの。ほら、わたしたちが半分こしたら四つになるじゃない」
「えぇ…もう、仕方ないわね」
スイとティナは携帯食料を二つに割って、ショースケとタカヤに渡します。
「えへへーありがとう!」
「あ、ありがとうございます!」
四人が一欠片のずつの携帯食料を大事に味わっていると、機体の壁に取り付けられた緑色のランプがピカピカと光りました。
「どうやら到着したみたいね。着陸するわよ、みんな準備して」
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どこまでも続くエメラルドグリーンの草原の上に、UFOはふわりと着陸しました。
「うわー…! ここが惑星ミッシェル…本で読んだとおり綺麗なところだね!」
ショースケが嬉しそうにぴょんぴょんジャンプすると、地面に足をつく度にでピンク色のけむりがもわもわと立ち上ります。
「ちょっとやめてよ。この辺りの土はとても軽いんだから、周りが見えにくくなるじゃない」
「えーこれぐらいいいじゃない、スイ…さんは厳しいなあ」
口を尖らせるショースケに背を向けて、スイは左手の人差し指にはめた指輪に手を触れました。
指輪にはどうやら小さくしたポスエッグが装着されているようで、スイはその水色のポスエッグの中から地図のような紙を取り出します。
「コール石が取れるのはここから右手に行ったところで…ヤワクの実が採れるのは逆の方向みたいね」
「それなら、二手に分かれて採りに行こうよ!」
ティナがにこりと笑って提案します。
「そうね、それが一番効率的かも。じゃあティナ、私たちはコール石の方に…」
スイが話し終わるよりも先に、ティナはタカヤの腕を両手でぎゅっと掴みました。
「それじゃあタカヤくん、一緒に行こうか!」
「え、え?」
ティナはスイと同じ左手の人差し指にはめられた指輪についたピンクのポスエッグから、スカイボードによく似た二人乗りの乗り物を出しました。
困惑しているタカヤの腕を無理やり引っ張って、ティナはタカヤを乗り物の後ろに乗せます。
「ちょっとティナ! コンビなんだから私と一緒でしょ⁉」
「十級と九級一人ずつの方がバランスがいいじゃない! お姉ちゃん、ショースケくんは頼んだよー!」
そう言い残して、ティナとタカヤを乗せた乗り物はヤワクの実が採れる方角へと消えて行きました。
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「ねえ待って置いていかないでー!」
ショースケは叫びますが、すでに遠く離れてしまった二人には届きません。
「全くティナは…仕方ないわね。ほら、ショースケ行くわよ」
「…僕には呼び捨てするなって言ったくせに、僕のことは呼び捨てにするんだー」
ぶつくさ言いながら、ショースケはスイの隣に並びます。
「私の方が七つくらい年上なんだからいいでしょ。…しまった、乗り物はティナが乗って行っちゃったんだっけ。ねぇショースケ何か持ってない?」
「あるにはあるけどー…」
ショースケがエッグロケットの中からスカイボードを引っ張り出してスイッチを押すと、スカイボードはぼんやり光りながら空中に少し浮かびます。
「へえ、私たちが持ってる乗り物に似てるわね」
「ティナさんが乗っていた乗り物、多分じーちゃんが作ったんでしょ? 僕のこれもじーちゃんが作ったんだから似てて当然だよ。さ、燃料がもったいないから早く乗って」
スイを後ろに乗せて、ショースケが右手のハンドルをひねるとスカイボードは空中を滑るように進み始めました。
目の前にはオレンジ色の水たまりやガラスのように照り照りした木々など、初めて見る摩訶不思議な光景が広がっています。
「ちょっと。ぐらぐらしてるわよ、運転しながらよそ見しないの」
「ごめんごめん、だってどこを見ても珍しいものばかりなんだもの。それにしても本当に綺麗なところだよね」
「そうね、この辺は美しい場所として有名よね」
「この辺は?」
ショースケは前を見たまま尋ねました。
「ここよりずーっと先に、イアル山っていう山があるの。そこはこの辺の景観とは全然違って、凄く物々しい雰囲気よ」
「あ、僕知ってるよ。超強いって有名なオンガイルゴンが住んでるところだよね…うぅ、そう言われると怖くなってきた。この辺にいたりしないかな」
ショースケが辺りをキョロキョロ見渡したので、スカイボードはまた大きくグラグラと揺れました。
「大丈夫よ。イアル山にはそこでしか採れない赤い鉱物『アズール石』があって、それがオンガイルゴンの主食なの。オンガイルゴンはアズール石が採れるところの近くに巣を作って、その近くしか行動しない習性があるからこの辺にはまず居ないわよ。…あ、見えたわね」
スイが指を差した先にはエメラルドグリーンに輝く岩場が広がっています。
「あそこで採れるのがコール石よ。さ、ぱぱっと採ってティナたちと合流しましょ」
****
「あの、ティナさん?」
「んー? なぁに、ティナでいいよー!」
運転しているティナは、タカヤの方を振り返らずに答えます。
「いえ、それは申し訳ないので…。ええと、なんで俺をこっちに連れてきたんですか?」
「それはねー、タカヤくんに聞きたいことがあったから!」
「聞きたいこと…?」
「うん! 直球で聞くね、タカヤくんって…特級宇宙警察でしょ?」
…タカヤはゴクリと唾を飲んだあと、いつも通りにこりと笑います。
「あはは、そんなわけないじゃないですか、一体どうしたんです?」
「隠さなくて大丈夫だよー。ここ惑星ミッシェルでの特級としての依頼も、博士から受けてるんでしょ? そうだなーおそらく…最近荒れてるオンガイルゴンを落ち着かせて欲しい! どう、正解?」
ティナは周囲を白い花のつぼみで囲まれた丘の上に乗り物を止めて降りると、真っ青なタカヤの顔を覗き込んで申し訳なさそうに笑いました。
「ごめんね、驚かせちゃったね。お姉ちゃんやショースケくんと一緒のままじゃタカヤくんが特級の仕事に行けないと思って連れ出したの。安心して、お姉ちゃんはこのこと知らないから」
「…どうして知ってるんですか」
「うーん、本当に偶然なの。まずはお仕事として宇宙警察の隊員情報を整理をしていたときに、今年の試験の合格者の数と新しく十級になった人の数が合わなかったの。さらに去年一人いたはずの特別宇宙警察…試験を受けずに宇宙警察の仕事を任されている人がいなくなっていることに気がついて。担当の人に聞いたら、その人は今年の試験に受かって正式に宇宙警察になったって、そしてそのすごい能力によって特級に選ばれたらしいって教えてもらったの。誰とは教えてくれなかったけどね」
ティナは乗り物をポスエッグの中にしまいながら続けます。
「その少し後だったかな。博士のコンビの…若い地球人のお兄さんが研究室を訪ねてきて。博士と話しているところにお茶とお菓子を持って行ったら…ちょうど特別宇宙警察だった人の話をしてたの」
…タカヤは何も言いません。
「そのお兄さんがね、すごく真剣に話してたから。きっと特別宇宙警察だったのはお兄さんの大切な人で、そしておそらく…地球人なんだと思ったの。地球人の今年の試験の合格者はわたしたち姉妹とタカヤくんとショースケくんだけ」
ティナがその場に屈んで近くに生えていた一つだけ黒い花のつぼみをつつくと、花が咲くと同時にポロンとピアノのような音が鳴りました。
すると周囲の白いつぼみが連鎖するように開いていき、美しいメロディーを奏でながら辺り一面は真っ白な花畑になっていきます。
「それで今日博士に一人で資料室に呼ばれたタカヤくんを見て、さらにショースケくんからコスモピースの話を聞いて確信したの。あ! 依頼のことは博士の研究室にオンガイルゴンが荒れて困ってるって書かれた紙が転がってたからそれかなって」
…小さく一つ息を吐いて、タカヤは数歩進んでティナの隣に屈みました。
「すごいですね、全部正解ですよ」
「やっぱりそっか。ごめんね、タカヤくんには話さずにこっそりサポートすることも考えたんだけど…それはそれでタカヤくんがやりにくいかなって。安心して、誰にも言わないから」
「そうですね…話していただけなかったら、バレてるんじゃないかってずっと警戒していたと思います。…俺のこと、考えてくださってありがとうございます」
タカヤがぎゅっと口角を上げて、年に似合わない、貼り付けたような笑顔を浮かべて見せるのをティナはじーっと見つめていました。
「ねえ、特級だってショースケくんにも言ってないのは博士に止められてるから?」
「はい。すごいですね、なんでもお見通しだ」
「ふふ、今のタカヤくん見てたらわかるよ。博士が止めてる理由」
検討もつかないタカヤは、きょとんとした顔を向けます。
「博士はねー、タカヤくんに子どもでいて欲しいんだよ。だってショースケくんといるときのタカヤくんはとってもかわいいもの!」
ティナはにこーっと笑ってタカヤをぎゅっと抱きしめました。
「か、かわいい…ですか⁉」
「うん! あ、もちろん今もとってもかわいいけどね?」
「ええと…ありがとうございます…?」
恥ずかしそうに腕の中で固まっているタカヤを数回よしよしと撫でた後パッと離して、ティナはシャキッと立ち上がりました。
「さて、お仕事再開しようか! 実はヤワクの実はここで採れるんだよ」
先ほどたくさん咲いた白い花の真ん中には、よく見ると黒いとげとげの実が実っています。
「これがヤワクの実…ですか?」
「そう。少し採り方が特殊でね、最初に一つだけある黒いつぼみを触らないと全部の花が開かない仕組みなの。ちゃんと事前に調べて来たんだから」
得意げにティナは笑いました。
「確かに、これは知らなかったら採れないですね。ティナさん、ありがとうございます」
屈んだまま花を見ているタカヤの背中を、ティナは押し出すようにポンと叩きます。
「ほら! ここはわたしに任せて、タカヤくんは特級のお仕事に行っておいで! くれぐれも気をつけてねー」
「いいんですか?」
「うん。ヤワクの実も十個くらい採れば十分だから、わたし一人で大丈夫だよ! ほら、急がないとお姉ちゃんたちがコール石を採って戻ってきちゃうよ! 行った行った!」
「は、はい! ありがとうございます!」
タカヤはコスモピースの力を解放して両目を禍々しく輝かせると、目にも止まらぬスピードで飛んでいきました。
「ひゃー…あんなにすごいんだ! わたしたち本当に抜かされちゃうかもだから頑張らないとなぁ」
タカヤが見えなくなった後もしばらく大きく手を振ってから、ティナはもう一度屈んでヤワクの実を一つずつ採取し始めました。
…その様子を遠くの草むらから眺める、大きな赤い瞳が一つありました。
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