5.ベースカーニバル
「ちょっとあんた!ガバチョの散歩早く行ってやってよ!」と妻のミユキ。
休みの朝、パジャマ姿でのんびりくつろいでいる俺に向かって掃除機をかけながら何故かミユキは機嫌が悪い。
庭を見るとガバチョがクンクンと鳴きながらサッシのガラスを前足でドンドンと叩き散歩をねだっている。
やれやれと思いながら新聞をたたみ、綿シャツとチノパンに着替えてガバチョを連れて外へ出る。
ガバチョは単なる雑種犬で知り合いから子犬の時に譲り受けた。今年でもう5歳になる。
子供がいない俺達夫婦にとってガバチョは子供みたいに可愛い存在なのだが毎日の散歩だけはさすがに面倒である。
道の脇でガバチョのフンを始末していると、突然上空にジェット機の爆音が響きわたる。
尾翼にドラえもんのペイント。ヨシミツだ。
機体を反転させたり急上昇したり、また宙返りをしてみたりと随分派手に飛び回っている。
ガバチョが先へ急ごうとするのでフンの始末を終え先へと進む。
100メートルくらい先へ進んだ所でガバチョが随分熱心に電柱に興味を示し、なかなか動こうとしないので再び空を見上げる。
ヨシミツはまだあちこち行ったり来たりしながら俺の頭上を飛んでいる。
騒音問題や万が一の事があったらいけないので明日、住宅地では長時間飛ぶなとヨシミツに注意してやろうと思っていたら突然ポケットのスマホがドラえもんの着メロを奏で始める。
俺のスマホは誰からかかってきたのかすぐにわかるよう着メロを設定してあるのだが、ドラえもんの着メロの主はヨシミツである。
だがヨシミツは上空を飛んでいる。
「あれっ!おかしいなー、壊れたのかなー?」と思いながら通話ボタンを押し電話に出る。
「隊長!見えますかー!」とヨシミツの声。
「はあっ?お前今、どこにいるんだ?」と俺。頭が半分混乱している。
「隊長の家の上あたりを飛んでいるんですけどわかります?」と何だかうれしそうな声のヨシミツ。
「おっ!お前!操縦しながら携帯で電話してるのか!?あぶないからやめろ!このバカ!」と俺はあわててヨシミツの機体を目で追う。
ヨシミツは自慢げに「隊長、知らないんですか?ハンズフリーってやつですよ。だから大丈夫、片手運転してませんから…」と言いながら機体をロールさせる。
「おいっ!コラ!」と言う俺の言葉を無視して
「隊長、見て下さい。新しいミサイル回避法をあみ出したんですよ」とヨシミツは機体を急上昇させる。
「おい!ヨシミツ!話があるから今すぐ基地へもどれ!このションベンちびりが!」とスマホに向かって叫び電話を切る。
ちょうど近くを通りかかった女子高生集団が今の俺の叫び声を聞いてクスクスと笑っている。
俺は急に興奮が冷め、かっこわるいので笑ってごまかしながらガバチョを強引に引き連れ家へと急ぐ。
「ちょっと基地へ行ってくる!」と家に戻った俺はミユキに声をかけ机の上にある車のキーを手にとる。
「ちょうどよかったわ!あんたが居ると家の中片づかないのよねー」とミユキ。
俺はそんなミユキを横目でにらみながら車庫に置いてあるスズキアルトに乗り込む。
基地の駐車場に車を止める。ヨシミツはもう戻ってきているようだ。
建物の間からドラえもんの尾翼がひょっこりのぞいている。
待機所の扉を少し乱暴に開け中に入る。ヨシミツはのんきにジュースを飲みながらテレビを観て笑っている。
「おい!ヨシミツ!!」と言う俺のでかい声にヨシミツは飛び上がる。
それから30分ほど飛行中に携帯電話は使うなとか長時間住宅地の上を飛び回るなとか、
そしてお前のおかげで女子高生に笑われ恥をかいた事などを延々とヨシミツに説教してやる。
ヨシミツがお詫びに三河屋の刺身定食をおごると言うのでとりあえず和解が成立した。
ちょうど昼時なのでヨシミツを車に乗せ三河屋へと向かう。
長野県は海がないのでなかなか新鮮な刺身を食べることができないが、この三河屋だけは刺身がうまいと近所でも評判の店だ。
待望の刺身定食がやっと出され、わさびを醤油に溶かしさあ食べようと思ったところへ
「よお!テツヤ君!来てたのか!」と言う声。
見ると中野市助役の義父が数名の背広集団を引き連れ店内に入ってくる。
義父はその背広集団を俺の方へ呼び寄せると
「これが我が中野市の英雄スカイウォーカーダイジュのシマタニ隊長だ。米軍のパイロットを助けた話はテレビで観て知っているだろ?私のむすめ婿でもあるんだよ」と自慢げに俺を背広集団に紹介する。
背広集団の人たちが「ほおー!あなたが!」「すごい活躍でしたね!」と次々に握手を求めてくるものだから刺身定食を食べるひまがない。
ヨシミツはそんな俺の状況などおかまいなしに目の前でうまそうに刺身定食を堪能している。
「テツヤ君。ちょっと今夜大事な話があるんだがいいかね?」と義父は一方的に言い残し店の奥へと消えていった。
その夜、食事も終わり焼酎のお湯割りを飲みながらくつろいでいると
「テツヤ君、そんな物よりこれでも飲まないか?」と義父がレミーマルタンのXOを棚から取り出し俺に見せる。
俺はイヤな予感がしたので「結構です!」と言いながらリビングを出ようとすると
義父はあわてて「おい!おい!ちょっと!ちょっと!」と俺の腕を掴んでソファへ引き戻す。
「なあテツヤ君。少し相談があるんだが…」と義父。
ブランデーグラスを俺に手渡しレミーマルタンを注ぐ。
特別な日のためにと義父が大事にとっておいたブランデーをあっさりと開けてしまうところは何とも怪しい。
「今日私が三河屋へ案内したあの方たちはな、滋賀県からわざわざ我が中野市を視察に見えたんだよ」と義父。
「そうですか」とそっけない返事をしながら俺はグラスを傾けブランデーを口に含む。
さすが高級ブランデーだけあって、たまに飲んでいるコンビニのブランデーとは雲泥の差だ。
ブランデーの入ったグラスを軽く回しながら「それでな、来月君のところでやる基地祭にあの方たちを招待したんだ」と義父。
義父の言うとおり毎年秋に俺達の中野基地では基地祭といって一日基地を市民に開放し、基地の内部を見せたり航空機などを展示して基地を身近に感じてもらおうという試みをしている。
航空自衛隊がやっている航空祭みたいなものだ。
「それで何か?」と俺に少し緊張が走る。
と言うのもこのような状況で義父に相談を受けた時、ろくな試しにあったことがないからだ。
「それでな」とブランデーをひとくち口に含むと
「基地祭では何をやるんだとあの方たちに聞かれたんだよ」
とグラスをテーブルに置きながら義父が続ける。
「何をやるって、基地内部の公開や航空機の展示、それと商店街の屋台でしょ」と俺。
「私もそれを言ったんだがアクロバット飛行はやらないのかと聞かれたんだよ」と義父。
俺はあわてて「そっ!それで何て答えたんですか!?」と身を乗り出す。
「自衛隊でもやるくらいだから彼らなら軽いものでしょうと言ってやったよ」と軽く笑いながら義父はグラスを再び手にとる。
俺はブランデーを一気に飲み干し
「冗談じゃないですよ!自衛隊のブルーインパルスはアクロバットばかりを専門にやっている航空団で、しかも機種は中等練習機ですよ!それに比べ俺達はアクロバット経験なしの戦術航空団で機種は大型戦闘機のFー15です。できるわけがないでしょう!」と義父に詰め寄る。
義父は俺の迫力に驚いた様子で目をパチクリしながら「でも、言ってしまったんだから何とかならんかね?そのほうが市民の方々も喜ぶだろうし…」とアクロバットが、いかに危険な事かを全く理解していない。
「何ともなりませんよ!」と強い口調で義父に言い残し俺はリビングを出た。
翌日の午後、青果売場で大根を並べていると「テツヤちょっとこっちへ来てくれ」とゴキがバックヤードへ俺を誘う。
「これを見てくれ」とゴキはA4の紙にプリントされた数枚の資料を俺に手渡す。
見ると表紙には「中野基地祭に関する要望書」とあり、下の方には中野市と印刷されている。
資料を見ながら何枚かめくっていくと「スカイウォーカーダイジュによるアクロバット飛行の提案」という文字が目に飛び込み思わずズッコケかける。
「お義父さんの仕業だなー!」と怒りながら資料を読んでいると
「なあ、アクロバットはできそうか?」とゴキ。
「無理ですよ!」と俺は読みかけの資料をゴキに突き返す。
「Fー15でやるのは難しいと思うがデモンストレーションでもいいから何とかならんだろうか?」とゴキも困った様子だ。
さすがのゴキもFー15でアクロバットをやるのは相当危険と感じているようだ。あまりゴキを困らせるのも可哀想なので
「じゃあ、隊のメンバーに一応意見を聞いておきますよ。たぶんダメだと思うけど…」と言いながら俺は大根売場に戻った。
夕方、隊員たちを基地の待機所に集め、要望書の資料をタカシに手渡す。
「タカシ、どうだ?資料を見た感想は?」と聞いてみる。
「アクロバット飛行か…おもしろそうじゃねえか!」とタカシ。
「おっおい!タカシ!」と言う俺をはねのけて
「えーっ!アクロバット飛行!やろ!やろ!」とシズコが資料をのぞき込んでいる。
「隊長、まさかアクロバットごときでビビってるんじゃないでしょうね?」とヨシミツ。
俺は言葉につまり「ばっ!ばかやろう!何言ってやがる!」としか言えなかった。
結局、全会一致で俺の意見を言う暇もなく一瞬にしてアクロバット飛行をやる事が決まってしまった。
「隊長!見て下さい!こんな技なんかどうです?」とヨシミツ。
機体を小刻みに90度ずつロールさせ一回転してみせる。
自衛隊からの出動要請の帰路、あたりはもうすっかり暗くなっている。
「暗くてよくわからん。バカなことやっていて俺にぶつかるんじゃないぞ!」と俺。
「大丈夫ですよ!ほら!こんな事も平気ですから…」とヨシミツ。機体を上下裏返しにして背面飛行をしている。
「何だか今年の基地祭はアクロバットで盛り上がりそうですね!今からワクワクするなあ」とヨシミツは随分張り切っている。
基地に戻り待機所へ入る。タカシがコーヒーを飲みながらテレビを観ている。
「よお!お疲れ!」とタカシ。俺より先に着陸したヨシミツはテレビのお笑いシーンを観ながらバカみたいな顔をして笑っている。
「ヨシミツ!デブリーフィングやるぞ!」と俺。
デブリーフィングとは飛行の後の反省会みたいなものだ。
「隊長!このコーナーが終わるまで待って下さいよ!」とテレビの前であせるヨシミツ。
仕方がないのでタカシの横に座り、
「なあタカシ、どうしてアクロバットなんかに賛成したんだ?
俺達みたいな航空団がアクロバットをやるのは、凄く危険な事だっていうのお前だってよくわかってるだろ?」と俺。
タカシはしばらく考えたあと「それはな」と切り出す。
ヨシミツがいるせいか何だか話づらそうなので
「外へ出ようか?」と言ってタカシをハンガーに連れ出す。
どうやらタカシがアクロバットに賛成したのはタカシの二人の娘達に関係があるらしい。
「上の娘は中学1年だし、下の娘ももう来年には小学5年生になる。最近二人と接する機会もあまりなくてな」とタカシ。
「それとアクロバットとどういう関係があるんだよ?」と俺。
「だから何か父親の威厳というか貫録というものを見せたいと思っていた所へアクロバットの話が出たんだよ」
と言いながらタカシは自分の機体に向かって歩き出す。
タカシの後を歩きながら
「娘達の前でかっこいい父親を見せたいってわけか…」と俺。
「まあな」とタカシ。
「だが娘達もそろそろ年頃だ。そんなことで喜ばないかもしれないけどな」とタカシは笑いながら続ける。
しばらくの間沈黙が続いたあと
「よしわかった!」と俺。タカシの肩をパン!と叩く。
「しょうがないから俺が一丁、タカシと娘の未来のために一肌脱いでやるよ!」とフライトスーツの袖をまくって見せる。
タカシは照れくさそうに笑っている。
俺のアクロバットへの迷いもこれで少しは吹き飛んだような気がした。
「ヨシミツ!離れすぎてるぞ!もっと近くへ寄せろ!」と無線で怒鳴る。
「これ以上寄せたら危ないですよ隊長!」とおびえた声でヨシミツ。
「危ないっていうのはこれくらい寄せてから言え!」とヨシミツの機体に自分の翼をグッと近づける。
「うわっ!ギエー!」とヨシミツは人間以外の動物が発するような声をあげている。
「フォーメーションくらいで何びびってやがる!先日までの勢いはどうした!」と再びヨシミツを叱りとばす。
本番まで約一ヶ月、まずは基本となるフォーメーションの訓練に入った。
フォーメーションとは俺を先頭にひし形の編隊を組んで飛ぶ、アクロバットの基本中の基本だ。
俺の左後ろにはタカシ、右後ろにヨシミツ、そして最後尾にシズコという編隊で日本海上空を飛んでいる。
お互いの翼の間隔は数メートルしかなく、ちょっとでも気を抜けば翼が接触してすぐあの世行きである。
「シズコ!調子はどうだ?」と最後尾にいるシズコに声をかける。
「乱気流がすごくて大変です!あまり話しかけないで下さい!」と怒った口調でシズコ。
シズコのいる最後尾は俺やタカシ、そしてヨシミツの機体が作った乱気流の中を飛ばなければならない。
4機の中でもいちばん難しいポジションだ。シズコの機嫌が悪いのも仕方ない。
一時間ほどの訓練を終え基地に戻る。
待機所に入ってくるなり「たいちょー!!」とシズコは急にデカイ声を張り上げる。
中にいた俺達はビックリしてコーヒーを吹き出す。
整備長のタナカさんは買ったばかりの紙コップに入ったジュースを床に全部こぼしてしまった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」とあわてて俺。
「もう最後尾はイヤです!いちばん難しい所なのにいちばん目立たないし…」と半泣きでシズコ。
俺はシズコを奥へ呼び寄せ「最後尾を飛べる技術があるのはお前しかいないんだ。この事はタカシやヨシミツに聞かれると気を悪くするから内緒にしておいてくれよ」と耳打ちしながら上手にシズコをおだててみる。
「じゃあ今夜、何かおごってくれたら考え直してもいいですけど!」と急に機嫌を直し、デカい声でシズコ。
それを聞きつけたタカシとヨシミツ、おまけに整備長のタナカさんまでもが
「何だ?何だ?今夜どこかでおごってくれるのか?」
と言いながら俺に近寄ってきた。
「いらっしゃいませー」と言う声と共に店へと入る。
シズコの要望でこの近所でも珍しい洋風居酒屋へと俺達は連れてこられた。
店内は中二階のデッキが設けてあったり、たくさんの観葉植物や天井で回るシーリングファンがあったりとオリエンタルな雰囲気をかもし出している。
ただでさえ俺は自分でも場違いな所だと感じているのに、竹内力に似た顔で作業ズボンとTシャツ姿のタナカさんは完全に孤立してしまっている。
中二階のテーブルに案内され、席に着くなりタナカさんは店員に向かって「生大一丁!」とデカイ声。
いかの塩辛やほっけの塩焼きなど、この店には絶対になさそうなメニューを次々と店員に注文している。
困り果てた店員がそのような物は当店では置いておりませんと言うような事を言ったら
「じゃあこの店はいったい何を食わせるんだ!」と人のおごりで来ているのにもかかわらずタナカさんはずいぶん態度がデカイ。
「タナカさん、わたしにまかせて!」とメニューを見ながらシズコ。
ピザやパスタ、フライドポテトなどのオーソドックスなメニューから聞いたことのない名前の料理まで、シズコは手際よく店員に注文する。
注文したドリンクがテーブルに届き、タカシと他愛もない話をしながら飲んでいると
「ハーイ、シズコ!」という声。
見ると茶髪でボディコン系の服を着た、いかにも夜の街に似合いそうな女の子3人組が少し離れた所からシズコに声をかけている。
「今日は何の集まり?」とその中の一人。
「今日は会社の人たちと飲みにきたの」とシズコ。
会社の人呼ばわりされた俺とタカシとヨシミツは、なんとも情けない表情でその3人に愛想を振りまく。
それから数分の間にホストのような男4人組やディスコクラブに居そうな男女10人ぐらいのグループなどが次から次へとシズコに声をかけていく。
「お前、普段なにやってんだよ?」とシズコに向かって俺。
「みんな友達だよ!合コンやパーティーで知り合ったの」とあっけらかんとした顔でシズコ。
俺はそんなシズコに返す言葉が見つからず、パスタの皿に手を伸ばそうとしながらふと隣を見ると、タナカさんがピザカッターでピザを必死に四角く切っているのでつい笑ってしまう。
そんなタナカさんの手つきを横目で笑いながら見ていると、
「隊長!今回のアクロバットのテーマ考えましょうよ」とヨシミツ。
「テーマって何だ?」と俺。
「ほら、新体操とかシンクロなんかがよくアジアや日本の伝統をイメージしたなんて言ってるでしょ。それですよ」
とヨシミツはフライドポテトを一口かじる。
「シンクロかー!」と急に思い立ったようにシズコ。
「ねえねえ!音楽に合わせて飛行機で踊るなんてどう?おもしろそうじゃない?」とシズコは目をまん丸に見開いている。
「バカかお前は!F−15でツイストやジルバを踊ろうってのか!」とタナカさん。
踊りのたとえが何だか古い。
「でも70〜80年代くらいのディスコミュージックなんか合いそうじゃないか?俺、家に残っているレコードを一度調べてみるよ!」とタカシも随分乗り気だ。
「いいでしょ!たいちょー!」とシズコは身を乗り出して俺に聞いてくる。
タカシとヨシミツも半分身を乗り出して俺を見ているのでダメとは到底言えそうにもない。
「ミュージックスタート!」とタカシ。
タカシのF−15に積まれたカセットプレイヤーから70年代にヒットしたABBAのDancing Queenが流れ、それが無線を通して俺の耳にも聞こえてくる。
事前にタカシが振り付けと言うようなものを考えてきたらしく、今日の飛行前に行うブリーフィングは、ほとんどがその振り付けの説明に費やされた。
イントロの部分はこういう動きでサビに入ったらこうやるなど、音楽を流しながらタカシがF−15の模型を使ってずいぶん詳しく説明してくれたが、いざ空の上でやってみると全く思うようにならない。
「テツヤ!リズムに乗ってないぞ!」
「ヨシミツ!動きが遅い!」などタカシに怒鳴られながらなんとか一曲が終了。
「よし!もう一回やるぞ!テープを巻き戻すからちょっと待ってくれ」とタカシ。
それを聞いたヨシミツがタカシに向かって
「ハギワラさん!カセットテープなんて今どき古いですよ!せめてCDかMDにして下さいよ!」と無線越しに話しているのが聞こえる。
「この音源はカセットテープしか持ってないんだよ!我慢しろ!」とタカシ。
俺としてはテープを巻き戻す間休憩できるので、カセットテープでやる方がいいと思う。
結局、一時間ほどの訓練時間を全部、振り付けの練習に使ってしまった。
基地へ戻る間中、ABBAのDancing Queenが耳に残り頭から離れなかった。
本番まで約二週間、結局タカシのDancing Queenの他に俺とヨシミツ、そしてシズコの提案した三曲が追加され、計四曲でアクロバットの演技をやることになっていた。
午後の訓練前、機体の点検をしようとハンガーに立ち寄ると整備長のタナカさんたちが俺達の機体の後部に何やら不可思議な物を取り付けている。
「おうテツヤ!見ろよこれ!」とタナカさん。
「俺が作ったスモーク発生装置だ。緊急時には簡単に取り外せて戦闘に支障がないようにしてある」と自慢げにその装置を説明する。
スモーク発生装置とは通常機体の後部に取り付けられて、空で煙を掃き出しながら飛ぶ、アクロバットには欠かせない演出道具だ。
最初は俺と同様、アクロバットに否定的だったタナカさんだが最近は随分協力してくれている。
そこへ「基地祭の追加ポスターが刷り上がったぞ!」と言う声。
見るとゴキがやたらうれしそうな顔をしながらこちらに近づいてくる。
「どうだ!俺がデザインしてみたんだ」と言いながらゴキはポスターを広げて見せる。
それを見た俺達は一斉にズッこける。
メインとなる中野基地祭の文字に変わって「ナカノベースカーニバル」というデカイ文字が入れられ、その下にスカイウォーカーダイジュによるアクロバット飛行「シンクロ・ナイズド・フライング」と描かれている。
「フライングだなんてかっこわるー!」と頭を抱える者や
「カーニバルよりフェスティバルの方が正しいんじゃないですか!」
とゴキに詰め寄る者まで評判はものすごく悪い。
整備長のタナカさんも
「もうちょっとマシなネーミングはなかったのか!どういうセンスしとるんだ。あんたは!」とずいぶん怒っている。
だが刷り上がってしまった物はもうどうにもならず、結局先に作ったポスターと共に街の至る所にそのポスターは貼り出される事になった。
「あんたたち戦闘機でシンクロやるつもりなの?」と夕食のトンカツにソースをかけている俺に向かって妻のミユキ。
「そうだよ」と俺。
トンカツをひと切れ口に入れ、ご飯をかきこむ。
「どんなことやるのー?あんたちゃんとできるの?」とミユキは千切りにしたキャベツを食べながら俺の顔を見てニヤニヤ笑っている。
「お前、今年は見に来るか?」と俺。
「行けるわけないでしょ!」とミユキ。
「日曜日は一週間でいちばん店が忙しい日なんだから…」と言いながら漬け物をほおばる。
ミユキは喫茶店をやっているせいか今まで一度も基地祭に来たことがない。
「今年は誰かに店番をたのんで見に来いよ」と言う俺に向かって
「そんなの無理に決まってるでしょ。何言ってるの?」と簡単にかわされた。
それを聞いていた義母が
「私はテツヤさんのシンクロ見てみたいわー。ねえ!今年はお店休んで見に行きましょうよ!」
とミユキに話しかける。
「そんなのダメよ!母さんも店に出てもらわないと困るからね!」と言いながらミユキは食べ終わった皿を片づけ始めた。
本番まで一週間、このところアクロバットの練習が忙しく、スーパーの仕事をする時間があまりない。
「よし!あとは頼んだよ!」と言いながら青果のバックヤードから出ていこうとする俺に向かって
「チーフ!シンクロの練習がんばってね!本番楽しみにしてるよ!」とパートのイシヅカさん。
ゴキのデザインしたポスターが街に貼り出されてからアクロバットがいつの間にかシンクロという名前に変わってしまった。
基地を離陸し日本海上空へと向かう。
「スモーク!」と言う俺の合図と共に横に並んだ4機から一斉に色とりどりの煙が日本海上空に掃き出される。
俺が緑でタカシが黄色、ヨシミツが青でシズコが赤といった具合だ。
旋回して自分たちの描いたシュプールを確認する。
「なんか配色が変じゃないですかあ?」とヨシミツ。
シズコも「黄色と青を入れ換えたほうがいいかも」と掃き出された煙を見ながら言っている。
その時基地から無線が入る。
「テツヤ!大変な事になった!すぐ基地へ戻ってきてくれ!」と無線の向こうからゴキ。
「何ですか?出動要請ですか?」と俺。
ゴキは「そうじゃないが、とにかく大変なんだ!すぐに戻ってきてくれ!」とずいぶんあせっている。
仕方がないので訓練を途中で切り上げ、基地への帰還に入る。
滑走路に着陸し誘導路を抜け駐機所へと入っていく。ゴキはすでに駐機所で俺を待ちかまえている。
機体を停止させ風防を開けたとたん
「大変だテツヤ!天皇皇后両陛下が今度の基地祭へ視察に来られる事になった!」とゴキ。
「何だって!」と俺。あわててヘルメットを脱ぐ。
あとで駐機場に入ってきたタカシたちも俺とゴキのただならぬ表情を見て
「どうした!」「何かあったんですか!」と言いながら急いで機体を降り俺達に向かって走ってくる。
本番まで三日、街は天皇皇后両陛下の歓迎ムード一色に染まっている。
街路樹がきれいに刈りそろえられ、道路も清掃が行き届き、ずいぶんきれいになった。
俺達の中野基地も入り口や通路など目立つ所だけはとりあえずきれいにした。
本番に向け機体の清掃をしていると
「よお、テツヤ君!」と言う声。
見ると中野市助役の義父が市長とうちの会社の社長、それに部下らしき人たち数人と一緒に、少し離れた所からこちらを見ている。
うちの社長が「テツヤ、天皇皇后両陛下が見えるのに伴い、たくさんの報道陣やテレビカメラなどもやって来る。くれぐれも失敗のないようにな」と失敗したら命がない俺達に向かって笑いながら言っている。
俺はそんな社長に少しむかつき何かひとこと言おうとしたら
「おい!そんなこと言わなくたってテツヤ君は十分わかっているぞ!いつも余計な一言が多いんだよお前は!」と義父が俺の気持ちを代弁してくれる。
実は、うちの社長と義父は小学校からの同級生で、俺はよくコネでスーパーに就職したのかとか、社長の紹介でミユキと結婚したのかなどと聞かれるが、これは全くの偶然である。
「で、今日は何の用ですか?」と俺。
「実は…」と市長。
台車に乗った数個の大きな段ボールの中から何やら取り出してみせる。
「これを機体のどこかに貼り付けて欲しいのだが…」と市長は巨大なステッカーらしき物を俺に見せる。
近づいてよく見ると【ようこそ自然と文化の町、中野市へ】という文字。
唖然としている俺に追い打ちをかけるように社長が
「今回の基地祭に協賛して下さった方々のステッカーだ。これも必ず貼り付けておいてくれよ」
と段ボールから束になったステッカーを俺に手渡す。
色とりどりのステッカーには【近藤建設】やら【池田豆腐店】【さかもと木工製作所】などの文字が描かれ、中には【柳田吾平】や【川上栄一】などの個人名もある。
「マジっすか!これ!」と思わず俺。
「基地祭の日だけでいいからよろしく頼むよ」と義父。
大量のステッカーを手に呆然としている俺に背を向け、全員、管理棟の方へと去っていった。
「これ、どこに貼るんだよ!」
俺に向かって【遊びにきてね!クラブ セクシーナイト】と描かれたステッカーを見せながらタカシが叫んでいる。
本番前日、最終訓練を終えた俺達は明日の準備のため、機体に大量のステッカーを貼る作業をしている。
「隊長!これも貼るんですか?!」とヨシミツ。
シズコも「えー!こんなのヤダー!」と現場は騒然としている。
俺が尾翼に【立松建材】のステッカーを貼っているところへ「これも貼ってくれないか!」とゴキの声。
見ると【本日スーパーダイジュはお肉半額セール】と手書きで描かれたステッカーを手に、ゴキが笑いながら立っている。
俺達四人が凄い形相でにらみ返すとゴキは何も言わず、あわててその場を離れていった。
とりあえずステッカーを全て貼り終わり機体全体を見回してみる。
ステッカーで外板がほとんど見えなくなってしまった機体を見て
「これが全部メジャーなスポンサーだったらすごい金になりそうだな」とタカシ。
俺もそれを聞いてタカシと顔を見合わせ苦笑する。
待機所へ戻ってくるなり俺たち4人は「ワー!!」と一斉に歓声を受ける。
見ると所狭しと果物の盛り合わせやビール、日本酒などのアルコール類が置かれ、それに刺身や寿司などもテーブルいっぱいに並べられている。
「これどうしたんですか!?」と俺はそこにいたゴキに聞いてみる。
「基地祭に協賛して下さった方々から天皇皇后両陛下視察のお祝いにいただいたんだ。
さあ遠慮なく食べてくれ」と明日アクロバットを控えた俺たちにビールや日本酒などを勧める。
躊躇している俺たちに向かって
「せっかくだから一杯くらいどうだ」とタナカさん。
仕方なく勧められるまま席に座り手に持った紙コップにビールを注いでもらう。
俺は喉が乾いていたので思わず一気に紙コップのビールを飲み干してしまった。
「おおっ!いい飲みっぷりじゃないかテツヤ!どんどん飲れ」とすかさずタナカさんはビールをつぎ足す。
そんなことを繰り返しているといつの間にかスーパーの仕事を終えた連中も加わり、カセットコンロで店の売れ残った肉を焼き始める奴やら、カラオケマシンを持ち込んで歌い出す奴が出てくるわでその場は一大宴会場と化してしまった。
明日の事は気にかかるも大量のご馳走とアルコールに理性は吹き飛び、結局深夜まで飲み食いして
みんなで大騒ぎしてしまった。
本番当日、「パ、パーン!」と打ち出される花火を目で追いながら空を見上げる。
風はほとんどなく雲一つない絶好のコンディション。
昨夜遅くまで騒いでいたためか太陽の光が一段と眩しい。
結局昨夜は家に帰れず宿直室で大勢の人間と雑魚寝になってしまった。
「隊長、体の方は大丈夫ですか?」と俺の隣でいっしょに空を見上げているヨシミツの目は
真っ赤に充血している。
そこへ「よお!」と昨夜コップ一杯のビールでぶっ倒れたタカシが首筋をさすりながら俺たちに
近づいてくる。
シズコはといえば、どこで見つけたのか懐かしいゲイラカイトを手に持ち、そこらの子供たちと
キャーキャー元気に走り回っている。
そこへ「テツヤ!」という声。
ゴキがこちらへ小走りで向かってくる。
「綿菓子の屋台に人が欲しいんだ。整備隊の連中が戻ってくるまで店番を頼めないか?」
と息を切らしている。
「ああ、いいですよ」と俺。
「じゃあタカシはテツヤといっしょに店番を頼む。
ヨシミツとシズコはたこ焼きの屋台が忙しいんでそちらを頼む」と慌ただしく言い残しその場を走り去っていった。
「おい、全然売れねえな」とタカシ。
斜め前のたこ焼きの屋台はずいぶん盛況で、ヨシミツとシズコも忙しそうに働いている。
それに比べ俺たち綿菓子の屋台はさっぱりで、たまに通りかかった子供が母親などにねだると
「もっといいもの買ってあげるから我慢しなさい!」と言われてしまっているようなありさまである。
あまりにも暇なので屋台のテントの中でタカシとしゃがんで休憩していると
「綿菓子ひとつ下さい」と言う声。
タカシと張り切って
「らっしゃいー!」と一斉に立ち上がると、何とそこには怒った顔のミユキの姿が…
「おっ!お前、店はどうしたんだ?」と少しあせりながら俺。
「見に来いって言うから無理して休んで来てあげたのに、そんなところでサボってるなんてどういう事よ。それに昨日は何の連絡もなしで一晩帰って来ないし…」とミユキ。
「それは…なあ?…」とタカシの方を向き同意を求める。
「ハギワラさんの奥さんが電話で知らせてくれたからよかったようなものだけど、何か一言連絡くらいしなさいよ!」と言ったあとミユキはタカシに向かって丁寧に頭を下げてお礼を言っている。
ミユキの後ろで笑っていた義母が
「まあ、たまの事だからいいじゃないの。さあ行きましょ!」
とミユキの腕を引っ張りながら
「テツヤさん、シンクロ楽しみにしてるわよ!」と言い残し奥の方へ歩いていった。
「あっ!ミユキ!綿菓子買っていかないのか?」と叫ぶ俺を見ながらタカシがニヤニヤと笑っている。
ミユキには振り向きざま「アカンベー」をされた。
「おまえは相変わらず無精だな。仕事が仕事だけに家族へはマメに連絡してやらないと心配するぜ」とタバコに火を点けながらタカシ。
「わかってるよ!」とぶっきらぼうに言いながら俺はタカシのタバコから一本たかる。
もらったタバコに火を点けようとしていると
「お父さんここで何やってるの?」と子供の声。
見るとタカシの下の娘、そして上の娘と奥さんが屋台の前で立っている。
「ゴホッ!ゴホッ!」と急にタカシはタバコの煙でむせ返る。
「お父さん今日、アクロバット見せてやるからって言ってたけど今年も綿菓子売ってるの?」と上の娘。
俺はすかさず「アクロバットは午後にやるんだ。午前中は機体の整備をやっているから整備をしている人たちの代わりにお父さんと俺で店番をしているってわけさ」とその場をとりつくろう。
「ふーん」と言いながら「お父さん、綿菓子一本ちょうだい」と下の娘。
「二本入って一袋300円だから一本じゃ売れねえなあ」とタカシ。
俺は「綿菓子くらいでカッコつけてんじゃねえよ!早く作ってやれよ!」とタカシに綿菓子の棒を手渡す。
「しょうがねえなあ」などとうれしそうに言いながらタカシは機械のスイッチを入れ、
ひとすくいのザラメを機械中央の穴に入れる。
フワーっと穴の周りに綿菓子が浮かび上がる。それをタカシは棒の先に器用にまとめていく。
俺たちは毎年のように綿菓子を作っているから手慣れたものだが素人ではなかなかこうはいかない。
細長い形になってしまったり、先の方だけにまとまってしまったりと結構むずかしい。
手に持った棒を回転させながら手早く綿菓子を巻き取るのがコツだ。
そうすればフワッと丸い形に仕上がる。
「あいよ!」とタカシ。
出来上がった綿菓子を娘に手渡す。
「二本で300円だから一本なら180円だな」とタカシは適当に値段を付けている。
「いいじゃないかタカシ、自分の娘に綿菓子一本くらい買ってやれよ」と俺。
それを聞いたのか聞かなかったのか娘たちは綿菓子を二人で取り合いながら
俺たちにウンともスンとも言わず奥の方へ走り去って行った。
さすがに奥さんだけは俺に軽く会釈して娘たちの後を追いその場を立ち去っていく。
「まったくしょうがない奴らだなあ」と娘の後ろ姿を見ながらタカシ。
「あれくらいの年頃はみんなあんなもんじゃないのか?」と俺がタカシに言っていると
「シマタニさん、ハギワラさん!ハンガーで何かもめごとがあったみたいですよ!」と
整備隊の連中が駆け込んでくる。
「一体どうしたんだ?」とタカシ。
「僕たちが代わりますからとにかく早く行って下さい!」とその中の一人。
「わかった!じゃあ後は頼むぞ!」とそいつらに言い残し俺たちは急いで屋台のテントを飛び出しハンガーに向かって走り出した。
「これじゃあ困りますよ!」とハンガーに着くなり大きな声が耳に入る。
見ると大きなテレビカメラを抱えたひげ面の男が市長に詰め寄っている。
ひげ面の男のみならず、周りには何十人という報道関係者とおぼしき人間が市長や義父である助役、そしてうちの社長らを取り囲んでいる。
「どうにかして下さい!」「どうしてこんな事したんですか!?」とまるで一大不祥事をやらかした国会議員などに記者やレポーターなどが問いつめているような惨状である。
その様子を少し離れた所から整備長のタナカさんが笑いながら見ていたので事情を聞きに行く。
「あれだよ、あれ!」とタナカさん。
ハンガーに収められている機体を指さす。
「あのコテコテに貼られたステッカーじゃみっともなくて撮れないって苦情殺到さ!」
とタナカさんは大笑いしている。
「貼り方にセンスがなかったんですかね!」といつのまにやら後ろにいたヨシミツが真剣な顔で
ピントはずれな事を言っている。
「バカかお前は!!貼り付けたステッカーが多すぎるから問題になっているんじゃねか!」
とバカなヨシミツにわざわざ教えてやる親切なタカシ。
結局、昨日に苦労して貼り付けた大量のステッカーは全部撤去することに決まってしまった。
「早くしろ!もう時間がないぞ!」とタナカさん。
俺とタカシ、ヨシミツとシズコ、そして手の空いている整備隊と管理隊の人間を総動員してステッカーの撤去作業が始まった。
「昨日の苦労はいったい何だったんだよ!」とタカシ。
「こんなんじゃ苦情が出ると最初から思っていたわよ!」とシズコ。
みんなブツブツ文句を言いながら必死になってステッカーをはがしている。
そこへ急に外から「ワー!!」と言う大きな歓声。
驚いてハンガーの中から外を見ると黒い車の車列が基地の中に入ってくる。
「あっ!天皇陛下だ!」とシズコは上っていた脚立から急に飛び降り、車列の方に走っていく。
「おい!コラ!」と言う俺の声など全くおかまいなしにシズコは車列がよく見える位置まで走っていくとこちらに向かってピョンピョン飛び跳ねながらこっちに来いと手招きをしている。
それにつられてヨシミツをはじめ、他の若い連中も行こうとしたらタナカさんに一喝され渋々戻ってきた。
そんな事とは全く関係なしにシズコだけはのんきに車列に向かって大きく両手を振っている。
一時間ほどかけやっと撤去作業が完了。
俺達は慌ただしく耐Gスーツや装備を身につけ機体の最終チェックに入る。
そこへ「いやあー、皇后様とお話しをしちゃったよ」とデレデレした顔でゴキがのんきにハンガーの中に入ってくる。
みんな一斉にゴキの事をキッと睨むがそんなことなどお構いなしに
「なあテツヤ、いいものを見せてやろうか?」とおもむろにスマホを取り出し
「どうだ?よく撮れているだろう」と皇后陛下が写ったスマホの画面を俺に見せる。
「へえー、大したもんですねえー」と俺がおだててやるとゴキはがぜん気を良くしてあちこちの人間に
「どうだ!いいだろう?」とか「欲しかったら転送してやるぞ!」などと言いながらうれしそうな顔をして見せびらかしている。
みんな忙しい中、一人で邪魔している脳天気なゴキに向かって俺が
「そういえばさっき社長がすごく怒った顔で店長探してましたけど…」と嘘を言ってやったらゴキは急に血相を変え、あわててハンガーを飛び出して行った。
ゴキのあわてふためいた様子をみんなで笑いながら見ていたら
「まもなくスカイウォーカーダイジュによるアクロバット飛行、シンクロナイズドフライングを開催いたします」と場内アナウンスが入る。
「さあいくぞー!」と言うタナカさんのかけ声と共にトーイングカーを使って機体をハンガーの外に運び出す作業が始まる。
トーイングカーに引っ張られていく機体と共に俺達も歩いて外へ出る。
「ワー!!」と言う大きな歓声と拍手。
こんな経験は今までしたことがないので何故か緊張して顔が引きつっているのが自分でもわかる。
横を見るとタカシも俺と同じ様な顔。
だがヨシミツとシズコだけは観客に向かって大きく手を振り歓声に答えているので俺も真似をしようとしたが動作がぎこちないとかえって恥ずかしいのでやめた。
機体を停止させ整備隊がエンジン始動前の最終確認を始める。
俺達は次々と機体への搭乗を開始する。
機体から観客がいる所までの距離は意外に近く目測で50メートルくらいだろうか?
一人一人の顔がはっきりと見てとれる。
ふと最前列の小ぶりな横断幕が目に留まる。
子供が書いたのだろうか、四つ切りくらいの画用紙をつなぎ合わせて「おとうさん がんばって!」と書かれている。
よく見るとそこにはタカシの娘達や奥さん、そしてミユキと義母までもがこちらの方に向かって手を振っている。
タカシの方を見ると照れくさそうな、そしてうれしそうな顔をして手を振り返しているので俺も真似をして手を振ってみる。
整備隊よりエンジン始動の許可が下り、エンジンをスタートさせる。
ざわついた観客に割って入るように4機のエンジンが次々とスタートし「キーン」という甲高い音を場内に響き渡らせる。
マーシャラーの誘導と共にまずは俺からカタパルトへ向かってタキシングを開始する。
機体をターンさせながら最前列のミユキや子供たちに向かって手を振る。
が、何故かミユキは不安げな、また心配そうな表情で俺を見ている。
俺は「大丈夫だ!」と言うような表情をミユキに返すが酸素マスクで鼻と口を覆われ、目しか相手に見えていないのでミユキにそれが伝わったかどうか定かではない。
会場からアクロバットのオープニング曲、T-SQUAREの「Omens of Love」が流れ始める。
会場の曲と連動して俺たちのヘルメットに装着されているスピーカーからも同じ曲が聞こえ始める。
今回のアクロバットは音楽に合わせて演技するため、観客と俺たちの聞こえている曲にズレが生じるとせっかくの演技も台無しになる。
試行錯誤の結果、そのタイムラグを少なくしようと会場の外部スピーカーから聞こえる音をマイクで拾いそれを俺たちに無線で飛ばすよう工夫した。
会場のざわつきなどの雑音が入って少々聞き取りにくいとの意見もあったが観客の歓声が直接耳に届くので、一度その方法でやってみようという事になった。
機体を離陸位置に停止させる。
クルーが急いでカタパルトを装着し始める。
となりにある第2カタパルトにタカシが滑り込んできた。
中野基地にはカタパルトが2基あるのだが安全上のため一機ずつしか離陸できないようになっている。
まずは俺の機体へのカタパルト装着が完了し、クルーが出す手の合図を確認しながらエンジン出力を徐々に上げ始める。
今日はたくさんの観客が見ているせいかクルーも随分張り切り、動きもかなりオーバーアクションになっている。
会場アナウンスが男性の声に代わる。
DJ風の言い回しで「まずは1号機、シマタニテツヤ隊長のテイクオフでーす」とアナウンスされる。
それと同時にいつもより異常なくらいのオーバーアクションで「GO!」の合図をするグランドクルー。
そんなクルーを見て笑っている間もなく一瞬にして機体が前方に打ち出される。
カタパルトがノーズギアから離れたところで操縦桿を手前に引き無事離陸完了。
エンジン全開のまま垂直上昇に入る。
「おおー!」と言う会場のどよめきがスピーカーから聞こえる。
続いてタカシの名前がコールされ機体が打ち出される。
タカシもすぐさま垂直上昇に入る。途中機体を180度ひねり、俺と逆方向である南側の空域で旋回しながらヨシミツとシズコの離陸を待つ。
しばらく間をおいてヨシミツが離陸。
ヨシミツは離陸直後大きく旋回し、東側の空域へまわる。
そしてアナウンスが「それではラスト、紅一点のスエナガシズコ隊員でーす」とシズコの名を告げると会場に一段と大きいどよめきや黄色い声援が飛びかう。
まるでアイドルのコンサート会場さながらの雰囲気だ。
曲が聞き取りにくくなるほどの歓声の中、シズコが離陸。
ヨシミツの逆方向に急旋回し西側の空域へ向かう。
全機がそれぞれの空域に達したところで曲のエンディングまで30秒となる。
俺の「リターントゥベース!」と言う合図と共に4機が一斉に機体をひるがえし基地の方へと機首を向ける。
オープニングの締めは東西南北4方向からそれぞれ基地の上空へと向かい、曲の終了と同時に基地の真上でしかも高度差数メートルで4機が交差するというものだ。
曲の終了まで15秒前となったところで「スモーク!」の合図。
4機から一斉に色とりどりのスモークが掃き出され始める。
すれ違う高度の順番は上からタカシ、シズコ、俺、ヨシミツの順番だ。
すなわち俺はシズコとヨシミツの間をすり抜けなければならない。
曲の終了まで5秒前。
基地の上空でぴったりに交差するようスピードを調整する。
前方からはタカシ、右からシズコ。そして左からはヨシミツがそれぞれスモークを出しながら一点に向かって突き進んでくる。
そして曲のエンディング。
左右から来るヨシミツとシズコの間をスピードを維持してそのまますり抜ける。
機体が風圧によって「ギシッ!」ときしむ。
その後「ワー!」と言う歓声が耳に届く。
「おいヨシミツ!少し遅れたぞ!」とタカシ。
ヨシミツは「観客にウケたみたいだから少しはカンベンしてくださいよ!」と弁解する。
タカシは芸に対して絶対妥協しないタイプのようなので俺も気をつけなければならない。
曲がABBAの「Dancing Queen」に変わる。
「ダイヤモンドフォーメーション!」とタカシの合図。
一斉に3機がタカシの元へと向かう。
このフォーメーションは先頭にタカシ、その右斜め後ろにヨシミツ。
そして左斜め後ろにシズコ、タカシの真後ろにあたる最後尾は俺といった具合で4機でひし形を作るパターンである。
最初は最後尾だったシズコだが、目立たないからという理由でいじけた為、結局俺が代わりにやる事になってしまった。
タカシの元に集合し4機がぴったりと寄り添う。
このパターンは一見、4機が全く同じ高度を飛んでいるように見えるが、実はタカシがいちばん上でその数メートル下にヨシミツとシズコ、
そして更にその数メートル下に俺といった具合に少しずつ高度差をつけている。
そのため俺は絶えずタカシの機体を仰ぎながら見ていないといけないので長時間やっていると首が痛くなってくる。
それに加え、前の3機が出す乱気流の中を飛ばなければならない。
シズコにうまい事、してやられたといった感じだ。
タカシの機体が音楽に合わせゆっくりと旋回に入る。
それに連られて俺たち3機もフォーメーションを崩さないよう気を付けながら旋回に入る。
地上から見ると4機が優雅に飛んでいるように見えるだろうが、当の本人たちはお互いの翼を付かず離れずの位置に保つよう、必死になって機体をコントロールしている。
タカシの「スモーク!」の合図でスモークのスイッチを入れる。
タカシを除く3機から一斉にカラースモークが空に掃き出される。
タカシがスモークを出さないのは、出されたら俺がたまったものではないからだ。
基地の真上に達しようかという所で急上昇に入る。
エンジンを全開にし徐々に機首を上に向ける。
前の3機も、もちろんエンジンを全開にしているのでジェット後流がものすごい。
機体に「ビビビビ…」という変な音が響く。
基地の真上に達した所で完全に機首は上を向き垂直上昇となる。
体が座席に強く押しつけられ、身動きできないほどのGがのしかかる。
ものすごい乱気流の中でのこのGは実戦でもめったに味わえるものではない。
「もうすぐだぞ、準備しろ!」とタカシの声。
ワンコーラス目の終了を見計らってタカシがカウントダウンを始める。
「5….4….3….2….1….GO!」
タカシの合図と共に一斉に4機がバラバラになり四方向へ飛び散る。
上方空中開花という技だ。
はるか下にいる観客の大きな歓声とDJのノリにノッた声が入り交じり耳に心地よい。
4機が大きく離れそれぞれが下降に転じたところで「早く集合しろ、次いくぞ!」とタカシ。
急いで機体を切り返しタカシの元へと向かう。
再び同じフォーメーション。
今度はゆっくりと4機揃っての宙返りに入る。
空に大きな弧を描きながら再び上昇。天地逆になった状態から今度は急下降に入る。
機首を真下に向けたまま4機揃って地面に向かって突進する。高度計の数値がすごい勢いで減っていく。
ジェットコースターの急降下が絶叫度「1」としたらこれは絶叫度「30」くらいだろうか?
最近不摂生で、あまり体を鍛えていない俺には結構こたえる。
曲に合わせてタカシが再び「GO!」の合図を出す。
再度4機が四方へ飛び散り各機がそれぞれ急上昇に転ずる。
が、タカシの機体だけが反応が遅い。
「うわーっ!」と言うタカシの声。
リンゴ畑をかすめるようにかろうじて上昇に転じる。
「タカシどうした!最低高度を切っているぞ」と俺。
最低高度とは観客や自分たちの安全を守るためにあらかじめ設定した高度の事である。
すなわち演技中は最低高度以下に進入してはいけない事になっている。
「高度計が何かの拍子で狂ったみたいだ」とタカシ。
それを聞いた俺はすかさず
「タカシの機体に異常が発生した!演技を中止して直ちに全機着陸する」
と管制塔、そしてヨシミツとシズコに連絡する。
「待ってくれ!たのむから最後までやれせてくれ!」とタカシ。
「ダメだ!」とタカシを一喝。着陸の準備を始める。
そこへ地上から無線が入る。
「テツヤ、タカシの機体に何が起きた?」とゴキの声。
俺はゴキにタカシの高度計が故障し、そのせいで演技の最中にタカシの機体だけが最低高度を大きく下回りあわや墜落寸前になった事を告げる。
「わかった、直ちにこちらも着陸準備を始める」とゴキ。
だがその割には何秒たっても音楽はヘルメットに鳴り響いたままだ。
再び地上から無線が入る。
「多くの報道陣や天皇皇后両陛下もお見えになっているという事で、何とか演技を続けられないだろうかと市長や社長らがうるさいんだが…」と困った声でゴキ。
そこへ割って入るように
「たのむよテツヤ!一生のお願いだ!」とタカシ。
俺は「一生のお願いどころかお前の一生がここで終わるかもしれないんだぞ!」とタカシをなだめる。
そこへ「たいちょー!」と急に大きな声。
「私がハギワラさんをエスコートしてあげるから続けましょうよ!」とシズコ。
俺の右側に滑り込んで来る。
「そうですよ!プログラムを変更してハギワラさんのソロ飛行を中止すればできるじゃないですか!」とヨシミツ。
俺の左側にピッタリと付く。
そしてタカシは俺の頭上から
「お前の責任重大さもわかるが、もう少し俺を信用してくれよ!」と覆いかぶさってくるし
地上からは「テツヤ、どうする?」とゴキが聞いてくる。
まさしく絵に描いたような八方ふさがりである。
しばらく考え込んだあと
「タカシ、高度計の数値は今どこを指してる」とすぐ上を飛んでいるタカシに聞く。
「350だ」とタカシ。
自分の高度計を確認すると300しかない。
俺は「お前の数値からちょうど50を引いたのが正しい高度だ。目まぐるしく変化する数値から絶えず引き算をして対処できる自信があるか?」とタカシに聞いてみる。
「引き算は分数でも大丈夫だぜ。割り算はちょっと怪しいがな」とタカシ。
「よしわかった!演技を続けよう。だが絶対に無理はするなよ」とタカシに念を入れる。
そこへ「イエーイ!」「ヤッター!」とヨシミツとシズコの声が聞こえる。
曲がシズコのリクエスト曲であるCarpentersの「Sing」に切り替わる。
俺は最近のクラブあたりで流行っている、もっと現代的でアップテンポな曲をシズコが選ぶと思っていたのだが、お母さんの好きな曲だからという理由で選んだらしい。
意外にも親孝行な娘である。
シズコを先頭に残りの3機がその後ろで横一列で並ぶというフォーメーションに変わる。
俺を挟んで左右にタカシとヨシミツ。
右側を飛んでいるタカシの方を向きながら「ちゃんと俺に高度を合わせろよ!」と指示をする。
が、タカシは何も言わず俺の方をじっと見たままピッタリと高度を合わせている。
左を見るとこれまたヨシミツも俺の方をじっと見たまま、やはりピタリと高度を合わせて飛んでいる。
左右から男二人に見つめられて何だか気持ちが悪い。
背中が一瞬ぞくっとしたように感じた。
この曲ではシズコをお姫様に見立てて俺達3機が交代でエスコートするという演技だ。
スーパーマンと恋人のロイス・レインが手を取り合ってランデブー飛行をしているのをイメージした。
寄り添った2機が別々にロールしたり一緒に急旋回したり、また離れてしまったシズコをあわてて追いかけたりと演技はまずまずの出来だったと思うが観客にはどのように映ったのだろうか。
「Sing」の終わりと同時に2機ずつペアを組みサッと二手に分かれる。
俺はヨシミツと、そしてタカシがシズコがペアになり、お互い基地の上空を離れ別々の方向へ向かって飛んでいく。
ヘルメットには俺のリクエスト曲、Boys Town Gangの「Can’t take my eyes off you」が流れ始める。
リズムに合わせて2機が揃って翼を揺らしたり反転したり、また基地の真上でペア同士が交差したりと地上にいる観客の笑い声と歓声が耳元にも届く。
そしていよいよ最後の曲。
ヨシミツのリクエスト曲、村下孝蔵の「陽だまり」である。
俺は最初にヨシミツから曲名を聞いたとき
「お前、ふざけているのか!」と怒ってしまったが、実際に聴いてみるとリズミカルでなかなかいい曲である。
後日ヨシミツにはお詫びに、かっぱえびせんを大人買いしてやった。
だが他の曲と明らかにタイプが異なるので最後まで議論の対象となったがカラオケでは自分の18番というヨシミツの猛烈なアタックに全員が折れ、晴れてトリをつとめる事となった。
この曲では全員がバラバラになり各機がそれぞれダイナミックな飛行を披露する。
一見、みんな自由に飛び回っているように見えるがそれはすべて計算の上での飛行である。
そうでないと狭い空域の中では危なくて仕方ない。
タカシの高度計の数値を再度確認し安全の為、基本高度を50上げる。
曲に合わせて各自、基地上空をロールしながら飛んだり背面飛行で通過したり、
また空中にスモークで描いた円の中をくぐりながら高速ですれ違う、ナイフエッジという技などを披露する。
会場からはいつしか曲に合わせての手拍子が始まっている。
それを聞いて俄然、気を良くしたヨシミツとシズコは
「ウッホーイ」やら「ヒューヒュー」などと奇声を上げながら飛び回っている。
最後の曲も終わり会場からは大きな拍手。
全機、翼を振って拍手に答える。
Love Unlimited Orchestraの「Love’s Theme」が流れ、シズコから順番に着陸準備に入る。
着陸はいつも4番機のシズコから始まり次に3番機のヨシミツ、そしてタカシが降りたあと全員の安全を確認し、最後に俺が降りるという順番になっている。
シズコがアプローチラインから滑らかに滑走路へと滑り込む。
ランディングギアの接地と共にアレスティングワイヤーが着艦フックに引っかかり機体は急停止。
会場は「オオー!」とゴルフの超ロングパットが決まった時のギャラリーみたいな声に包まれる。
ヨシミツとタカシも無事に降り、最後の俺が降りた時には観客はもう見飽きたのか歓声も拍手もほとんどなくなっていた。
機体を元の場所までタキシングさせ停止させる。
タカシの子供達がうれしそうな顔をしてタカシに向かって手を振っている。
タカシは何となく誇らしげな笑顔で子供達に答えている。
ミユキはというと安堵の様な、かすかな笑みを浮かべながら俺に向かって拍手をしてくれている。
機体を降り、俺達は休む間もなく記念写真の撮影会へと駆り出される。
離れたところに作られた見晴らしの良さそうな観客席からは天皇皇后両陛下が周りの市民に拍手で見送られ会場を後にする所のようだ。
こちらの撮影会では、やはりシズコの場所に観客と報道陣が殺到している。
その次には何とタカシである。
子供達が「2番の飛行機がいちばんカッコよかった!」とか「急降下がすごかった!」などと騒いでいる。
どうやらフォーメーションで先頭を飛んでいたのと高度計が狂ってリンゴ畑に突っ込みそうになったのがウケているようだ。
タカシの子供達が「おとうさん!おとうさん!」と叫びながら周りの子供達にこれは自分のお父さんだと言うことを必死になってアピールしている。
そんな子供達を見ながらタカシは照れくさそうにしながらも満面の笑顔で写真撮影に応じている。
ヨシミツの所にもそこそこの観客が集まっているのだが俺の所には他の場所からあふれたというような人が数人いるだけである。
「この人隊長なのにいちばん後ろを飛んでいたよ。下手なのかなあ」と言う子供の声。
少なくとも子供達の間では俺の好感度はワースト1のようである。
瞬く間に撮影の順番待ちがなくなり一人でシズコやタカシの方を見ながらボーとしていると
「みんなに花を持たせるなんてさすが隊長ね。少しは見直したわよ!」と言う声。
見るとミユキがニコニコ笑いながらこちらに向かって歩いて来る。
「あんたヒマそうで可哀想だから一緒に写真を撮ってあげるわ」と言いながらミユキは俺の腕に手をまわしてくる。
「おっ!おい!」と言う俺に向かって
「何、照れてるのよ」と言いながら自分の体で俺の腕をギュッと締め付ける。
「お母さん撮って!」とミユキ。
そばにいた義母が「ハイハイ」と言いながら慣れない手つきでカメラを構える。
「さあテツヤさん、笑って!」と義母。
引きつった笑顔をカメラに向ける。
そのあと「ハイ!チーズ!」の声。
「カシャッ」とシャッターの音。
澄んだ秋空に乾いたシャッター音が心地よく響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます