第441話 炉の火が消えた時。




久しぶりに何時もの時間の投稿。

一応、昨日までにある程度できていたので、加筆するだけだったから予定通りに上げられた(´_ゝ`)




追記:予約投稿ミスってやんの……ダイレクト投稿になっていたよ……


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「…………何故、コレがここに?」


 喉に何かが詰まった様に、言葉を詰まらせながらクリンがカルロに問う。その声は気持ち震えていたが、それはフードの中に隠れていた椿にしか気が付かない僅かな物だった。


「俺も知らなかったんだけどよ、コイツ等はあの一件で証拠品としてバランのオッサン……いや、冒険者ギルドで保管されていたんだってよ。んで事件も全貌が分かって犯人の裁判も終わって裁かれて、事件はひとまず終わったって事で保管されていたコイツ等が返却されて来たんだ」


 剣鉈自体はカルロの物なので、折れた状態でもそのまま返却されたが、シズラの剣は少しばかり事情が複雑だとカルロは言う。


 シズラの剣は辻斬りが確保された時に証拠として一緒に押収されたのだが、その際に倒した――と言う事にされている――マクエルに所有権が移っていたのだが、凶器であり破損しており、かつマクエルは引退済みの元冒険者で依頼を受けた訳でもなく偶然関わっただけの立場だ。


 当初は折れている事もありそのまま破棄される予定だったが、カルロが折られた剣鉈と共に欲した所それを知ったマクエルが所有権を求めてギルドに訴え議論になったそうだ。


 結果として既に剣としては役に立たず、資産的価値もないのでマクエルに返却され、更に無価値な物としてカルロに譲渡されたという。


「本当は……コレはお前の物なんだってな。悪いが手続き上はおやっさんの物だから、正式に譲渡された形で今はオレの物になってんだ」


 此方の世界では盗賊や辻斬りの様な犯罪者の持ち物は、退治した人物の物となるのが一般的な法律だ。


 従って本来なら、辻斬りを倒したクリンにシズラの剣は(壊したと言えども)もとより辻斬りの全ての所有物の所有権がある。だが九歳で辻斬りを倒せる不自然さを嫌い、マクエルに身代わりになって貰っている手前、それらの所有権はマクエルが持っている事になる。


「それは全然かまいません。マクエルさんにお願いした時点で、その手の物は全部マクエルさんの物ですし……ですが、何故折れた剣まで?」


 二つに断たれたシズラの剣を、若干不審な挙動で見ながらクリンが聞くと、カルロは自嘲するような表情を浮かべる。


「俺もシズラの奴も、孤児院育ちなのは知っているだろ。俺等みたいな育ちだと、まともな財産なんて有る訳がネェ。要するに、コイツは叩き割られていても立派なシズラの遺品って訳なんだよ」


 シズラは孤児であり遺族は存在しない。だがカルロは同じ孤児院出身であり、施設を出た後も宿屋をシェアしたり、パーティーを組んだりしていたので冒険者ギルドではカルロが一種の身元保証人に当たり、手続きをすれば彼の遺品を受け取る資格があった。


 その手続きに時間が掛かった事も有り、事件から二ケ月近くたってようやくカルロの手元に渡った、と言う経緯らしい。一度マクエルの物になったのを放棄した形なので尚更であったという。


「つっても、大した財産なんてねえしな。俺もアイツもその日暮らしが良い所だったし。アイツが最初に買ったナイフが有れば話は別だったんだけどな」


 と、カルロが少し寂しそうに言う。シズラはクリンから剣を購入した後も肌身離さず持ち歩いていたのだが、例の事件でどうやら紛失してしまっているらしい。


 残されたのはシズラがダンジョンに籠る前にため込んだ銀貨と、この返却された折れた剣だけだった。銀貨の方はシズラとカルロが育った孤児院に寄付したそうで、この剣だけを手元に残していた、とカルロがクリンに告げる。


「せめて、コイツ位は残してやらないと、アイツがこの世に居た事を誰も覚えてねえみたいになりそうでよ……だから、コイツを元の形に戻して欲しいんだよ。ついでに、俺の剣鉈も戻してもらえりゃ、並んで飾れるだろ」

「……それは解りました。しかし、形見として手元に……置いておきたいのなら、別に繋ぎ直さなくても。いいでは無いですか」


 真直ぐ自分の目を見て来るカルロの視線から逃れる様に、剣に目を落としながらクリンがつっかえる様な奇妙な抑揚で答える。


 その様子を見て、カルロは――


「おいおい、幾らなんでも『らしく』無さ過ぎじゃねえの?」


 と、苦笑交じりに言って来る。


「そんなに付き合いは長くないけれどよ、俺の知っているお前なら、喜々としてやるんじゃないか? いや、『僕の剣を折りやがってこのドヘタくそが!』とかブリブリ怒りながら頼みもしねえのにやる、そう言うヤツだった筈だぜ?」

「確かに……壊れたまま残す位なら捨てた方が良い……でしょう。でも、なおした所で何の意味が有るんです? 一度折れてしまった剣はくっつけた所で、飾って眺める以上の意味はないです。ならそのままの形で……」


「言っている事がちぐはぐだな。確かに、直してもらった所でどうせ俺にゃマトモに扱えないだろうさ。でもよ、折角作った本人が目の前にいるんだぜ? 元の形に戻してもらいてぇって考えるのが、そんなにおかしい事かね?」

「……いえ……いいえ、その通りだと思います。確かに、故人を偲ぶ為の形見だというのなら……本来の姿に戻すのが良いでしょう」


「だろう? ならさ……」

「で、ですが。それは既に剣では無くただの飾りです。それは、鍛冶師の仕事ではなく、修復師か装飾師の仕事です。彼等に頼む方が満足のいく形に……」




「なぁ」




 頑なに引き受けようとしないクリンの様子に、カルロが強い口調で遮る様に問う。


「そんなに、自分が作った剣に触りたく無いのか、お前?」

「……っ!」


 核心を突かれ、クリンの身体が強張った様に固まる。そう、何時もなら真っ先に剣の状態を確認している筈のクリンが、頑なに手を伸ばそうとしていなかった。


 クリンの今の様子で奇妙な違和感を覚えていたカルロの中で異変が確定となり、思わずため息を吐く。


「やれやれ。おやっさんやバランのオヤジからお前があれ以来露店も開かなければ何も作らなくなったとか聞いてはいたが、まさかそんなんなっているとはなぁ」

「何の事でしょう……確かにここ最近は物作りはしていませんが、料理の販売とかはつづけていましたし、道具の手入れも毎日……」


「別に俺にまでとぼけなくてもいいだろ? それとも、自分で認めたくないってやつか? まぁ、正直言えば俺にはどうでもいい」


 元々、依頼人と冒険者、露店商とその客の付き合い。そこまで親しい間柄だったわけじゃないしな、とカルロは言う。


「……なら、何で僕にコレを繋げさせようとするのです?」


 それでも剣を直視しようとしないクリンに、カルロは溜息を吐きつつ、


「そりゃぁ、サッキも言ったがコレを作ったのはお前だろ。製作者本人が目の前に居いるのに頼まない方がおかしいだろ」

「ですが……、先程も言った通りに……」


「それに俺の事もシズラの事も知っている『鍛冶屋』なんてお前しかいねえだろ」


 言われて黙るクリン。ここに来て鍛冶屋と呼ばれてしまえばもう韜晦も出来ない。


「俺とシズラを知っていて、俺の剣鉈とシズラの剣を作った鍛冶師に、剣鉈と片手剣を元の姿に戻して並べて保管させてくれ……って願いはそれ程お前には負担かクリン?」


 ここまで踏み込まれてしまえば、クリン自身でももう己を偽れそうもなかった。


「鍛冶師……ですか。そうですね。僕はそのつもりで居ました。ですが……それはタダの思い込みで、大した腕も無いのに思い上がっていた小僧でしかなかったんですよ。いや、それ以前にクラフターとしても僕の腕なんて、そこまででは無かったんですよ、残念ながら」

「はぁ? 何言ってんだよ、こんな剣が作れるお前が大した腕が無い? 馬鹿言うな、こんな剣を打てる鍛冶屋が何人いると……」


「幾らでも居ますよ。いや、それどころか巷の鍛冶師の方が遥かに腕がいい。僕みたいな見た目だけのまがい物を作る様な人間よりも遥かに、ね」

「……お前、サッキから何言って……?」


「鍛冶師は……いえ、クラフターはね、作った物は『その人の人生の少しでも役に立つ為』に作るんです。HTWで散々作って来た僕はそうなれたつもりでいました。ですが、そんな事は全然なかった。僕が作った物は、何一つその人の為になんてなって無かった」

「……おいおい、だからさっきから何の話を……」





「僕が作った物で、シズラさんが死んでしまった! シズラさんの為に売った剣で、そのシズラさんが殺された! そしてあなたも死にかけたでは無いですか! 誰かの人生を助ける為に物を作って来たつもりが、僕が作った物でその人の人生が終わった! そしてカルロさんの人生まで変えた! こんな……こんな事になる為に、僕は物を作ってきた訳じゃないのに! 結果的に手にした人の役になんて何にもたっていない!! そんな僕に、これ以上何を作れというんですか!?」




 それは、あの日――カルロが無残な姿でブロランスの街に担ぎ込まれた日から、楔の様にクリンの心を無自覚なままに締め付けて来た、心の奥底に眠らせていた本音その物の言葉。それが呪詛の様に少年の喉を突いてあふれ出た瞬間であった。







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クリン君が急に物が作れなくなった理由の暴露が始まりました。

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