第440話 転生少年、その心の有り様。



うん、ほぼ6000文字あるね(´_ゝ`)


分割して前後編に分けるのもありだったけど、そうするとそれはそれで切る場所が難しいので、申し訳ないですが今回はこのボリュームでやらせて頂きますm(__)m




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 余り褒められた動機では無いが、兎も角ブロランスの街から旅立つ事を決めたクリンは、その時に向けた準備を始めた。


 と、言っても何かを新しく作る事は無く、今まで作った物の中から持って行く物とおいて行く物の選別を始めただけだ。


 実は勢いに任せて作り散らかした物で溢れていて、一番最初に作った土壁の小屋も増築に増築を重ねて無理が来て一度作り直し、更に同型の物を保管庫として二棟建てていた。


 その保管庫ももう物で一杯だ。大部分は鍛冶で使う炭や砂鉄、途中まで作り進めて保管してある鉄板などが占めている。


 そして、去年の秋に仕込んだ味噌と醤油の壷も幾つかここに保管してある。発酵具合を見る為に幾つかに取り分けて保管してあるので、ココにあるのはほんの一部だ。


「そう言えばコレもあったな……仕込んだ時期から逆算すると、やはり晩秋までは掛かる計算だね……やはりそれまではこの場に留まるべきか……?」


 既に十分な額の金貨を稼いでいるので、冬場に旅立っても十分暮らしていけるのだが、それでもやはり冬は暖かい所で越したい。味噌と醤油の発酵を待ってからでは旅立ちが遅れてしまうのがもどかしい。


「ああ、それにこの拠点もなぁ……ココまで作ったのに放棄するしかないって言うのもシャクだなぁ……」


 気が付けば。タダの空き地であったこの場所に土壁の小屋が立ち、今の住処である家を建て、待望の施設である鍛冶場が出来た。


 今では炭小屋も焼き物小屋も水車小屋も完成し、鍛冶場と水車小屋を繋ぐ多目的作業場まで出来た。残念ながら風呂場だけはまだ作れていないが。


 この場を離れるとなれば、折角作ったこれらの施設もそのままと言う訳にはいかない。この森にはデミ・ゴブリンは元より、まだ出会ってはいないがそれなりの知能を持つ魔物が住んでいる。


 下手に残して行けば彼らの住処になりかねないので始末していくのは必須だ。


「そうか……前にこの場を使っていた人達も、それであの状態にして立ち去っていたのかもしれないなぁ」


 最初に来た頃の、注意深く見なければ人が居た痕跡が分からない程になっていたこの広場の状況を思い出し、クリンは感慨深く呟く。


「でもなぁ……僕の場合は鍛冶場とか水車とか、色々と必要だし……旅先で何かを作りたい時に設備が無いというのも困るんだよなぁ」


 何時ものベッドの上で腕組みしながら考え込むクリン。だがそこでふと思い出す。


「……いや、どうせあっても作る気なんて起きないんだから、出て行く以上は解体していくか。必要になったら何処かで場所を見つけて作ればいいだけだし」


 果たしてその時が本当に来るかは自分でも謎ではあったのだが、この少年の場合は無ければ無いで何とか出来てしまうあたりが始末に負えない。


 結局は出て行く時期を見計らって、それに合わせて解体していくという予定を立ててその日は日課のストレッチと道具の手入れだけをして就寝した。


 物作りをする気力が起きなくても結局この辺りの手は抜けないのが、この少年が貧乏性である証左であるかもしれない。





 それから数日。クリンは拠点に籠って整理を続けていた。カルロの回復は順調そのものであり、魔法薬(ポーション)によって強引に塞がれた傷が再び開くような兆候もなく、後遺症も幻肢痛がある事だけで、魔法薬により著しく下がった体力もマクエルの宿の料理とハーゲンが作るラン麺のお陰で大分回復していた。


 ガリガリであった体は怪我の前の水準では無いが大分肉が付き、少し痩せた程度まで持ち直しており、体力低下による何かの病気感染の心配もほぼなくなった。


 後は手足を失った体で日常生活を送る訓練をする位しか無くなっていたので、少し顔を出す頻度を下げようとしていた所であったので、これ幸いと後始末に入ったのだが――


「うん、全然片付かないね、マジで」


 鍛冶場や作業場、倉庫代わりの小屋や家をひっくり返す勢いで物を並べてみた物の、この場に捨てて行く物よりも圧倒的に「いずれ必要になるであろう物資」が非常に多い。


 先ず、材料となる素材の量が半端ない。生薬関係のストックはテオドラに押し付ける事で処分出来るだろうが、焼き物用の粘土や土、鍛冶で使う処理済みの焼き刃土、そして燃料となる炭が山と積まれている。


 折角加工したこれらを捨てて行くのは余りにも惜しい。例え物作りが出来ない状態でもココまで集めるのに掛けた時間を考えれば、どうにも惜しい。


 そしてその炭は使う当てなどないのに、気が付けば炭焼き窯の中に焼き上がったばかりの物が満載されている。


 こればかりは燃料としても使えるので煮炊きの為に必要と言う免罪符があるので、物作りが出来なくなってからも作れている。


 他にも途中まで加工した鉄板はリヤカーもどきに満載できる量があるし、なんちゃってスプリングハンマーの予備パーツとして削り出された弓ばねも十本以上のストックがある。コレはスプリングハンマーを置いて行ったとしても、少し追加加工するだけで普通に弓として使えるのでやはり捨てたくはない。


 他にも木の皮を煮出して作った表面処理剤や塗布材、防腐剤や染料類、リムネルやその辺の木の皮から叩き出した繊維の束、そしてダイレクトに木材のストックなど、上げればキリがない程の「残しておきたい物」で家の中が溢れかけている。


「……これは片付けているのではなく散らかしているのでは?」


 と、作業を見ていた椿にもボソリと言われる始末である。


 結局片してみた物の、施設以外のほぼ九割がクリンにとっては「必要な物」又は「何れ必要な物」であり捨てて行く訳にはいかない物となってしまう。


「ああ……コレはダメだねぇ……何か片付けられない典型的なダメ人間みたいだ」


 自分が煮詰まっている事を自覚した少年は、そこでいったん整理を諦める。本来この手の材料も、必要な時にまた創ればいいだけなのだが作るのに掛かった年月を考えれば安易に決断できなくなっていると判断したようだ。


「カルロさんの様子を見がてら、街で気分転換をしてきますか。調味料とかライ麦とかの補充もしたいですしね」


 何時街から旅立つかはまだ未定ではあるが、何れそれに備えて旅路の食料が必要になる。予めそれらを用意しておくのも良いだろう、と言う思いで午前の鐘が鳴る少し前(大体八時半頃)に拠点から出てブロランスの街に向かった。





 街に着いてからは、まず最初にほぼ習慣になっているテオドラの手習い所に顔を出し、相変わらず元気な子供達と、劣らずに元気になった老婆の様子を見てから北門近くのマクエルの宿に向かう。


 テオドラの手習い所は南門近くでやや西寄りの区画にあり、北門のマクエルの宿は丁度街の正反対にある位置関係だ。


 街の中心通りを通って行くのが一番近道であるが、主要道路である為に日中は大変混雑している。そのままだと三十分以上かかる事もザラだ。一旦門から出てレッド・アイに乗せてもらって外周を通る街道を通って北門から入りなおすのが一番早いのだが、それだと目立つし何より一度門を出てしまえば入りなおす際にもう一度入場料が必要になる。


 既に十分な資産を持つクリンだが、一々払いたくないので大通りから数本逸れた裏道を使って北門まで行くのが最近のルーティーンになっている。流石貧乏性は伊達では無い。


 そうして裏道を使って二十分掛からない位の時間を掛けて移動したクリンは、既に勝手知ったる他人の店とばかりに厩舎にレッド・アイを誘導して裏口から中に入り込む。


「あら、クリン君。今日はこの時間に来たのね」

「あ、いらっしゃーい、クリン君。今日もカルロ君のとこー?」


 裏口から入った所は厨の作業スペースであり、そこでは丁度授乳が終わったのか赤子の口物と布巾で拭いてゲップさせているヘラザートと、そのお世話をしているエルマが平然と少年に挨拶をする。


 前の村では面識はなかったが噂は毎日の様にマクエルから聞かされていたし、既に二ケ月以上顔を合わせていたので、二人共既に慣れたものである。因みにイライザはマクエルを手伝って宿の切り盛り中らしく姿は見えない。


 コミュ障気味だが客付合いで外面を補強する技法を身に付けていたクリンは二人に挨拶を返して数言世間話をした後に厨から出てカルロの部屋に向かう。


 マクエルを探して挨拶する事は無い。既にクリンが来るのは日常事であり、マクエルも一々仕事の手を止める事は無く、少年が帰るタイミングで声を掛けることが殆どであり、今では互いにスルー状態だ。


 カルロの部屋に向かう途中で、空き部屋の掃除をしていたらしいイライザと出くわす。


「あら、今日もカルロ君を診に来てくれたのね、クリン君」

「あ、イライザさんこんにちは」


 軽く挨拶をかわし、カルロの容態を聞いて来るイライザと短く言葉を交わす。その間、何故か毎回自分の頭を撫でて来るイライザに、クリンは毎回困惑する。


 正直に言えば外見年齢は確かに年上だが生前の年齢も現在の精神年齢も彼女よりも上なので、年下の女性に撫でられて喜ぶ趣味はないのだが、どう言う訳か顔を合わせる度に嬉しそうに自分の頭を撫でて行く彼女に無碍にも出来ず、


『コレ、フードの中の椿が身バレしそうだと慌てるから勘弁してほしいんだよな』


 と思いながらもされるがままになるクリン。暫くしてイライザが満足したのか手を離し、「それじゃまた後でね!」と言って離れて行くのを見送り、カルロの部屋に向かいその扉をノックする。


 ――よりも早く、カルロの部屋の扉が開かれ、中からカルロがジットリとした目をクリンに向けて来た。


「……俺の目の前でイライザさんとイチャツクとか、良い度胸じゃないか、ええ? 俺は頭なんか撫でられた事ねえぞ、チクショウ!」


 血の涙を流しそうな表情で言って来るカルロに、クリンは溜息を吐きつつ、


「今のをどうやったらいちゃついている様に見えるんですかね。一つしか残っていない目がおかしくなりましたか? ならその目に魔法薬をぶっかけてやりましょうか? と言うかドアの隙間から歯軋りしながら覗かないで下さい。ストーカーかアンタは」


 ほぼアンタの怪我の経過報告の会話していないんだからやきもち焼かれる理由がないだろうが、と思いつつクリンが呆れた様に言えば、


「ストーカーって何だよ……! まぁいい、しかし相変わらずイライザさんはお美しい……そのイライザさんに撫でられるだけで万死に値するぜ!」

「ストーカーじゃなくてマクエル二号だったかコイツ……」


 以前イライザがクリンの頭を撫でている所をマクエルに目撃されたが、全く同じセリフを言って迫って来た事を思い出して深いため息を吐く。


 意外と似た者同士であるので、実はこの宿の従業員候補として拾われたのはかなり幸運だったのではないかとクリンが考えつつ、尚もブツブツと言うカルロの背中を押して部屋の中へ入って行く。


 診察の間、如何にイライザが美しく素晴らしい女性かを熱弁するカルロの戯言を、謎商売のお姉様方との付き合いで培ったスルー技術で無視して簡単に経過観察を済ませ、ある程度カルロの気が住むまで話を聞いた後、


「これならもうその体で歩行練習などをしても良いでしょう。多分一ヶ月も有れば体力も戻って体の使い方にも慣れて、晴れてマクエルさんの宿屋で働けるでしょう」

「おお、そうか! なら早速杖になれないとな! 歩くのが苦手、片手しか使えないとは言え、取り敢えず体力が無けりゃ始まら無ぇし、その為には杖を使ってでも兎に角動かねえといけねえ!」


 元々見習い冒険者で有ったのだから、カルロの基本思考は脳筋である。何カ月も禄に動けない生活に実は飽き飽きしていたのである。


「だから、最初から飛ばそうとしないでください。まだ部位欠損による体のバランスの変化に慣れていないでしょう。先ずはそれに慣れる所から。体力をつけるのはその後です」

「大丈夫大丈夫。宿んなかならどうせ転んでも大した怪我しねえよ。なら無理してでも早く動ける様になって、おやっさんに恩を返さねえとな! ……イライザさんに格好いい所を見せて俺も頭撫でてもらいたいし……」


「……ほほう、怪我の治療をした僕の前でそれを言うとは言い度胸です。ドーラばぁちゃんの前でも果たして同じセリフが言えますかね?」


 薬師である老婆は、スパルタではあるが体を酷使するような無茶は極端に嫌う。その事はカルロも既に学習済みである。


「わ、解ったよ! む、無理しねぇから、頼むからあのババァは連れて来るなっ!」


 本気で焦るカルロに、クリンは声を上げて笑い、


「では、もうこの頻度で来る事は無いでしょう。次は早くても五日後に顔をだします。くれぐれもそれまで無茶をしてはダメですからね」


 そう釘を刺して「ではお大事に」と何時もの決まり文句と共に部屋を出て行こうとするクリンであるが――


「あ、ワリぃ、帰るのはちょっと待ってくれないかクリンよぅ。散々世話になったお前にこう言うのもなんだが、実はお前に一つ頼みたい事があるんだよ」

「頼み……ですか? 僕に? これ以上?」


「ああ、解っているよ、確かにお前に頼りすぎているのは俺も自覚があるよっ! でもな、『こんな事』を頼めるのはお前しかいないんだ」


 先程までとは違い真剣な表情で懇願してくるカルロに、首を傾げるクリンだが、取り敢えず話だけは聞こうと、一度出かけた部屋の中に戻り備え付けの椅子に腰を下ろし直した。


 その様子を見てホッと安堵の溜息を吐いたカルロは、それまで腰かけていたベッドの下に手を突っ込み何かを探り出す。


「頼みってのは外でもねぇ……実はコイツをな……お、あったあった」


 探り当てた物を片手で器用に引っ張り出し――それを目にしたクリンが目を丸くする。それは何かの布で厳重に巻かれた細長い包み。

 全容は解らないが、それでもクリンの眼にはそれがなんであるのか見るまでもなく予測できてしまう。

「コイツ『ら』を、な。出来ればクリンの手でよ、元の状態に戻しちゃくれないか?」


 言いながらカルロは片手で器用に布を引き剥がす。


「コレは……やっぱり……」


 出て来たのは、中程からバックりと叩き割られた中くらいの長さの剣と、根本から綺麗に斬り割かれた、短剣にしては大きく身幅のぶ厚い鉈の様な剣。


 それを見た瞬間、クリンの心臓が冷たい物に掴まれた様に蠢動する。


 少年の目の前にあるのは、間違いなく――


 己が叩き割ったシズラの剣と、辻斬りによって断ち切られたカルロの剣鉈だった。






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やっぱ、この展開だと途中で切れないよねぇ(´_ゝ`)

やったらスゲエ怒られそうだったし(笑)


なのでほぼ二日分を一度に上げた感じになっているので明日はお休みさせて頂きますm(__)m


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