第10話:辿り着いたその場所で

 その後、もう出番はないと思っていたオレだが、二回ほどオレまで戦う羽目になった。


 一回目はアルマの時だった。その時は運悪くアイスゴーレムと遭遇してしまったのが原因で、少しばかり手伝うことになった。

 アイスゴーレムとは、その名の通り氷でできた巨人形ゴーレムのこと。アルマとは絶望的に相性が悪い。ちょうどいいから、とケーナが後ろのほうからブレスや魔法を使いつつ、反作用のおかげでノックバックがないオレは前衛タンクをさせられたのだ。


 ちなみに結果として、アイスゴーレムに対してオレとケーナの相性は最高だと知ることができた。

 いわば最強の盾と最強の矛。あまりにも素早い討伐にギルドの面々からは絶賛とお墨付きを、視聴者からは驚愕と興奮のコメントをたくさんもらった。収益化できていないことが正直恨めしい。


 二回目は闇精霊ダークスピリットという魔物だ。これは光属性系統のスキルを持つキンドラーやブレストに任せればいいのだが、彼女らの好奇心によって一度攻撃と防御をさせられた。結論、まぁ、こっちも問題はなかった。もしこれでスキルが発動しなかったら一生根に持ったことだろう。


 アルマに関しても、別の魔物――アイスゴーレムと同じくどこぞのダンジョンのボスらしい――を無事討伐し、戦力として申し分ないと評価をもらっている。


「さてと。ストークラさん、ここって第何階層でしたっけ?」

「第三階層の最奥部だ。数分もすればまた下へ降りる階段があるはずだ」

「ついにボス、ですか……」


 オレの言葉によって緊張感が流れる。特にアルマは軽く震えていた。それもそうだろう、初めてのB級ダンジョン攻略で、しかもボス。強敵なのは間違いない。

 ギルドの面々はそこまで緊張していないようだが、一層気合が入ったと見て取れる。

 何事もないのはオレとケーナだけだった。オレはスキルに全幅の信頼を置いているし、ケーナは炎龍フレイムドラゴンだ。この中にいるのはケーナの格下だというのだから驚きでしかない。確か闇翼竜ダークワイバーンと言ったか。ともかく勝算は十二分にあるようだ。


 断続的な沈黙が続くこと数分。階段を下りた先にはこれまた仰々しい大きな扉があった。


「皆、準備はいいか!」

「「「おう!」」」


 キンドラーの号令に、声をそろえて返事する。


[ktkr!]

[大一番!マジで頑張ってくれ!]

[ヴェインがチート過ぎてボコボコにできるやろなぁw]

[仲間も最強ギルドだしw]

[久しぶりにドキドキハラハラしない無双劇が見れそうでアガる]

[wktkwktk]


 コメントもより一層勢いを増している。同時接続視聴者はついに20万を超えた。ちらっと見たが、登録者もフォロワーも10万を突破していた。信じられないほど順調だ!


「行くぞ!」


 ゴゴゴ――と鈍重な音がして扉が開いていく。

 向こう側に暗く深い闇が広がると、すぐにキンドラーが無数の光を放ってそこを昼間のように塗り替える。今までもずっとやってきたことだ。


 しかし。今回はかなり様相が違った。


闇翼竜ダークワイバーン……?」


 ふと誰かが呟いた。

 目の前には、闇翼竜ダークワイバーンがいる。それは全くおかしなことではない。なぜ言葉の尻に疑問符がついたかといえば、それは明らかに――


「死んで、る?」


 ぐったりと倒れ伏し、息をしていない。目を閉じてしまえば何もないのと変わらないほどに、存在感がない。人に化けているケーナですら、微かに威圧感があるというのに、だ。


『よく来たな。客人たち、そして我らが神子よ』

「誰だ!」


 遠くから脳内に直接響いたかのような声色で聞こえた、謎の声。

 それは、実戦経験に乏しいオレでさえも、異質だと、危険だとわかるものだった。


「アルマ……大丈夫か?」

「えぇ。なんとか……大丈夫よ、ヴェイン」


 威圧されたわけでもないのに足がすくむ。腰が引ける。そんな圧倒的な存在感によってアルマはダウンしかけている。

 オレは数日前を思い出し、ぎゅっとアルマの手を握った。するとすぐに震えは止まり、脈拍も元通りになった。


「何かわからないが……ともかく戦闘だ。総員、構え!」


 本日何回目かもわからないキンドラーの号令で戦闘態勢に入る。

 それと同時に、ぬるっと姿を現した――人の形をした巨大な「闇」。


 そこに言葉はなかったが、かくして戦闘は始まった。

 

「〈ブライトセイバー〉!」


 キンドラ―が生み出す、聖なる剣が次々と「闇」へ放たれる。

 しかし効果はなさそうだ。間違いなく刺さっているように見えるが、その瞬間に消える。うめき声も何も聞こえないし、ダメージにもなっていないだろう。


「僕が次を……と言いたいけど、闇属性な僕じゃあ効き目も薄そうだね」

「だったらその転移能力で回避させてください。オレ以外の人は特に」

「なら、お言葉に甘えて僕は援護に徹するよ」


 アルマのストーカーにアルマを任せるのはなんだか気が引けるし許せないが……仕方ないな。安全第一、ってやつ。


「お姉さんは元から回復役だし、後ろに下がってるわ。若い子ちゃんとキンドラ―、よろしくねっ」

「アルマ、ケーナ。二人は攻撃に転じてくれ。オレがやつの気を引き付けつつダメージを与える」

「分かったわ!」

「了解じゃ!」


 ふぅ、と息を吐く。脳が、視界が冴える。力がみなぎる。


「さぁ――やってやろうじゃねぇか!」


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