第9話:B級ダンジョン攻略配信

 「あぁ……もう朝か」


 穏やかな朝日とアラームに起こされると、すぐに身支度を整えた。


 そして腹を出して寝ていたアルマと、犬みたいに丸まって寝ていたケーナを起こし、食堂でギルドメンバーと話したりして優雅な朝を過ごした。

 ここはギルドの居住エリア。オレはその寮のような場所に住んでいる。一言で言えばスイートルームみたいなレベルで、初めて見たときは腰を抜かしたのは今でも思い出す。


 そうして3時間後。Twixで告知した通り、オレは配信予定のダンジョン前にいた。メンバーはオレとアルマとケーナ、そしてストークラ、キンドラー、ブレストだ。それぞれが魔物の素材から出来た装備と得物を身に着けている。


 ちなみにオレもアルマもケーナも、ギルドの備品を装備している。武器に関してもそうだ。ケーナは炎龍フレイムドラゴンの状態と同じ技が使えるらしく、彼女だけ武器がない。


「それじゃ、配信始めますね」

「よろしく頼む」


 キンドラ―の声に従い、カメラドローンを起動して配信を開始する。


[待ってました!!!]

[一週間ぶりじゃああ!!!]

[なんか見覚えのある人いない!?これがスペシャルなゲスト!?]

[アルマちゃん!!!]

[ここはどこのダンジョンだ?]

[ギルドはどうなったんだろ……]


 さっきちらっと見たが、枠の待機人数は5万人ほどだった。うん、普通におかしいと思う。0から5万とは劇的すぎる変化だ。普通は当たり前だが徐々に増やしていくものだからな。


 だからダンジョンに入ってすら無いのにこんなにも視聴者が多い。この勢いはトップ配信者と遜色ないのではないだろうか。正直内心では盛大にニヤニヤしている。頑張って抑えてるけどね。


[なんかニヤついてておもろい]

[嬉しそう]

[可愛すぎるw]


 ちくしょうバレてた!!! なんでや!!!


「と、ということで! 第二回目の配信をやっていきます! 既に映り込んでいますが、今回はスペシャルなゲストがやってきています! どうぞ!」


 ここを突かれるのは恥ずかしいので、さっさと本題へと流れを変える。


 どうぞ、と言うとカメラのど真ん中へ出て来たのはキンドラーだった。この前も見た白い服を着ており、装備は変わっていない。普段から武装しているのだろう。ちょっと怖いな……


「ギルド天結アマユイのマスター、キンドラーだ。本日は彼の――我がギルドメンバーの配信に集まってくれて嬉しく思う。これからもよしなに」

「……ヴェイン、あれ言われちゃったけど良かったの?」


 ツンツン、と腕をつついて隣にいたアルマがこっそりと話しかけてきた。オレは苦い顔をしたいのをこらえ、こっそりと言葉を返す。


「……良くないって言いたいけどもういいや……どうせ言うことだし」


 チャット欄は荒れていることだろう。もう見たくないから見ないけどね。あとそろそろ戦闘になって見れないだろうし。


「それじゃあ次の二人もお願いします」

「どうも~! アルマちゃんの下僕ことストークラだよ!」

「みんなのお姉さん、ブレストよ~!」


 あぁ……なんかもう心配になってきてしまった。

 やはりまともなのはキンドラ―だけだ……だっておかしいじゃん挨拶で下僕とかお姉さんとか言うの!


「そして、ヴェインの永遠の相棒ことアルマよ! 皆久しぶり!」

「貴様ら、妾のことを龍少女としか呼ばぬが、そこの白いのがケーナという名をつけたのじゃ! これからそう呼ぶが良い!」


 おっと、こちらもかなり愉快な挨拶のようで……


「おっほん。それでは準備は出来てますね? いざ出発!」


 ◇


 ここはB級ダンジョン「大深淵の手前側」。下級ダンジョンのボスや闇属性の魔物が出現することで有名な場所だ。

 なぜここに来たかといえば、理由は2つある。


 1つはオレのお披露目だ。ギルドに加入したこと、かつA級ギルドである天結アマユイに加入したことで、オレとアルマも自動的にB級に昇格したことを示す目的がある。

 もう1つはオレの実力を試すこと。ギルドメンバーの三人がつくことでバックアップし、オレが充分に戦える態勢を作ってあるのだという。これに関しては事前の打ち合わせで聞いている。もちろんアルマ、ケーナも同様だ。それぞれ活躍することだろう。


「おっ、早速お出ましか」


 暗く広い洞窟の中、キンドラーの作り出した光源にキラリと光を反射するものが見えた。

 それは次第に近づいてきて、人間ではない赤い頭の部分が見えたことでそれが魔物――反射したのは瞳――だと理解した。


「ではヴェインくん。存分に戦ってくれ。回復は私とブレストがいる、心配するな」


 その言葉を聞いた瞬間、スイッチがオンに——理性はオフに——なった。


 あぁ、やっと戦える……!


 そんな悦びに身体が震えると共に、足を思い切り踏み込んで抜剣する。


「ははッ!」


 内側から湧き上がる笑いが溢れたとき、剣が魔物の頭に突き刺さる。

 だが油断はできない。もしかしたら生命力が高いかもしれないし、残機みたいなのがあるかもしれない。そう考えたオレは、本能のままに魔物を切り裂いた。反撃の間も与えず、ひたすらに。


 しかしそうしていられたのは束の間。影から忍び寄るもう一体の魔物に気が付かなかった。


 口腔に炎を溜めると、オレめがけて炎を吹いたのだ。


 オレの身体は炎に包まれるも、痛みは全く感じない。服もなにも燃えていない。だが魔物側は熱さを感じているようで狼狽えている。


「ヴェイン! 横ッ!」


 アルマの声が響く。ふと横を見れば、勢いをつけて突進してくる魔物――こいつと同じ見た目――がいた。さっきのやつだろう。


 そいつは大きく口を開けてオレに噛みつくが、すぐに血相を変えて距離を取った。おそらく腰の辺りに強烈な痛みを感じたのだろう。


「バカがもう一匹ッ!」


 オレはニヤリと笑うとすかさず剣を投げ、無防備に晒された首を射抜いた。ついでに魔物を足場にして軽快な動きで剣を抜いて一回転、そのまま重力に任せて身体を貫いた。


 魔物は数秒ほどのたうち回ったが、何回も剣を突き刺すうちに微動だにしなくなった。


「……さすがはヴェインくんだ。これが彼の力、ということなのかね」

「そうね。ヴェインのスキルが関係しているわ」

「やはりか……にしても少々残酷なものだ。別に非難するつもりはないが」


 オレのスキル名は伝えてある。だが公表はしないつもりだ。オレが下級スキル以下と知れれば何か良くないことが起こりそうだからな。


[そうじゃんスキル名!!教えてほしいな!]

[この感じだと言われなさそう。それほどとんでもないスキルなのかな]

[もしや特級だったりして?w]

[てか俺が今まで見てきた中で一番残虐で笑える]

[ミンチすぎね?そこまでする必要あんのかなぁ……]

[ドン引きするかしないかの瀬戸際でワロスwww]


 さてと、次はアルマやケーナの番だろう。オレの能力や力は見せられた。問題なかろう。


「いやぁ、さすがヴェインだな。あの炎蜥蜴フレイムリザードをそんな方法で倒すなんて」

「そうじゃな。さすがの妾でもあそこまで近接して倒すことはないぞ」

「お姉さんも同意よ……あんなの絶対危険だからいつも新人ちゃんに注意してるようなやり方なのに……」

「一定の強さと耐久力がなければできない芸当。ヴェインだからこそできるというものだ」


 ――なんかめちゃくちゃ言われてない!? なんでよ!?


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