第8話:強烈という言葉は彼女らのためにあった

 あまりにも気持ちの悪いセリフとともに登場した男。

 その性格もまた奇妙なものだった。


「あぁアルマちゃん……この至近距離で会うのは初めてだね!」

「あ、あの……一度も会ったことないと思うんですけど……」

「おっといけない。僕がアルマちゃんを護衛していたときのことだった」

「頼んだ覚えないわよ!?」


 深みのある灰髪に、切れ長の目。身長はオレやアルマより高い。その身体は魔法師が着るようなローブに包まれており、体型を知るすべはない。しかし黒い手袋によって浮き出る指は細く、ローブもダボダボなことからなんとなくは想像がつく。


「いやいや、それは僕の善意による行動さ!」

「……ストーカーかな?」


 ふと、オレがこぼしてしまった呟き。

 それのせいか、次の刹那、細い目が大きく開いた。


「貴様あああぁ! 確かヴェインと言ったな!? 本当にアルマちゃんの横に立つにふさわしい男とは思えん! 少なくとも僕は認めない!」

「なんであんたに認められなきゃいけないんですか! というか、アルマがオレに着いてきたんですし!」

「はあああぁ? とんでもないウソを言うんだね君は! さぁアルマちゃん、この嘘つきに事実を突きつけてくれ!」


 えっ、私? とでも言いたげな顔で困惑するアルマ。

 一度深呼吸し、「えーっと……」と言葉を練り始めた。


 一秒ごとにこの男の口角が上がっていく。

 そうして十秒くらい経ち、おそらく人間の口角が上がる限界点に達したとき、なぜか顔を赤らめて小さな声で呟いた。


「そう、だよ……私がヴェインに、ついて……行った……」

「……ちっ」

「な、なんで舌打ちするのよ!?」

「さすがに今のはひどいと思います」

「う、うるさい! そろそろ真面目モードにならないとギルマスに怒られると思っただけだ! あの人はどこからでも僕たちを見張ってる……だから仕方ないんだ!」


 こいつの言い訳はともかく、アルマが変な奴こいつに襲われなくて本当に良かった。オレなんかの力じゃどうしようもないからな。いやまぁ、あの力があればどうにかなるかもしれないが。原因に心当たりはあるがぶっつけ本番は怖い。


「さてと。では自己紹介をしよう。僕の名前はストークラ。スキルはまぁ、見ての通りさ」


 ストークラがパチンと指を鳴らす。

 

 そして次に瞬きをしたとき、オレとアルマ、そして龍少女は知らない場所へと転移していた。


 そこはどこか無機質な空間だった。

 床や壁は白く、天井だけは美しく雲が揺蕩う空のよう。


 しかし太陽はあれど、熱は感じない。なのになぜか暖かさを感じた。身体ではなく、心を暖めるような、そんな感覚だ。


「ここは客人を招くときに使う場所だ。ギルマスがそう命令したんだが……ヴェイン。何か感じるか?」

「暖かさを感じます。心を温めてくれるような感じです」

「やっぱりそうなんだな……ギルマスもそう言ってたんだ。僕は何も感じない。空は美しいと思うがそれだけだ。アルマちゃんはどうだい?」

「私もあんたと同じよ」


 アルマの言葉からはトゲを感じた。冷ややかなナイフのようにも思えるほどに。 

 ま、ストークラが気持ち悪いからだろうな……お気の毒に。


「そ、そうか……そ、そろそろギルマスが来る頃だと思うからな。ここで待っていてくれ……」


 ストークラの言葉一つ一つから、先程まであった熱意というものが全て消失していた。もはや冷え切ったと言っていい。彼の体温も冷たくなっているのではなかろうか。


 コツ、コツ――ふと聞こえた足音。

 その方向を見るも、ただ白い壁があるだけだ。


「ギルマスが来たようだ」


 ずっと見ていた壁が、突然動いた――いや開いた。


 そこから現れたのは、豪華な装飾があしらわれたスーツを身にまとう金髪の美人だった。こちらを真っ直ぐに見据える優しげな目とは裏腹に、一文字に結ばれた唇が緊張していることを物語っている。

 腰には白い鞘を提げており、恐らく得物は刀なのだと分かる。これもまた美しい。


 いつだったか、彼女の配信を見たことがある。淡々と魔物を葬っていく姿は、まるで仕事人プロフェッショナルのようだった。

 

「お初にお目にかかる。ギルド天結アマユイのマスター、キンドラ―だ。よろしく頼む」


 ゆっくりと差し出された手。それをオレは優しく握り返した。


 それは意外にも硬い手だった。いや、訓練していればそうもなるか。歴戦の猛者なのだと改めて実感した。


「こちらこそ始めまして。ヴェインです」

「始めまして、アルマです」

「先程のメールへの迅速な返信、とても助かった。感謝している」


 そう言ってキンドラ―は深々と頭を下げた。


「ちょっ、やめてくださいよ! メール返信程度でそんな……!」

「うちのギルマス、いっつもこんな感じなんだよ……一言で言うなら仕事人間。礼儀を重んじすぎてとんでもないことになってる」

「そ、それは……大変ですね……」


 真面目な環境は嫌いではないが、苦手なオレとしては苦笑いするのが精一杯だった。配信でもそうだが、社会は堅苦しいのが多い。はっちゃけてエンジョイしたいのだオレは。

 あとで要相談、だな。


「む、そう言えばブレストはどうした?」

「それならギルマスの後ろだな。『存在を隠してる』ぞ」

「存在を……隠してる?」


 ふとこぼれた言葉。存在を隠すという言葉の意味が分からず、何かが見えてそうな龍少女の目を見る。

 するとオレの予想通り、ギルマスの後ろの辺りをじーっと見つめていた。めが合っていますよと言わんばかりに。


「あら、バレちゃっては仕方ないわねっ」


 刹那、ぬるっと現れた――巨乳のお姉さん。そう表現せざるを得ないほど、胸が強調された服を着ているからだ。

 ……オレが思春期なのは関係ない! 断じて!


「可愛い坊やね~! こっちに来てイイコトしましょ?」

「すいません遠慮させていただきます」

「なんでよ~!」

「……貞操の危機を感じたもので」

「むぅ、つれない坊やね」


 危なかったぁ! セーフ! 下半身に血流が流れたけどなんとか耐えたぞ!

 だからアルマさんやその龍の如き睨みをどうにかしてくだしあ!!! くわばらくわばら!


「まぁ、各々自己紹介は終わったな。ならば御三方、宿へと案内しよう」

「ちょっと待った。そういやこのちびっ子の名前を知らないな。名前は何ていうんだ?」

「あーっと、それがまだ決めて無くて……」

「そりゃそうだな。忙しかっただろうし」

「ならば私が決めるというのはどうだろう」


 キンドラーが意気揚々と発言すると、深い溜め息でストークラがそれを遮った。


「ギルマス……あんたのネーミングセンスの酷さは筋金入りだぜ?」

「そうよぉ、それで新人ちゃんが抜けかけたの、私覚えてるのよぉ?」

「こ、今回は大丈夫だ。メールを送ってからずっと考えていたからな」


 おお、それはかなり期待が持てる!

 ……いや待て、ブレストやストークラの言葉が引っかかる。もし本当に酷ければ木を言って変えさせよう。そうしよう。


「……ケーナ。これでどうだろう」

「ギルマス……あんた成長したよ」

「うぅっ、お姉さん感動して涙が……」

「そこまでか!?」

「どうやら、かなり愉快な人たちのようね」

「楽しくやっていけそうで何よりだよ」


 キンドラ―の凛とした顔が驚きに染まってとんでもない顔になっている。しかし美人はどんな顔でもまともに見えるのだから不思議だ……おっといけない、これ以上はアルマさんが冷気を撒き散らし始めてしまう。いやもう出てるけど!


「ともかく、これからよろしくな、ケーナ」

「拝命致すのじゃ。この身命は主のもの。好きに使ってほしいのじゃ」

「それじゃ、用事も終わったことだし宿へ行くぞ?」


 パチン、と聞こえて、景色は一瞬にして移り変わった。


 さてと。疲れたし……今日はもう寝よう。おやすみなさい。


 =====

「面白い」や「期待してる」と思ったら☆やフォロー、♡もお願いします!

 その評価がとっても励みになります!


 意見などありましたら♡を押して「応援コメント」からお願いします!

 その言葉が僕の糧になり、もっともっと面白い作品を作れます!

 ☆での評価も忘れずに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る