第13話 真相解明

 ここで今回の事件の『犯人』であるサッちゃんの挙動について、まとめていく。


 彼女には意中の相手がいた。

 そしてクリスマスイブの日に、その人へと告白することを決意する。

 その方法は『ラブレター』である。

 その時の彼女の気持ちというものは、想像するしかないが、それでも決死の覚悟であっただろう。愛の告白とはそういうものだ。


 彼女はクリスマスイブの日、遊園地にて、恋文を忍ばせるタイミングを計っていた。

 そしてついに、その好機を得たのである。

 ジェットコースターに乗らないという行為をとることによって。


 貴重品ロッカーのかぎを預けられた彼女はすぐさまに行動する。

 ロッカーを開くと、中には──


 右奥のかばん

 左奥のメガネ。

 中央の財布。


 ──があった。


「そこで質問なんだけれど、サッちゃんの恋愛対象が女性ってことはないよね?」

「う、うーん……改まって確認されると自信ないけど、男子が好きだと思う。好きな男の子がいるって言ってたぐらいだし」


 そうなると女性であるミカさんの持ち物、右奥の鞄が候補から外れる。

 残るは、メガネか財布であるが──


「まあ……メガネに恋文を仕込むという話もよく分からないし、これも候補から外れる」


 それにメガネの持ち主であるジュンペーくんには彼女がいる。

 よって順当であるだろう。

 こうして消去法にて導き出された結果であるが、サッちゃんの目標が判明する。


 中央の財布。


 サブローくんの持ち物だ。

 二つ折りにされたそれには、彼のスマホと家の鍵が挟まれている。


 サッちゃんはきっと、はやる鼓動を耳にしながらに財布を手に取ったはずだ。ドキドキとする心音を聞きながらに、浮ついた気持ちをもって作業を始めたであろうことは想像にかたくない。


 まずは二つ折りの財布を開いて、スマホと鍵を抜き取るとロッカーの手前の方へと置いた。

 そして財布の中へと恋文を差し込む。

 あとはロッカー内を元の状態に戻して、後始末をするばかりである。

 彼女のミッションは終わりを迎えたかのように思えた。

 しかし、彼女はそこで気づくことになる。


 自分の手元には二つのスマホと、二つの鍵が置かれているということを。


 ロッカーの左手前に配置されていたギャルの私物と混同してしまったのである。

 かろうじてスマホについては判別がつくものの、家の鍵については同じキーホルダーが付けられており、どちらがどちらの物か分からない。恋文を仕込むことに精一杯で、彼の家の鍵の形なぞ、把握はあくしているわけもない。


 刻限こくげんは迫るばかりである。

 迷っている間にも、ジェットコースターは流れていく。


 そしてついにコースターが帰着して、友人たちが戻ってくるという段になり、彼女は慌てて手に取ったのだ。

 当てずっぽうで選んだ、ギャルの家の鍵を──


 ●


「と、まあ──以上がこと経緯けいいだね」


 俺は麦酒を飲み干しながらに述べる。

 加えて、少々気取った面持おももちで言ってのけた。


「君の家の鍵は、サブローくんが持っている」


 すると、それを聞いていたギャルが言葉を出すのに苦労するようにして言った。


「お兄さんって……推理小説を書いてる人?」


 その顔は、街中でツチノコでも見つけたような顔だった。

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