第17話 『大迦葉の手記』の続き

 家に帰ると、さっそく裏snsにアクセスして梵天に報告した。

大迦葉:条件づけをした積りだったが、全然反応しなかったよ

やっぱ素面じゃあ上手く行かないかもな

梵天:どうする積り?

大迦葉:クラブの知り合いから大麻を手に入れられるからそれを使ってみるよ。

梵天:変性意識状態の時に吸わせないと効果はないかもな。変性意識状態はどうする?

大迦葉:それにもアイディアがあるんだ

チャリを使おうかと

梵天:チャリ?

大迦葉:チャリって、乗れない人が初めて乗る時には、大脳を使ってよろとろ乗るでしょう

でも、慣れればスマホをやりながらでもこげる

その時は、実は、無意識が漕いでいるんだと思うんだよね

前にこれを使ってナンパをしようとしたんだ

 自転車置き場に、いやにサドルの高いドロップハンドルのサイクリング自転車が放置してあって

 あれに乗らせると股間を刺激して、女は感じると思うんだよね

 と同時に自転車をこぐという行為をしているから変性意識状態になっている

 つまり、トランス状態で股間に刺激がいっている

 そこで、その女の斜め前を誰かに走らせて、

そいつに、ウルトラマリンか何か強めの香水をつけさせておいて

 そうすれば、洗脳でいえば、股間で感じるのがアンカーに、ウルトラマリンがトリガーになっている

 そうやっておいて、サイクリングから帰ってきた時に、更衣室で俺がウルトラマリン

をつけて登場する

 俺のコロンの匂いをかいで、ターゲットは欲情する

 そこで俺はジッパーをおろして、オカモト0.01を装着すると

そういうナンパの計画があったのだけれども

それとおんなじやり方で変性意識状態を作りだすよ


 翌日も放課後、体育館倉庫に行くと、ビニールシートを敷いたマットの上に座って俺は語った。

つーか説教。

「前に、望花が言っていたが。

 妃奈子なんて、推薦で仏教系の大学に行くんだろう。

 望花は、高卒で就職して家に金を入れなくちゃしょうがない。

 それで、面接に行ったんだって、立川の方のオフィス街に。

 帰りに、立川の高島屋でコート、秋物のコートを眺めていたんだって。

『来年、就職して賞与が出たら、こういうのを買えるだろうか』と値札を見て、

いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、三〇万円の値札に目を剥いていたら、

DQNな店員が出てきて、

『手がでないっしょ。

 貧乏人には。

 それ、ユニクロ?』

 と望花の着ているコートを指さしたんだって。

 バカにしやがって。

 ショップの店員の癖に。

 それでもう疲れちゃって、デパ地下であんみつでも買って帰ろうか、

とエスカレーターで下ってあんみつ買ってふらふら歩いていたら迷ってしまって、

気が付いたら、地下駐車場に出たんだって。

 そうしたら、車寄せで、ドアマンのユニフォームを着た警備員が車を誘導していて、

ベンチに妃奈子、お前とお前の母親が腰掛けて車を待っていたというんだよねえ。

 そうしたら7シリーズクラスのBMがすーっと入ってきて、停車すると、

ドアマンが、トランクに、靴の箱だの帽子の箱だのを4個も5個も積んでいたと。

 それを見て、自分の買った榮太郎のあんみつ1ケ500円がとっても惨めな

気がして、涙が滲み出てきたというんだよねえ。

 これが最大の贅沢で、普段はいなげやのイカフライと薄い味噌汁とご飯、ぐらいの食生活。

 それだけ、お前もお前の両親も7シリーズのBMも“なまぐさ”の原因になっているっつーの。

 だから、なんとしてもお前は解脱しないと。

今日はあれだ」

俺は、体育館倉庫の壁際に立てかけてあるサイクリング自転車と

自転車の室内トレーニング用の3本ローラーを指差した。

「妃奈子、チャリ、乗れるんだろう」

「チャリぐらい乗れるわよ」

言うと妃奈子はチャリの方へ。

俺が3本ローラーにサイクリングチャリを乗せると、妃奈子にまたがせる

「最初は俺は押さえていてやるからお前、漕いでみな」

言うと妃奈子はチャリに跨ろうとする

「ちょっとまった。これ付けないと」

俺はダイソーの袋からゴーグルを出した。

「えー、又それ、するの?」

「だって、アンモニアくさいだろう」

「そりゃそうだけれども」

「まあ、いいから、いいから」

と半ば無理矢理、チューブでエアースプレーにつながっているゴーグルを付けさせる。

妃奈子は最初の内はふらついたものの、すぐに自分で、3本ローラーの上で漕げる様になった。

「妃奈子、今、自分で漕いでいる積りかも知れないけれども、それ、無意識が漕いでいるんだぜ」

「え?本当」

「じゃあ、般若心経を唱えてみな」

「かんじーざいぼーさつ ぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじー

 しょうけんごーうん かいくう どいっさいくやく~~~~」

「今、お前の脳はお経を唱えている。じゃあ、チャリは誰が漕いでいるのか」

「無意識?」

「そうだよ。そういう時に解脱しやすいんだ。それに今日は特別にこれももってきた」

俺はポケットからパケを出すと大麻を一本取り出した。

「えー、そんなもの持ってきたの?」

妃奈子も遊んでいるので一瞥してそれが大麻と分かったらしい。

「これを吸わないと、変性意識状態にならないんだよ。ちょっと火付けるから」と自分でくわえて火を付けると妃奈子にくわえさせた。

「ちょっと吸ってみな」

妃奈子は黙って吸う。

「どう?」

「来ている、来ている」

「じゃあ、チャリのスピードももっと上げて、大麻ももっと吸って」

「来ている、来ている」

「じゃあ、エアーを送るぞ」言うと、ゴーグルにエアースプレーから空気を送る。

妃奈子は目を瞬かせたが、黙って大麻を吸いながらチャリを漕いでいる。

「そんなに気にならないか? 目のエアーは」

瞬きしながらも、「そんなに気にならない」と妃奈子は言った。

「じゃあ、ここで、J-WAVEのジングルを流すから」

「なんで、そのジングル流すの? 般若心経を唱えるんじゃなくて」

「そりゃあ、お前だって六本木とかテリトリーにしているんだから、このジングルがお経みたいなものだよ」

「そっか」

俺はスマホを近付けると、J-WAVEのジングルを流した。

「JJJ、J-WAVE

 JJJ、J-WAVE

 エイティーワン、ポイントスリ~~~~、ジェ~~~イ、ウェ~~~ブ

 ジェイ、ウェーブ グルーヴライン」

5分ぐらい漕いで、大麻1本灰にした頃に休憩。

「あー、汗かいちゃった」

妃奈子はマットのビニールシートの上に寝そべった。

「ご苦労さん。解脱出来た感じ?」

「うん、気持ちよかったよ」

「そりゃあよかった」

俺は妃奈子を凝視しつつ後ろでにもったスマホのボタンを操作した。

「JJJ、J-WAVE

 JJJ、J-WAVE

 エイティーワン、ポイントスリ~~~~、ジェ~~~イ、ウェ~~~ブ

 ジェイ、ウェーブ グルーヴライン」

「ん?」と妃奈子が鎌首をもたげた。「瞼がひくつく」

「まじ?」

俺も凝視すると、確かに、妃奈子の瞼はひくひくしていた。すぐに収まってしまったが。

(やったー。効果出てきている)俺は心の中で三段突き。

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