第13話 事故の翌日学校で
事故のあった翌日の朝拝で、担任の英語の先生は寝込んでしまったので、浄土宗系のお寺と教職でWで稼いでいる古典の教師が教室にきて、説教をした。
「釈迦が自分で語っているいるのですが。
それは、城の中は乱れていて、酒を飲んでだらしなく寝ている人が居るし、権力争いも絶えない。
又、一歩外に出れば、病気で苦しむ老人、痩せた子供などが沢山いる。
こんな貧富の差の中で釈迦がある弟子に語ったのは、この世で何があっても、そんな事は死んだ時にチャラになり、極楽浄土で修行が始まるんだよ、という事です。
だから、リエラ君が厭離穢土だと言って苦しんでいたとしても、浄土に行けば、そんなのはちゃらになって、又みんなと一緒に修行するのだから、むやみやたらと悲しむものでもない、という事です」
と、『阿弥陀経』的な事を言う。
(それはおかしい)
と海里は思った。
(釈迦国での貧困は行政の問題で、厭離穢土とは関係ないだろうが。
だいたい釈迦は王子だったんだから、貧困を行政の面から救済出来たんじゃないの?
それを、裕福な自分も厭離穢土、貧しい衆生も厭離穢土として、浄土でいちから始まると説くこのお経はなんなん。)
と貧しい尼寺の海里は思ったが。
とにかく、クラスメートの死に対してこの手の説教は退屈だった。
催眠・瞑想研究会の部室で、亜蘭、剛田、3組の三羽烏、妃奈子、望花、
海里、郁恵、伊地家はうなだれていた。
樋上今日子と犬山はいなかった。
みんながぼーっとしているところで、いきなり、緊急地震速報の様に全員の
スマホが一斉に鳴ったので、びくんとする。
犬山からの一斉メールだった。
無線部でもある犬山は、校内のWi-Fiをすべて傍受していた。
>誰が書いたのかは分からないが、今回の事件の手記らしきものを
見付けたので送る。by inu
全員で、その手記を読んだ。
「ふむふむ、ふむふむ、うー」
と頷いたり、唸ったりしながら全員しばし読む。
「これが本当なら、事故じゃないぞ。事件だぞ」
と剛田。
「この手記は条件づけの事がでれでれ書いてあるけれども、文化祭で蓮美に催眠をかけたのは小暮君よねえ。催眠と条件づけって似ている」
と海里。
「だから小暮勇が怪しい」
「俺じゃないよ。
だいたいリエラになんて興味ないし」
「リエラを嫌っていたのは誰よ」
「テキストにはすれっからしが嫌いと書いてある。だから三羽烏の誰かなんじゃあないの?」
「何でいっつも俺らを疑うの?」
と城戸弘。
「つーか、実行犯はリエラのそばにこんなにいたんだろう。だから、
焼肉屋でリエラの隣に座ったのは誰か、
保健室にリエラと一緒に行ったのは誰か、
保健室の先生に牛タン弁当と言ったのは誰か、
靴ひもを結ぶふりをして、しゃがんだのは誰か、
それを調べればいいじゃないか」
と剛田。
「事件の時に一緒に歩いていたのは樋上さん。樋上さんは焼肉屋でも対面に座っていたし。
まず樋上さんに連絡をしたら?
剛田君連絡してよ」
と海里。
剛田はスマホを出すと電話をかけた。
「もしもし、樋上?
あ、樋上さんのお宅でしょうか。
ちょっと樋上さんに伺いたい事が、…え、でも、感染?」
しばらくもにゃもにゃ話していたが電話を切ると、
「コロナに感染して今はそれどころじゃないって、母親が」
「じゃあ、次は、保健室の先生は連絡とれないの?」
「わかんないなあ」
「犬山君達は? 彼達、焼肉屋でも山道で靴ひもを結ぶ時にも近くにいたんだから。
剛田君、犬山君にも電話してみてよ」
剛田が電話する。
「ふむ、ふむ、えーなに? 濃厚接触者?
それで、あの時焼肉屋に…えー、分からない? 高尾山の事件の時は? えー」
電話を切ると剛田が言った。
「犬山は、濃厚接触者だって。
それでPCR検査は陰性だけれども自宅待機だって。
あと、焼肉屋でリエラの隣に誰が座っていたかは、みんながとっかえひっかえ座っていたから、分からないというんだよなあ。
あと、高尾山の山道では催眠・瞑想研究会のみんなもいたんだから、みんなも分かるだろうって」
「三銃士は?」
「三銃士も、PCR陰性でも自宅待機だって。
ついでに、保健室の先生も濃厚接触者だって。
しかも陽性」
「じゃあ何で俺らは濃厚接触者じゃないんだよ」
と城戸弘。
「そりゃあ感染した人、樋上今日子が申告しなかったからだよ」
「如来さま、蓮美は?」
「蓮美は田舎に行っているってさ」
と剛田。
「チャットとかで連絡とれないのかよ」
と城戸弘。
「私、聞いてみる」
と郁恵が言った。
「えーと。
>如来さま、実はリエラなんだけれども、何者かに何らかの方法で突き落とされたんじゃないかという疑惑があるの
>山道でリエラが転落する前に誰かがくつひもを結んでリエラ達を先に行かせたの
だけれども、それを見ていなかった?
>あと、コンパの焼肉屋でリエラの隣に座っていたのは誰だか分かる?」
と郁恵は音読しながらタイプした。
すぐにメッセージが帰ってくる。
>高尾山では、催眠・瞑想研究会のみんなが一緒にいたじゃなーい
>焼肉屋ではみんなが入れ替わり立ち代わり座っていたから分からない
「うーん」
と、一同黙ってしまう。
「証言は得られないのか」
「この昼食の箇所、こんな琵琶滝の滝行の話なんてしたっけ」
と城戸弘。
「したよ。
これだけ再現できるという事は、犯人はこの中にいるんじゃないか」
と剛田。
全員、顔を見合わせた。
「こんなかにいるのかよ。
誰だ言え」
と剛田。
「そういうお前かもな」
と城戸。
そして、鬱陶しい空気になりつつも、みんな黙っていた。
「つーか、こんな条件づけ可能なの?」
と海里。
「ガルシア効果は可能なんじゃあ。
食あたりで食わず嫌い王決定戦みたいになるものな」
と亜蘭が言った。
「バイク事故もガルシア効果的で誘発させたんじゃないのか」
と剛田。
「そりゃあ分からないけれども」
と亜蘭。
「じゃあそれを膣液に応用する事は?」
と妃奈子。
「それよりも前に、膣液だけで滑り落ちるわけない、別の罠を用意していると言っているけれども、それってなんなん」
と海里。
「……」
「てか、何で食べられない牛タン弁当を持参したのよ、この優波離は」
「わかんないなあ」
と剛田。
「牛タン弁当が別の罠に関係あるんじゃないかしら。
あの時牛タン弁当なんて食べていた人はいなかったけど」
と海里。
「セレオ八王子で駅弁大会をやっていた」
と剛田。
「詳しいじゃん」
と城戸。
「その梵天というのが教えたんじゃないの? 条件づけを」
と海里。
「そいつは条件づけを教えただけ? それともそいつが主犯?」
と剛田。
「わからない……」
しばらく沈黙した後、
「線香でもあげようか」
と郁恵が言って、ロッカーのところに行くと、扉を開ける。
「曼荼羅の×が一個増えている」
と郁恵。
大日如来の左側のキューピーちゃんにも×がついていたのだ。
「一個増えたのはリエラの分だ」
と海里。
「バイク事故の3人が上の3つの×。
真ん中の大日如来のはXさん。
そしてその左のがリエラの×か」
と郁恵。
「バイク事故の3人も2中だよなぁ。
リエラも2中。
後2中は妃奈子もそうか」
と剛田。
「そんな事言ったら海里や亜蘭も郁恵も。
2中じゃない」
だいたい一クラスに4人ぐらの割合で2中卒の生徒がいる。
仏教高校とはいえ一クラスに3人もお寺の娘がいるのは珍しい。
妃奈子、海里、郁恵と。
しかし、日野の市立中学の生徒が八王子の高校に一クラス4名程度いるのは
普通だろう。
「なんで私らが狙われるのよ」
と妃奈子が言った。
「お前ら2中時代に何か恨みをかうことでもしていたんじゃないの? いじめとか。
それで2中の誰かが今頃復讐しているんじゃないの」
と城戸弘が言った。
「危ないのは、亜蘭、海里、妃奈子、郁恵だよな。
警察なり教師なりに保護を求めた方がいいんじゃないか」
と剛田。
「なんて言って保護してもらうの?
この胎蔵界曼荼羅を見せて? そんなもの信用してもらえる?
それに、×印は5個ついているし。
バイク事故の3人とリエラじゃあ4人だから数が合わないし。
催眠・瞑想研究会の妄想と言われるだけだよ」
と郁恵。
「じゃあ、座して死を待つのか」
と剛田が言った。
そういう会話には加わらず、妃奈子はカー雑誌をめくっていた。
「お前、何を読んでいるんだよ。
そんなもの読んでいる場合じゃないだろう」
と、剛田がとがめる。
「いいじゃない。
私、これ買うんだ」
言うと、妃奈子は、雑誌を開いてアルファロメオの写真を見せた。
「免許とっていきなりアルファロメオかよ」
と城戸弘。
「つーか危ないよ。
バイク事故で3人も死んでいるのに」
と郁恵。
「バイクじゃなくて車だから平気だよ」
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