第6話 『優波離様の秘密の手記』の続き ガルシア効果とは何か

 翌日、部室で、文化祭の催し物の反省会があった。

 部員8割がたが参加して、部室に車座に座って侃侃諤諤やった。

「もっと催眠ショーみたいにして、大勢の前でカタレプシーにしてヒューマンブリッジでもやってやればよかったのに」

「催眠ショーにするんだったら、練りわさびを食べさせればよかったんだよ」

「そんな事してかからなかったらどうするんだよ」

 などの意見が出る。

 途中、おやつの時間になって、車座の真ん中に、チップスターとオレオが並べられた。

 佐伯海里、金井妃奈子やら太古望花が、三ツ矢サイダーを紙コップに注いでいった。

「うえー」

 とリエラがえずく。

「このニオイ大嫌い。

 私、このニオイ大っ嫌いになったんだよ」

「え、何で? 平気」

 と海里ら。

「げー、吐き気がする」

 言うとリエラは部室を出て行ってしまった。

 その後、なんとなく、反省会も散会みたいになったので、俺もそそくさと、ついていったのだが。

 リエラは保健室に行っていて、胃散を飲んでいた。

「おい、どうしたんだよ」

 とオレ。

「ほら、サイダーのがメントスみたいな感じが」

 とリエラはオレに言ってきたが、保健室の女の先生に向かって言った。

「昨日焼肉屋の帰りに焼肉とメントスを吐いたんです。そうしたらミント系のニオイが大嫌いになりました。歯磨き粉もダメになったんです」

「それはガルシア効果だわね」

 と保健室の先生。

「ガルシア効果といって、カレーを食べて乗り物酔いをするとカレーのニオイをかいだだけで吐き気がするようになっちゃうという様な条件反射ね。パブロフの犬みたいな」

「へー」

「普通の条件付けは一回では出来ないんだけれども。

 パブロフの犬だって何回も肉とブザーで条件付けをして、条件反射が出来たんだけれども。でも、ガルシア効果だけは一発で条件付けられるのよ。

 音や光だとトリガーにはならなくて、味覚情報じゃないとダメなんだけれども」

「でも、オレはサイダーを飲んでもなんともないけど」

「人によりけりなんじゃないかしら。リエラさんみたいに摂食障害の人はなりやすいのかも」

「そういえば事故った3人も、カーブを曲がりきれず、とか言っても、寸前に

吐いたらしい」

「え、あの3人も、ガルシア効果に関係があるの?」

 とリエラ

「なんの話し?」

 と保健室の先生

「いやぁ、こっちの話し」

 窓の外からユーミンの『守ってあげたい』が流れてきた。

「ダっサい曲。童謡かしら」

「二時かあ」

 保健室の先生はサッシを開けた。

 ユーミンの防災放送が一段と大きくなり、カラスの鳴き声がして、冷たい風が

入ってきた。

「はぁー、もう晩秋だ」

 とリエラ。

「来週は、みんなで高尾山だよ」

 と保健室の先生。

 毎年晩秋になると、この高校ではリクレーションで高尾山に行く。

「行きはケーブルカーで行って、山頂で昼ご飯。

 帰りは4号路を下ってくるから、ちょうどこの放送が聞こえるのは吊り橋を

渡っている頃かなあ」

 と保健室の先生。

 リエラは窓の外を見ながらまだげっぷをしている。

 顔色も悪いし痩せているし。

 髪は赤メッシュで、耳には5連のバーベルのピアス。

 あのカーディガンを脱がせれば梵字のタトゥーだし。

 あーー、ストリートののジャンキーを思い出すなぁ。


 その日の晩、オレは家に帰ると自室で、スマホで某SNSを開けた。

 友達一覧の中から『梵天』にタッチする。

 メッセンジャーが起動した。

優波離:今、いる?

梵天:いるよ

優波離:いやー、やっぱりあのリエラっていうのはひでー女だった。

オレの愚痴、聞いてくれる

梵天:聞いてあげるよ

優波離:リエラって女は、メンヘラのすれっからしで

オレのイメージとしては、ストリートにいる東電OLのイメージかな

そもそも、セックスだって、妊娠→出産→育児という全体性があって意味があるのに

じゃがいもを食うのだって、タンパク質とか炭水化物とか色々な栄養素があって意味

があるのに

だのにあのリエラは、クリトリスにシャブを塗れ、みたいな感じ

或いは、味の素だけを舐める

人間なんて全体で意味があるのでって、ある人の目が可愛いからって目玉だけとって

きてもしょうがないと思うんだよね

梵天:たまたま、味の素を摂取した時にドーパミンが出たからそれだけをとるという

嗜癖だね

優波離:サルのマスターベーションみたいなものさ

ジャンキーだよ

ストリートの

じゃがいもを食わないから栄養にならない

子供も産まないから何も増えない

ただ、“なまぐさ”がたまるだけ

梵天:それはお仕置きをしなくちゃいけないかもね

その東電OLというのはどんな性質の女なんだい?

優波離:まず摂食障害で、自分の体を厭離穢土だと思っている

どっか遠くに浄土を感じている

平等院鳳凰堂が綺麗だとか

V系とかピアス、タトゥーでその浄土にいたるとか

菩薩みたいにw

ユーミンの曲が防災放送のチャイムで流れるんだが、ナチュラルな感じで気に入らない

あと、バイクで2ケツで酔って吐いたんだけれども、その前にメントスを舐めていて、

メントス味のゲロを吐いた

そうしたら、サイダーを飲めなくなったとか

梵天:ガルシア効果だね

優波離:そうそう、ガルシア効果っていうって聞いた

梵天:誰に?

優波離:保健室の先生に

梵天:あー、臨床心理士の女ね

他には何か特徴は?

優波離:すごい潮吹きだね

一回セックスしたが1メートルぐらいの染みをベッドに作った

梵天:そうすると、メントスでガルシア効果になるような条件反射にかかりやすい

女で、あと、ユーミンと潮吹き、というのが、その女に関する情報かな

優波離:まあ、そんなところ

梵天:だったら、ユーミンの放送と潮吹きを条件付けしてやれば面白いよ

優波離:そんな事、出来るの?

梵天:だって、メントスのニオイで胃粘膜が刺激されるってあるんだろう

だったら、ユーミンのメロで膣壁が刺激されてもいいだろう

優波離:でも、ガルシア効果なんていうのは、味覚情報のみで、音や光をトリガー

にするのは無理と保健室の先生が言っていたけれども

梵天:君は『時計じかけのオレンジ』を見なかったのかい?

あの映画でアレックスは『第九』を聞くと吐き気がするという条件付けをされた

じゃないか

だから、メロで膣壁が刺激されるという条件付けも出来るんだよ

優波離:ユーミンを聴く度に潮吹きかあ

そんな事が出来るんだったら毎日2時には潮吹き、いや、もっと面白いお仕置きが

出来るかも

梵天:ユーミンと潮吹きの条件付けは教えてあげるから、それを利用してどんな

お仕置きをするかは自分で考えなさい

優波離:ああそうするよ

で、どうすればユーミンをトリガーにして潮吹きをするという条件反射を植え

付けられるの?

梵天:何か日常生活で、条件づけみたいな経験はないかね

ラジオ体操第一を聞けば自然と体が動くみたいな事はないかね

優波離:そういえば、

チャリを漕ぐのも、反復運動で、受動意識仮説みたいな状態になるから、

条件づけしやすいとか

だったら、セックスも自転車漕ぎみたいな反復運動だから、女性上位で女に反復運動

をさせれば、自転車を漕いでいる時と同じ脳の状態になる、その時にお経を唱えれば

解脱出来るとか

梵天:ほー

だったらそこでお経でなくてユーミンをきかせれば、その女、ちょうどその時潮を

吹いているんだろう、ユーミンのメロと潮吹きが条件づけされるかもね

優波離:そうだね

さっそくやってみる

梵天:鋭意邁進したまえ

上手く行ったら報告しにきて

優波離:もちろん

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