第2話 退屈な授業
リエラが出ていくと同時に、前の扉が開いて若い女の教師が入ってきた。
「教壇に向かって一同、起立、礼、着席」と日直が言った。
「それでは朝拝を始めます」
と教師。
ここは仏教系の高校で朝拝がある。
「係りの人、聖歌をお願いします」
「はい。
法の深山(のりのみやま)を歌います」
と日直が言った。
「いちにーのさん、
♪法のみ山のさくら花
昔のまーまに匂うなり
道の枝折(しおり)の跡とめて
さとりの高嶺の春を見よ」
「それでは次に般若心経を唱えます」
と教師。
一同「観自在菩薩 行深般若波 羅蜜多時 照見五蘊皆~~~~~~~~
~~~~」
「それでは最後に瞑想1分間」
「瞑想はじめー」
と日直が言う。
退屈だぁ、と海里は思った。
海里の家も尼寺なので、この手の事には慣れている筈だったが、退屈した。
海里は薄目を開けるとあたりを見回す。
窓際の後ろの方では、金井妃奈子が机の下で『JJ』をめくっていた。
家は豊かなお寺で、服でも靴でも何でも買って貰えるらしい。
見た感じは教師に言わせると『雁の寺』の若尾文子的エロさがあるという。
なんだそりゃ。
髪も茶髪のロン毛でしょっちゅう美容院に通っている感じ。
隣の席から腰巾着の太古望花が覗いていた。
見た感じは松たか子か。
望花の家は丸ビなので指をくわえて見ているだけ。
妃奈子は催眠・瞑想研究会の部員だ。
窓際前の方には、剛田剛が座っている。
家はお寺ではないのだが、仏教原理主義的なやつで、見た感じも金剛力士像みたいな
感じで、声も太くて、明王様だったらあんな声か、と思わせる声だ。
真ん中の列の前の方には、クラスのマドンナ、否、如来、遊佐蓮美が座っていた。
グレース・ケリーよりも美人。
取り巻きの猿田だの雉川だのの男子が近くに座っているが、休み時間になると
夏場は下敷きで仰いで風を送っている。今はもう秋だからそんな事はないが。
そんな蓮美も、中学校の頃に東北地方から引っ越してきたのだが、東北の大震災で
親類縁者の多くを亡くすという暗い過去があった。
そして廊下側の前の方には萬田郁恵がいた。
これも美形だが、グレース・ケリーとは違って、萌え系の可愛い顔で
『アルプスの少女ハイジ』と安室奈美恵を足して2で割った感じ。
眉尻の下の骨がコーカソイドの様に出ていて、あれ純粋に日本人か、
ハーフかクオーターなんじゃあないの? と言われていた。
郁恵の家は、海里んちの尼寺の系列の僧寺の大きなお寺だった。
郁恵んちに比べて尼寺なんて、檀家も少なく、僧寺の法事のお茶くみだのなんやらの
手伝いをして糊口をしのぐという感じだった。
という訳で海里は郁恵とは幼少の頃から付き合いはあったのだが、自分ちが貧しい
尼寺なので、密かに羨ましいと思っていた。
退屈な授業が始まった。
一限目は英語。
「He is a so-called bookworm
本の虫ってなんですか? 辞書をあけると小さい虫がいますよね。
あれが本の虫ですか」
と教師。
教室の中では、衣替えしたばっかのブレザーの背中が、無邪気に揺れていた。
わーっはっはっは。
窓の外を見ると、校庭の向こうの木々が風でざわざわと揺れていた。
二限目はじじいの教師のやる日本史。
白衣を着たじじいの教師が教壇でポケットに手を突っ込んでいた。
ポケットの先に穴が開いていていんきんをかいているという噂だった。
それから3時間目は袈裟を着た僧侶の教師の古典。
お布施と教員の給料のWで稼いでいる“なまぐさ”坊主。
それもあっという間に終わった。
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴ると教室はざわついた。
四時限目は体育だったが休講だった。
となりの7組も休みだった。
V系リエラが後ろの入り口から顔を突っ込んできた。
「部室に行こうか」
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