花屋敷~赤い花の秘密~

暴走天使アリス

花屋敷〜赤い花の秘密〜

ある山奥の屋敷に花が好きな女が住んでおった。敷地内には色とりどりの花が咲き乱れていて、それはそれは幻想的な屋敷だった。

女は花をとてもとても大切に扱っていて、花を粗末に扱う者を嫌い、敷地内の花を荒らすと鬼の形相で怒ったそうな。その女の死は突然訪れた。かなり大きな屋敷だったからか、金品を目的とした強盗が夜遅くに入ってきたそうでな、花を荒らされた挙句無惨に殺されてしまったそうだ。


それから数ヶ月後、屋敷に新しく人が住むようになった。事故物件ではあるものの広く綺麗な屋敷だったからか買い手はすぐに見つかった。だが、数日後に行方不明になった。警察も大規模な捜査を行なったが見つからず、捜査は打ち切りとなった。

それから屋敷を買う者は出てこなかった。だが、不思議なことに誰も管理をしていないにも関わらず、花が枯れることは何故か無かった。それどころか、不自然に、が増えていった。特に多いのが彼岸花だ。それからとある噂が経つようになった。

「屋敷に入ったものは二度と帰ってくることが出来ない」

たちまち心霊スポットとして名を馳せた屋敷は度々人が訪れおった。そして、その全員が結局帰ってこんかった。

これが「花屋敷」の都市伝説だ、お前も近づくでないぞ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「花屋敷…ねぇ」


俺は爺ちゃんに言われたことを思い出していた。厳しく、所謂厳格な人であったが、孫の俺には結構優しかったと思う。そんな爺ちゃんが厳しく言ってきたこと…花屋敷には近づくなという言葉。それを俺は破ることになりそうだ。


きっかけは、最近あった同窓会だ。俺たちのクラスは特段仲が良く、卒業して僅か5年で同窓会が開かれることになった。

久々に顔を合わせる友人達と談笑していると、1人がこんな事を言った。

「なあ、行きたい人だけでいいんだけどさ、せっかく夏だし、肝試しでもしねぇか?俺、花屋敷行ってみたいんだわ」


私はパス〜、私も〜と言った風に不参加の声が多く上がる中、

「いいね、面白そうやん」

「俺も行ってみようかなぁ」

「え〜、茂田君が行くなら私も行く〜!」

と、3人が参加を表明した。

周りが驚いていると、

「なあ、赤坂、一緒行かへん?」

そう誘われてしまった。こいつは1番の親友でよく一緒に行動してたやつだ。…爺ちゃんの言う事を破ることになるが、まあ、いいだろう。

「わかった、行くわ」

仕方なく参加を表明。様々な噂があるがきっと何事もなく終わる。そうこの時は思っていた。

「5人か、まあ、あんま大勢で行っても楽しくねぇし、丁度いいか」

どうやら5人で行くことが決定したらしい。30人居て5人も集まったのだからまあ、いい方だろう。…にしても`花屋敷´か。懐かしい話だな。地元だけでなく全国的にも有名な心スポだが、肝試しに行く奴はほぼ居ないらしい。

っと、そんなことを考えていると、具体的な日時が決まったらしい。何でも、今夜行くとか…今夜!?早すぎだろ。だが、すぐ行動する感じ、アイツらしいな。

「てことで俺らは懐中電灯とか買いに行くからこれで帰るわ〜」

そうして来て、1時間程だが同窓会を抜けることになった。


〜夜〜ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よっしゃ、お前ら装備品の準備は完璧か〜?」

各々自分の装備品を確認していく、懐中電灯にスマホ、替えの電池をポケットに入れて、靴や服は動きやすい物に変えた。…よし、完璧だな。

「準備完了…だな、うし!行くか!」

肝試しの発案者であるアイツは非常にテンションが高い、まあ行ってみたいって言う程だし楽しみにしてたんだろうな。かくいう俺たちは1名を除いて特に緊張感などはなく、観光くらいの心持ちである。


早速俺たちは山の中に入っていく。目的の屋敷は山の奥にあるためある程度時間がかかる。たわいもない話をしながら特に異変が起こることなく山道を進んでいく。そんな中ふとこんな話題が上がった。

「そういえば、花屋敷ってかなり有名な話だけどよ、それにしちゃ内容が薄いよな。二度と帰ってこなくなる以外に聞いたことねぇわ」

確かにこの話は有名にもかかわらず情報が非常に乏しい。屋敷内部の情報などが一切出回ってないのだ。だが、これについては理由がある。とてもシンプルな。

「誰も帰ってきてないから情報が持ち帰られることが無いんだってさ」

かつて、幾人もの人々が屋敷に足を踏み入れ、そのまま帰らぬ人となった。聞くところによれば既に確認されてるだけで1000人は帰ってきていないらしい。生配信をしながら来た人間もいるが屋敷に入った途端、原因不明の通信障害で配信が切れ、内部の情報が流れる事は無かったそうだ。警察が過去3度程大規模捜査を行おうと屋敷に入ろうとしたことがあるらしいが、普段なら起こりえない不具合やミスが重なり、ついには捜査を断念したそうだ。だがそんな警察も1度侵入に成功したことがある。大規模なものでなく小規模、3〜4人程の警官グループは難なく入れたようだ。もちろん帰ってくることは無かった。だが真相は定かでは無いが過去にたった2人だけ生きて帰ってきた人がいたそうだ。その2人は呪いを受け、今だ健在ではあるが、死ぬのも時間の問題だと言われている。

「噂に忠実ってか?情報が無いとはねぇ。てことは俺らが初の情報提供者になるわけか!」

そう言って笑うアイツ。1人は割としっかりとビビってるが、ほかの面々は軽いノリに乗っかり、少し騒がしくなる。

そんなこんなで俺たちはついに例の屋敷の前に到着していた。

「デケェェ…俺もこんなデケェ家住みてーわ」

思っていたものよりもひと回りもふた周りも大きな屋敷に一同驚く。

「ね、ねぇ。やっぱ帰ろうよ。二度と帰れなくなっちゃうんだよ?…怖いよ」

「大丈夫だよ、殺人鬼が住んでるんじゃあるまいし。帰れないなんてデマだよ。」

「そうそう!仮に殺人鬼が来ても俺が吹っ飛ばしてやっからよ!」

「…にしても広いねんなぁ、ここ。花もホンマに赤い花ばっか咲いとんやな」

…やはり、親友と言うのは考えることも似るようだ。ちょうど俺も赤い花を見ていた。花に詳しくないから種類は分からないが、たくさんの花が咲いている…彼岸花が多いのも本当なんだな。不吉な花が沢山咲いてるってのはホラー要素としては満点だな。だけど、月明かりに照らされた屋敷と花。……幻想的だ。

観光地として十分機能するんじゃないか?

俺が風景に感動を抱いていると…

「そんじゃ、そろそろ屋敷探索と洒落込むか!」

ついに屋敷に足を踏み入れるようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


屋敷に1歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのを感じた。玄関から奥がまるで、世界から隔絶されたかのように感じられる。空地が違うなんてよく聞くが、本当なんだと実感する。

「なんか…寒ぃな。雰囲気すげぇ」

アイツも心做しか雰囲気に圧倒されてるような気がした。

少し進むと左右に廊下が左右に別れた。

「どっちに進む?」

そう問いかけると全員からどっちでもいいと言われる。だから、とりあえず右から行くことにした。……なんで急に俺が先頭なんだ?

「おい、さっきまでお前が先頭だったろ?どうした?」

「いやな?こんなん柄じゃねぇけどよ、ちょっくらビビってんだわ。空気が違ぇって感じ?正直舐めてたわ」

まさか、正直にビビってるなんて言うと思ってなくて、驚く。まあ、それだけこの屋敷内が異質な空気感であるということだ。


先に進むと月明かりの差し込む廊下が続いていた。懐中電灯が無くても進める明るさだったから明かりを消した。歩く音だけが鳴り続ける。流石に軽口を叩く余裕は無いようだ。

少し先に部屋があった。入ってみる事にして、襖を開けた。

「…なんだ、これ」

襖を開けるとそこには所々に赤い花が咲いてる和室があった。

「なんで、畳から花が生えてんだ…」

明らかに花が生えるには不自然な箇所に花が咲いている。外の花と違いなんだか不気味な印象を持った。

「…気持ち悪ぃ。全部抜いとこーぜ」

「あ、おい!待て…」

俺が止める間もなくあいつは花を踏みつけ手で引き千切っていく。あっと言う間に部屋の花は見るも無惨な姿になっていた。

「その辺にしとけよ、あまり不用意に部屋の物に触れるな」

そう注意をすると、アイツはこちらに戻ってきた。右目を気にして擦りながら、

「なんか、汁が目に入っちまった。マジでいてぇ」

「大丈夫かいな?あんま擦らんときや」

そんな会話をしている親友とアイツを横目に俺は部屋を眺めていた。日本人形や掛け軸の飾ってある部屋で、何年も手入れされていないとは思えない綺麗さがあり、気味が悪くなって部屋を出ることにした。部屋を出る前ふと振り返って部屋を見ると人形がこちらを見ている気がしたが、よく見れば先程と変わらずそこに佇んでいるだけだった。


廊下に出て次の部屋を目指す。次に入った部屋は寝室のようで部屋の端に布団が敷いてあり、化粧台のようなものや椅子があった。そして当然のように部屋の所々に花が咲いていた。

「もう、本当に不気味だし怖いし、疲れたよ…」

そう言いながら彼女が椅子に座った瞬間。

ピキッ!!

と何かがひび割れたような音が鳴る。全員が驚きで硬直している中、原因を探るために部屋を見渡すと、ちょうどアイツを写していた鏡がひび割れていた。

「多分、これが割れた音だろうな」

「もう…!なんなのよ!ほんとにやだ…帰りたいよ…」

そう言いながら彼女が座り込んでしまった。

彼女の恋人である茂田が慰めている間、俺は割れた鏡を見つめていた。

鏡が割れるのは不吉なことが起こる前兆だと聞いた事がある。まあ、そんなことを今言うほど空気が読めない訳では無いので黙っておく。そんなことを考えていると鏡に近づくやつが一人。

「こりゃあ、怪奇現象ってやつか?やっぱマジモンの心スポなんだな…」

アイツが小声で何やらブツブツ言っている姿を見ていると違和感に気づく。…首元に蕁麻疹のような赤いブツブツが出来ている。

「おい、その首元の赤いのどうしたんだ?」

「ああ、これか?なんか知んねぇけど、すっげぇ痒いんだよな。さっきの花の汁でかぶれたかもしれねぇな」

そう言って首元を掻いている。酷くなるから余り搔くなよと言って未だに座り込んでいる彼女の方を見る。茂田と親友が2人がかりで慰めている。まあ、元々乗り気じゃなかったから仕方ないか、と思いつつ俺も慰め組に参戦する。

「もうヤダ…!帰る!これ以上ここに居たく無い…」

こりゃあ無理そうだな、とほかの面々と顔を見合わせる。

「わかった。帰ろうか。肝試しとしては十分過ぎる程だろう。皆もそれでいいか?」

この状況で拒否するやつはさすがに居なかった。彼女も支えられつつも立ち上がり全員で部屋を後にした。さほど遠くまで来ていないのでさっさと玄関へ向かう。

何事もなく玄関を開けると…

「どういう事だ…」

部屋が広がっていた。外の景色は上に付いた格子状の通気口によって見えるものの外に繋がって居なかった。

「確かにここから入ってきたはずやんな…?」

俺は一旦部屋から離れ廊下を見渡す。…確かに間違いなくここであってるはずだ。

「嘘嘘嘘!なんでよ…嫌だよ…!帰れなくなるって言うのはほんとだったんだ!玄関だったじゃんか!…なんで部屋になってるのよ…」

取り乱す彼女を宥めつつ俺も内心焦っていた。確かにここが玄関だったのだ。それが見たことの無い部屋に変わっている。明らかに怪奇現象では済まされないことが起きている。今までの人たちもこんな風に帰れなくなったのか…?嫌な汗がじっとりと背中を伝う。肝試しって涼むことが出来るはずだろ?なのに全身が火照って汗が流れていく。帰れないなんて笑えない冗談だ。

「とりあえず廊下で騒いでても仕方あらへん。落ち着くためにも最初の部屋に戻らへんか?」

「そうだね。一旦冷静になろう。こんな時こそ落ち着かないと」

2人がそう言うので1度最初の部屋に戻ることに。玄関だったところの部屋は流石に落ち着けそうにないので消去法で最初の部屋だ。何せ、玄関だったはずのこの部屋の中は何も無くただ、花が大量に咲いてるだけの部屋だったからだ。泣き崩れて動けない彼女を茂田が背負い最初に部屋に戻る。


何とか部屋に戻ってきて皆が一安心してる中、違和感を抱く。

人形の位置も変わってないし、掛け軸に変化もない。他の部屋と同じく


「っ!……なぁ。さっきさ、ここの部屋の花。荒らしてたよな…?なんで元に戻ってんだ?」

その事実を指摘し、全員が絶句する。無理もない。先程から異常事態が続いていて、落ち着くために戻ってきた部屋でも異変が起きていればこうもなる。

「嫌嫌嫌嫌…嘘だ、嘘だよ…うぅ、帰りたいよ…私が何したって言うのよ…」

…もはや彼女を慰める余裕は俺達には残っていなかった。口には出ていないが全員が恐怖でおかしくなりそうだった。彼女と茂田は抱き合って震え、親友は深呼吸をし、アイツは首や腕をしきりに掻いていた。そんな中俺はどうすれば外に出られるかを考えていた。上の通気口はとても人が入れる大きさじゃ無いし、壊すにしても上に位置しており、頑丈そうに見えるため無理だろう。玄関はなくなっているし、今のところ窓のようなものもない。スマホも何故か電源が付かない。

……先に進むしかないか

「みんな、先へ進もう。ここにずっと居たって解決しない。何処か出られそうなところを探さないと一生出られない」

「…そうやな。どうにかして外に出なあかんし、そのためにも行動せぇへんとな」


出口を探すために全員で再び廊下に出る。慎重に進んでいく。無限にも思える廊下を少しずつ。やっとの思いで寝室を超え次の部屋の襖を開ける。中に入り、出られそうな場所がないか探す。だがそんなものは見当たらず次に行くために全員に声をかけようとした時異変に気づく。

「お、おい。大丈夫か?」

アイツが右目を押さえて蹲っている。

「どしたん?右目が痛いんか?」

親友がそう言って近づく。すると、アイツはやっと顔を上げた。その顔……正しくは右目からは血止めどなくが流れ出ていた。

「た、助けてくれ…右目が、右目が痛ぇんだよ…」

咄嗟に距離をとる俺たち。

「な、なんで、逃げんだよ…俺たちダチだろ?どうにかしてくれよ…」

そう言ってこちらに寄ってこようとした途端、突然呻き声を上げて目を押えながら後ずさる。

「痛ぇぇ…!あ゙あ゙ぁぁ!!助げでぐれぇぇぇ!!」

上を向き絶叫し出す様子に俺たちは息を忘れたように見つめ続ける。影が縫い付けられたように体が動かなかった。苦しそうに叫ぶアイツをただ見ることしか出来ない。

「死んじまうぅ!!だれがぁ!ダスゲ…ッッッ!!」

グチュリ

突然、何かが肉を突き破るような音がした。

見れば…アイツの目から…花が咲いていた。

それだけでは無い。首元に出来ていた赤いブツブツ全てから芽が出ていた。他にも腕や足からも芽が出て、植物にしてはあまりに異常な成長速度で育っていく。

「嘘…こんなのって……」

身体中から花を咲かせたあいつは既に…事切れていた。しばらく…誰もその場から動くことが出来なかった。


何が起きたんだ。なぜ体から花が…………。

そういえばアイツ…花の汁が目に入ったって……まさかそれが原因なのか?そんなことが有り得るのか…?

あいつの死体を見ていると、ある事実に気づく。

……死体が減っていく…まるであの花が血肉を吸っているかのように。数分もするとアイツの来ていた服や装備品だけになっていた。

その服や装備品すらも花の溶解液のようなもので溶けていく。

…まさか、部屋の所々に咲いてる花って…

そんな考えに至った時、

「ふふっ。んふふ…あはははは!!」

突然彼女が狂ったように笑いだした。

「おい!何がおかし「みんなみんなここで死ぬんだァ!私も茂田も!あんたもあんたも!!こんなところに来たから!!ほら見てよぉ!首元!腕も!アイツみたいに花をめちゃめちゃにしてないのに赤くなってる!!ほらあんた達も!もう終わりなのよ!あはははは!!みんなここで花になって死ぬのよ!!」


言われて初めて気がついた…俺も腕に赤い跡がついている。ほかの面々も所々に赤い跡が。

「クソッ!どうなってるんだ!」

そんなの俺だって知らない。何故だ、なぜなんだ。この屋敷に居るだけでダメなのか?外に出られさえすればどうにかなるのか?分からない。分からないが一刻も早く外に出なければならない。

「分からん!とにかく先に進むぞ。一刻も早く外に出るんだ」

既に精神崩壊してしまった彼女を茂田に引っ張ってきてもらいながら先へどんどん進む。慎重になどなっていられない。長い長い廊下が終わり左に曲がると廊下の突き当たりにまた左に曲がる場所があり、そのちょうど中央、廊下の真ん中に部屋があったため襖をサッと開けた。その部屋は他の部屋よりも圧倒的に花の数が多かった。元玄関の部屋よりも多い。足を踏み入れようとしてが、急にとてつもなく嫌な予感を感じ、一歩後ずさる。その刹那。隣にいた彼女が何者かに足を引きずられるかのようにものすごい勢いで部屋に引きずり込まれた。

「嫌ァァァァァァァァ!!!!」

グチュリグチュリ

と嫌な音を激しく立てながら身体中から花が咲き始める。

「死ぬ死ぬ死ぬ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!…ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

悲痛な笑い声が頭に響く。隣で

ドサッ

っと重たいものが落ちる音がし見てみると、

首から上がない…正確には首から上が花に置き換わった人間…だったものが立っていた。首から無数の花を咲かせた茂田は部屋の中に倒れ込み、体からも花を咲かせ始める。

「クソクソクソ!!なんやねん!!こないな事どうすればねん!!」

気づけば2人で駆け出していた。とにかくその場にいたくなかった。走って走って走って気づくと玄関前にいた。

「一周してきたのか…?」

ヤケクソで玄関を勢いよく開ける。すると…

「外や!外やで!これで帰れるんや!」

初めに見たあの部屋ではなく外の景色が広がって居た。急いで外に出る。難なく外に出ることが出来た俺たちはとにかく一刻も早く屋敷から離れようと走る。だが…

「ハッハッハッ…なっ!!」

隣で転倒する親友。大丈夫か!と声をかけようとすると勢いよく後ろに引きずられていく。屋敷の方を見ると玄関からあの部屋が見えており、大量の花が玄関から確認できる。

「そんな!!嫌や!!嫌やァァァァァァ!!」

咄嗟に手を取ろうとするも間に合わず玄関まで引きずり込まれる。完全に玄関に戻される前に間一髪で玄関の外側を右手で掴む。

だが、玄関の襖が勢い良く閉まる。まるでギロチンのように親友の手を容赦なく切り落としながら入口を固く閉ざした。

「ぃだいい゛い゛!!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

絶叫が屋敷内から響いてくる。

俺は……逃げた。山道を走って走って走って走って、友人を4人失ってなお、自らが生きるために来た道を全力で駆け抜けた。屋敷に入るんじゃなかった。爺ちゃんの言いつけを守っていればよかった。様々な後悔が湯水の如く湧き出てくる。だがもう遅い。全てが遅すぎた。幸い、あの、謎の引きずり込まれる現象に襲われることなくようやく山の麓に戻ってこられた。

「た、助かった…?」

振り返ってみても特段何の変哲もない山道があるだけ。涙が止めどなく溢れてきた。恐怖から抜け出せた安心感、友人を失った悲しみ、後悔。様々な感情が混じりあってその場にしゃがみこんだ。

数分間泣き続け、感情を整理した。何とか立ち上がり、このことを伝えなければと思う。友人の家族にも謝罪しよう。爺ちゃんにも謝ろう。このことを後世に伝えよう、誰も立ち入っては行けないと。それが…唯一生き延びた俺のできることだから。そのための1歩を踏み出した。















グチュリ

「………は?」

グチュグチュ!!グシャァ!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ある山の麓に1人の人影があった。

「あれほど…あれほど屋敷に近づくなと言うたのにから…」

その老人は山の麓に不自然に咲いている彼岸花に語りかけていた。

「ワシももうそろそろかの…」

そう呟いていると…

「赤坂の爺さん…何しとるんじゃ?……あまり屋敷に近づくと花が活性化するぞい?」

「もうどうせ老い先短いんだ、関係ないわい」


そう言って彼岸花に手を合わせてから2人の老人は立ち去っていく。2人の体には無数のが付いていた。



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花屋敷~赤い花の秘密~ 暴走天使アリス @mahosama

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