第43話 ブラン、ポップ、ふれい、コア、ネア、トイ

くせっ毛の赤髪は水舟にぷかぷかと寝そべっている。

仰向けで見上げる天はぽつりぽつりと雨模様。

敗北の雨に打たれながら、女としては巨躯である鍛え上げられた身はうかぶ。


はげしくチャンバラし破壊行動を繰り返した街で、マリティーレッドははりついていた赤い前髪をひとつかき上げた。


「マリティーブラン。まさかガキンチョにコテンパンにされるとは井の中の蛙。魔法ソード少女をしらず────あぁーもぅなんだってんだよー……燃えてきたじゃねぇか、天才格闘少女、今度は天才魔法ソード少女にいどむ────へっ。……ふつうにくやしいな、クッソくっそくっそ! 年下に負けるのが嫌で引退したんじゃないし、あぁー他のことまでムカついてきた! マリティーブランぜったいリベンジするううううあーーー」




心地よい……気がしただけかもしれない、ふつうにくやしいひとつの敗北に浸りながら。









マリティーブランの黒い円盤の追加カッチューに吸い寄せられた赤い雷球は、黒球にリサイクルされ5割ほどのチカラでそのまま奇怪女へと返された。


やがて返した魔法は敵へと炸裂し黒く爆発したが、その敵は鎌を回転させながらシールド代わりにし防いだ。


「カラクリがわからないなー、それは厄介だな」


「魔法ソード少女じゃないなら分からなくて当然。あなたみたいなの、狂っているから倒さないといけない」


「んー、ひじょうに面白くないこだなー」


剣と鎌の火花を見上げる魔法ソード少女たち──彼女らの窮地に割り込んだマリティーブランと奇怪女は建物を蹴り乗り移り空中戦を繰り広げながら互角に切り結んでいるようにみえる。


右手をまりょくコントロールのしすぎで熱くなったデコに添えながらポップは高々と争っている黒いシルエットを注視した。


「おスカし…また良いところで来たのね。ハッ、って遅れてきた身でこのマリティーポップの獲物横取りしてんじゃないわよーおスカしあはははは! ってコラ。さなだふれいあんたヘマして剣がないんだから前に出過ぎたらまた叱られるわよ」


ポップはふらふらと前に釣られていったふれいの首根っこをつかんだ。


ふれいはブラックカフェのマスターであるカラムシに頑丈につくられていたMT10規格の剣が折れ、いまはもう手元にはもうない。


「んー…」


つまりたたかえない。

じぶんがいま空へと石ころを投げるのも彼女はちがうとこのときわかった。

おなじく見上げみまもる黒いシルエットに、手を伸ばすより…ふれいは何故か拳をにぎっていた。





(このストロー、あの象人間のストローより強いのかもしれない。何者かは分からないけど戦い慣れているし隙がない、パワーも──)


「そうだよ、俺って強いよ。お前もこの中ではまぁなかなか完成度が高くて強いけど、そういう賢い優等生ほど戯れてみるとわかっちゃうだ・ろ? 純粋な生物としてのレベルの差が、その限界点ってヤツ♡がッッ」


ブランは技術剣術的には互角に斬り結んでいたものの、トツゼン増した膂力とまりょくで勝られ、振り下ろされた鎌のイチゲキの衝撃を完全には殺せず、宙空の舞台からはたき落とされてしまった。


がきーんと、金属音が高鳴り、天から地に迫るも、上手い体捌きで地に接したローファーコンベアⅡは地上を滑り、スムーズに体勢を立て直した。


ブランがはたき落とされた瞬間、虎視眈々とその剣を研ぎ澄ませ待っていたマリティーコアがまた鎌女の生じた隙を一気についた。


「君ってさぁ…ほんと才能ないね。ははははは。ナニもないやつほど吠・え・る♡」


「クソ野郎! お前はそんなに偉いのか!」


「偉いさ、持って生まれたこの身この頭は! 君も見た目だけは合格だねははははは」


感情を表に怒るマリティーコアと裏も表を理解不能──嗤う鎌女。


ビル中に潜み、四角い窓枠から飛び出した死角からの剣を、湾曲した鎌が受け止め鍔迫り合った。




(イレブンのマリティーコア……。万能の魔法をつかい名刀エレガントソードをもつ…プライドがすこし高い魔法ソード少女──なら)


黒セーラーは華麗に荒れた地を滑り、自分と時間差で攻撃を開始した同じイレブンであるマリティーコアのうごきを見上げつつも──


「遅れて登場した割には、普通に負けそうじゃないのおスカしさん」


目指していたのは目立つ水色と赤のめじるしであった。


「──…ここまでアレをあなたたちが」


「ハンっ、はいはいどうせこれぐらいさっさと倒してとかよっわーーいぷぷぷだとか説教すんでしょー。援護【バブルポップ】!!」


「あなたは何を言ってるの? こうしてる間にも、さっさと質の良い作戦を立てるべきじゃない。──魔法ソード少女として」


「えは??」


耳に入ったそのクールな声色は期待していた種類の棘とは違い──


まほうの泡を空にぷかぷかと浮かばせながら、マリティーポップはブランの澄まし顔をみておどろいた。





ふれいとポップ、それとブラン。またいつかのいつもの3人が、なつかしの三角形を築き向かい合った。



「剣を失ったのね」


「うん。ごめん…マリティーブラン」


真田ふれいはしおらしく、剣がないことに気付き問うたマリティーブランに謝った。


「って親指たてず謝るなんて珍しいじゃないの…。ま、謝っても仕方ないでしょ、また今上でなんか時間稼いでくれてるっぽいお嬢様のリッチな剣をかりれば」


「んーーでも、大魔法…そうさい? ってされた」


「実力のちかいもの同士で起こりうる魔法威力の相殺ね。それならやっぱりあの鎌使いは速さに加えて象人間ぐらいのパワーはあるということ。でも剣の貸し借りは危険だわ、魔法ソード少女の生命線をそう易々とするのはあまり褒められたものじゃないと思う」


「あはは、あんた優等生、たしかに言えてるけど、あのヘンタイ倒すには今はあんたと爆弾娘が万全のフルパワーでなんとかするしかないっぽいんだけど。──お膳立ては必要でしょ?」


「…そうね」


ポップは冷静にも両手をおおきく広げながらそう言った。それを受けたブランも、すこし目を見開きながらも、冷静にポップの言った間違いではないことにひとことで頷いた。



ブランが頷いたらすぐ──すごい音がすぐ隣にきこえた。天から弾き飛ばされてきた臙脂色のドレスが、地へと衝突音を鳴らす。


ブランとかわりばんこに入った鎌女との戦いの末に、落ちてきたマリティーコアはすぐにその身を起き上がり、空を睨み──わらう水色髪を見つけ睨みつけた。


「あ、おつかれー。期待よりおそかったじゃないの」


「ッふざけるな。何を呑気に雑談しているの、馬鹿か!」


「何もだだ雑談していたんじゃないわよ、この天才マリティーポップが器用に世話の焼ける援護もしたでしょ。それにフッフッフ喜びなさい顰めっ面、ここに落ちてきたのはあんたの頑張りだけじゃないみたいってね」


ニヤリ、ポップが歯をみせわらうのは、状況をまだ諦めていないとき。


「ええ、魔法ソード少女と──〝剣〟はそろったみたい。つなぎあわせて、ここに奇しくも────」


ブランが見据え見つめる先に、

灰色の姉妹は──おおきな猫に化けその背に乗りけいかいな足音をならし駆けつけた。


ポップがニヤリと見上げる先に、

妖しい緑髪が学校の上に揺れている。


コアは己がちらした粉塵が明けて、視界にみえた赤備えを訝しみ、──だが分からない。それがただならぬ妖気をはなつ武器であることしか。


真田ふれいはその目の前に突き刺さる、天から地へと突如舞い降りた────黒い鞘に仕舞われた刀の柄を手に取った。



偶然、僥倖、奮闘、呵成



ここに魔法ソード少女は集結し、剣はつどう。


見上げるのは邪悪、敵、鎌と雷をあやつる嗤うストローにたいして、


今、その刃を剥き出し、まりょくを宿す。

伝った作戦と意思にうなずいた6人の少女たちは強大な悪に向かい、つどっていた14の足影はわかれて散っていった。

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