第42話 悪と善
「ほらほらどしたァァ! 魔法ソード少女さんっ! 雑魚戦明けで張り切りすぎてまりょくおちてんかぁーーひゃひゃ!」
「こいつ! あちこちわかってて逃げて! さっきのよりこっすいわねぇー!」
「こすい? このていどが? はははははほら全力だせ泡っぽいの気抜くとさっきみたいに生意気なケツに被弾すんぞーーはははははふっふんコントロールだけはそこそこいいねえええじゃぁこの魔法も飽きてきたしお次は──ゾッコーー★はははは全然飽きないいいい」
「あったまおかしいわねえええ!! 無限【バブルポップ】!!!(あんだけ撃ってもまりょくは不思議とまだ底ではないらしいけど、左小指がまぁーだ痺れてんの調子狂うわね、あーあちこちかんがえんのは一旦やめっ今は調子乗ってるコイツに泡吹かすには…)」
鎌を回しながら生成した宙に浮く丸い雷ボールは、同じような性質で追尾しポップの繰り出した泡粒魔法と衝突し合う。
黒赤ツートン色の奇怪な女はあちこちのらりくらり移動しなしながら他の魔法ソード少女を無視。ポップにだけ露骨に狙いを集中し、魔法の飛び道具だけでアタック&翻弄。
先程の連戦で消費したであろうまりょく量の万全ではないポップに、荒れ壊れた街のあちこちから雷球を向かわせおちょくっている。
なおも飽きずに星空のスカートをはためかせながら街を笑いながら跳びはねる女ストローは、──唐突に額に礫がぶち当たった。
「あてっ!? え、なに? あ? なんで石投げてる? フフははは、ねぇねぇナニそれ? ねぇ、ねぇっ!!」
カッチュー一体型のウエストポーチから石を飛ぶ女に投げつづけた戦う剣の折れた真田ふれいは、奇怪女の額に石をクリーンヒットさせたことで気を引いてしまい、いつの間にやら飛ぶ石を今度はひょひょいと避け空から地へと一気に距離を詰め寄られた。
そして何もかも見開いた狂ったヒトの限界を超えたような表情を目と鼻の先でする化粧顔に、ふれいは防ぐ術なく横薙ぎにしなる右脚で蹴り飛ばされた。
と同時に、コアはふれいを捨て石にし奇怪女の後ろから接近戦を仕掛けた。
だがそのふざけたツインテールを揺らし振り向くこともなく、器用に背に差し込んだ鎌は凶刃を受け止めた。
「んん、足りてるなー。だから君はたーりないっ! ──殺気をちびりたらす見かけ倒し、ソレ人類でいちばん雑魚♡どうぶつやってろ!」
ゾワリ襲いくる殺気。咄嗟に構えた獅子の盾は一気に振り向きながら鋭く落とされた鎌のイチゲキに火花を散らし、凌いだ。
「のたまってろ!! 【ウインドコア】!!!」
りょりょくに弾き飛ばされ上手く凌いだと同時に、盾に宿した金獅子の牙口から、猛々しい風音を上げどっと風が吹き流れた。
構え堪えた盾から渦巻く風の魔法は、鎌を振り下ろした瞬間の奇怪女の隙を捉えて後ろへと吹き流した。
流れていく──虚をついたが大したダメージにはならない強風の魔法に流れていく──ながれていくのはソレだけか?
ギラリと一瞬よぎった煌めきは、すでに別の少女の手にあり。
赤備えの魔法ソード少女は風の吹き止んだ後ろから、スベテがあつらえられたようにこっちへと流れてきたガラ空きの背へと受け取ったエレガントソードを勇ましく振り下ろした。
「【ふれいぼむ・えんど】!!!」
「【
首振り返った悪魔的形相に──炎剣はそのまま接触し、爆発した。
黒雷と赤炎が燃え盛り合い混じり合い────
「おおっお? 咄嗟とはいえ相殺──いや、ふふふすごいじゃんお前の魔法、ん──地蔵みたいにしゃべんねー炎爺さんを倒したのオマエだろははは? 一席減らしてくれてあ・り・が・と♡ところで俺はそのうち〝ここもあっこも全部乗っ取って人が絶対的に持つ性悪その自然悪を悪魔的にぞんぶんリミットなしに摂取しまさに健全に手始めに君みたいなまだ頭のやらかそうな子どもたちが善悪をパーフェクトに知り育ァァァァつ真にバランスした自由をもつおもしろい悪善ノ王国〟をつくるんだ・け・ど、おまえ俺とくる? うんうんそれこそ妹とお姉ぇぇちゃん! それともナニ──俺様をソレで殺せるかな?」
鎌と剣はその刃を交わり止まり、ふれいに交わった抑え切れず捲し立てる狂気の視線は返答を求めた。
悪善ノ王国。耳にすり抜けただけでは訳の分からない夢計画を奇怪女は語り────
「!────魔法ちょーちょ少女! マリティーポップもマリティーブランもコアも、いっしょにストローたおす!」
問われたふれいは目の前の敵に笑った。
いっしょにストローを倒すこと、いつもやってきたこと。
魔法ソード少女、真田ふれいとして
「なるほどなるほど────おまえバカっぽいな。ヤハリ道端のめっずらしい石ころは蹴えええええええええルっ!!!」
黒く濁ったまりょくドームから赤いモノが突き抜けた。
そして尻尾はソレにぐるりしっかりと巻きつき、飛んでいただいじなものを何処かへぶつかる前にひろった。
「私の剣を返せ、赤太郎」
「涎たらして待ってたってのよ! 容赦なし【バブルポップ】!!!」
天にスベテ悠々と待機させていた泡魔法の雨は、明けたまりょくドームに一気に降り注いだ。
激しく一点に集束し連続爆発するありったけの大魔法は、景色を敵を一切の容赦なく水色に染め上げていく。
「うるさいなぁー、────────舌噛んじゃったよフハハハ」
舌を血で赤く染め上げワラう鎌持つ悪魔がそこにいる。
クリーンヒットしたように見えていたポップは肩で呼吸し疲れた息を吐きながら、その直立する悪のシルエットに目を細めた。疑っても目に映る真実に──
「あんた全部当てたわよねぇ……さっきの氷怪人より…きい」
「さっきの? あぁブラザーフリーズか。アレって俺の搾りカスだから退屈だったでしょははははははどうだ善と悪バランスが逆転したホンモノっておもしろいだろぅ? この俺ワタクシが人のあるべきすっ・がっ・たっ♡」
「イカれてるなこのクソ野郎…」
コアはどうにも掴みどころのない、ただ人としてイカれていると感じた敵の女にひび割れた盾ともどってきた熱い剣を構えた。
「イカれちまっていいじゃないか、この世には悪魔も天使も必要だ。お前らが天使を演じるならオレは純粋なあっ・くっ・まっ♡差し詰めロールプレイングゲーム! アレって好きでさ悪善に通じるものがあるじゃない、バカつよい魔王を倒すため馬鹿みたいに雑魚モンスター倒して経験値ひっそりみみっちく稼ぐ健気な勇者ってのを見てるときゅんと
集まった3人の魔法ソード少女たちに、赤い雷が放出された。
荒々しくうねる唸る赤雷が避けようとした3人それぞれを自在に空を泳ぐ龍のごとく、襲い噛み付いた。
だが、龍は吸い寄せられていく。
その三つ首は、制御を失い吸い寄せられた黒い円盤へと首を突っ込み──みるみると丸い平面にぶつかった首から無くなっていく。
『【サークルリサイクル】──【スイッチ】』
三つ首の赤龍は、黒い龍となり円盤のナカからふたたびリサイクルされ召喚された。
そしてそのまま一気に鎌を威勢よく下ろし突っ立つ敵へと、お返しされた。
「私はきらい、しゃべるストローは」
「へぇー……稼いでるじゃん──みしらぬ魔法ソード少女さん…」
痺れる凶暴な黒龍は元飼い主に手痛く噛みつき、その首を鎌で切り落とされた。
その身を並じゃない魔法で焼かれた悪魔は、長舌から滴る血を含み飲みながら、目を細めわらった。
魔法を返した謎の円盤と、破壊された街並みにクールに佇む黒セーラーに。
ちいさく羽をとめた黒い髪の魔法ソード少女マリティーブランは、3人の魔法ソード少女の前へとド派手颯爽と現れた。
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