第41話 男と魔法ソード少女と…
氷の怪人と炎剣の少女のつくったまりょくドームは、ふたたび紅に染まった。
激しい魔法合戦の結果──マリティーコアとマリティーポップはその勝利を誇示する真っ赤な色を見て笑った。
「にんげんの趣味の範囲超えてない? 魔法ソード少女の生観戦、ひょっとしてどんなスポーツより熱く推せるのも居るんじゃん。──ふふふ」
そのオッドアイにも魔法ソード少女チームの勝利の模様がでかでかと映る、特等席で観戦していた灰色の猫は毛を逆立たせながら笑った。
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魔法ソード少女たちは勇ましく剣を突いた赤備えを目印にまた集まり、そこにべったりとうつ伏せに倒れた氷の怪人が覆っていた氷の面を溶かして元の姿に戻りつつあった。
「どうやってジレンマを……」
白い蒸気を天に上らせ、溶けゆく半怪人はしゃがれた声で赤備えの少女を睨みそう言った。
「魔法ソード少女の魔法はだれでも進化するただそれだけだろ、さっさと私の剣は返せ赤太郎」
コアはふれいが手持ち離さずいたエレガントソードを無理矢理ぶんどった。
「ナイスアシストさっすが寿司屋! そうねーまっ、このマリティーポップに騙し合いで喋りで勝とうなんて相手が悪かったわね、ってあんた赤太郎って何よそのセンスのないソレ……ねっ、さなだふれい!」
「んーーー? んーーーなんかうごけた──!」
ポップの明るいしゃべりに、ふれいはいつもの親指で答えた。
エレガントソードを装備し二度披露した【ふれいぼむ・えんど】の大魔法で、結果見事に敵を誘い出し倒すことに成功した。
「ハハハなるほどな…まさかこのチカラを使って負けるとはな……人生で最高に情けないってヤツだ」
「あんた氷の怪人だったわけね」
「怪人か……フッ。さてどうするガキども?」
纏った氷がだらだらと溶けてゆく、びしょ濡れの白スーツと黒髪の男の姿がまた見えてきた。
敵は不敵というよりは諦めに近い柔らかさのある微笑い顔をしている。
「どうもこうもねー、あんた今怪人の変人から胡散臭い白スーツのおっさんだしさすがに? この前の象人間みたいな見るからにヤバそうな変態ならスパっとヤリやすかったんだけど?」
ポップはどちらとも言えないことを言い両手を広げながら首を傾げた。
「殺したいところだけど、喋れるなら目的とか吐かせてから殺すから。ただ殺すのは楽な道、暴れたら容赦なく殺せばいい、──魔法ソード少女が」
「はいはーーい天下のぬえ寿司さんに賛成、さなだふれいもそれでいい? ま、あんたがぶっ殺すとか言ったら天地のひっくり返るびっくり仰天だけど! あははは」
コアはその剣を、汗水ながし地にくたばる男に向けた。ポップもコアの考えに同意し、男の持つ情報を喋らせるだけ喋らせることを選んだ。
男は眉間にシワを寄せて予想外ではあるが、考えてみれば少女たちであれば出てきてもおかしくない答えを聞き押し黙った。
(なんだと……甘いな。もっともらしい理由つけて人殺しはイヤだってか、さっきまで命を懸けていたと思えないしょせんガキだな。こんなやつらを相手に俺は、イヤ俺もこの氷のチカラに振り回────────)
「んーー…ん?──! こうげき!」
ポップに同意を求められていたふれいは考えている最中に気付いた。
〝こうげき!〟
その一言の意味に、仲間たちは感じた悪寒に後ろに飛び避けた。
3人が並んでいたラインに突然──赤い雷が地を焼きはしった。
眩しく荒れた魔法ソード少女たちの視界に────増えたひとつのシルエット。
「やぁ、こそこそお出かけしては随分とみっともなくヤラれてるじゃないかブラザーフリーズ。同じせまい部屋ですごした我が半身」
妖しい女の声は見下ろすしたり顔でつぶやく。
「てめぇ……ぐっ……」
そして右の黒いヒールで寝転ぶ反抗的な目をした黒い頭を踏みつけて、──あそぶ。
「踏ん付けちゃった。あーこの踏み心地に遠い懐かしささえ覚えるものだフフフフフ、リンチされてかわいそうだな。お兄ちゃん、いやお姉ちゃんが助けてやろうか?」
「嘘つけ……このクソや」
「やだなー、本心だッッ!!! ──フフフ、こうしてポンと蹴るのもなっつーーーー★」
左の赤い靴でブラザーを蹴飛ばした。
蹴飛ばしたものはとてつもないスピードで一直線に学校の頂に飾られ時をきざんでいた大時計へと刺さった。
「な、なななにこいつ? アイツを蹴飛ばした!? 魔法ソード少女?」
ポップはその数秒の始終を見ておどろいた。
男を蹴飛ばし立つ女が、あまりにも予想外で意味不明であったのだ。
「やだなー少女に見える? フフフフフ、男は飽きちゃったからねしばらくこっちにした。色々とおしゃれも覚えちゃってさ、褒められるとうれしいのさ──どう?」
「は!? なんなのこいつ?? えオカマ??」
履く夜空に星々を飾ったようなオシャレスカートをひろげ、ガニ股気味でへんてこなポーズを取った。背のすらっと高すぎる赤と黒のツートンカラーのツインテール女は、舌を左にれろっと出しながら目を見開き笑った。
「馬鹿、そんなのどっちでもいい。成金でダサいこいつは──クソ野郎に違いない」
化粧の濃い異様な雰囲気の女に、コアは険しい形相で剣を突き付けた。
両手をぷらんと脱力するよう広げた敵の女はら赤と黒の尾っぽをちょんちょんと摘みあそばせながら、フザケタトーンでのたまった。
「え〜、成金ではなくダサくはないだろう? マ、口の悪さ合戦はどうでもいいや。ごめんね退屈させちゃって、出来の悪い虚弱搾りカスに代わり今度はお待たせ★〝真のお姉ちゃん♡〟とはじめようか魔法ソード少女さんっ、フフフフフハハハ」
魔法ソード少女ではないらしい──まるで道化、謎の女参戦。
どこからか召喚した大鎌を手に取った姿は、悪、この世にあらわれた悪魔にも見えるようであった。
意味不明との連戦は冗談じゃない……マリティーポップはそんなハードな顔で、汗を一筋垂らしながら構えた。
同じく、いつものように目の前の敵に躊躇なく剣を構えた真田ふれいは、みょうにかるい……虚空の柄と刃の感覚に──苦笑った。
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