第39話 泡vs氷vs
振り向いたマリティーポップは──むすっとしたおおきな猫目と見つめ合う。
「ってあんたもストロー!? は!?」
「ふざけてんのあんた? だれがスト痛ッ──」
マリティーポップの見ていたモノは、いっぴきの灰色の猫から、ひとりの灰髪の魔法ソード少女に縮み戻った。全身に突き刺さった氷片を溶かし、少し痛みをひきずり歯を食いしばりながら。
そして姉のマリティーネアはその背に守っていた同じ灰色髪の妹マリティートイの無事をポップとこれ以上喋るより先に確認した。
「へぇー汚れた化け猫になるそんな絵本チックで魔法らしい魔法なんてあるのねー」
「さっきからあんたも、アレも…なんなわけ」
「アレは爆弾娘、これは完璧なマリティーポップ。あはははだからとりあえず大魔法は決まったし安心ってことじゃない、────ってアレでヤレてないのね!? あ、あんたたちはドブ猫にでもなって自分の身守ってなさい!」
「誰がドブ猫。──でもアレでヤレてない、アイツもなんなのよ(明らかにストローではないし、世を動かす者……魔法ソード少女がこんなにいるなら物言わぬストローだけじゃなく、少しぐらい悪役を演じる者もいるということ?)」
ヤレてないそんなふれいの横顔の元へとポップはまだ噛み付く元気のありそうな灰色姉妹を捨て置き、そそくさと駆けつけた。
真田ふれいは硬直してるのに気付かない白スーツと険しい顔での見つめ合いにらめっこの膠着状態であった。
「まったくいい感じにお膳立てたのにアレ外したの? (ここで前に出すぎるのも変ね、じかんかせぎ)」
「んーー、ちょっこし…たくさん? ひょうざん?」
「少し早めの氷魔法のバーゲンセールってわけね、ゼンブ溶けたようだけど」
「なんだってんだクソ野郎ども……バカくせぇ姉妹愛の次はいいタイミングで変なガキどもに邪魔される。すごく気分が悪いことだぞそれはハハハ分かってんのか? おかげでくだらねぇ怒りもすっかり冷えちまった」
「なら無駄口叩いてないで帰ったら? そのへんのストローより少しは理性ありそうじゃん」
「あぁ、帰るつもりがゴミ掃除中に懐いてくるへんな猫どもを見つけたら構ってやりたくなるだろニンゲン?」
紅い大魔法で氷の世界は円く消し飛び、熱で溶けてしまった首元の氷のネクタイを、男はまた細く凍らせ器用に締めなおした。
両肩をゆっくりと揉みほぐし、男はちゃくちゃくと次へ向けての準備を進めている様子である。
「んーー…ナル──!」
「はいはい馬鹿言ってんじゃないの、さっさともう1発大魔法をぶつけて場違いな野郎は片付けるわよ。魔法ソード少女としてネッ!!」
マリティーポップは勇ましく硬直したままの真田ふれいの前方に歩み立ち、MT3規格の自分の剣を薄くニヤつく白スーツの男へと構えた。
▼
▽
「あのなんか出来の悪い鏡みたいな失礼な水色、口だけじゃなくてヤルわね……新しいイレブン? ここは下手に横槍入れて刺激するより任せるか。完璧な姉は起きない妹のせいで動けないからね、(逆の立場って少し気分のいいものね)ハッ、動いた時には一気にアイツの喉元噛みちぎってヤル…」
灰色の猫に化けたマリティーネアはまりょくを使いすぎ未だ目覚めない妹をかつぎ、戦いを見下ろせる安全な地帯へと避難した。
風に乗る泡粒砲とそれをトゲ刺す氷の薔薇の矢、
飛び交って、触れ合って、ところどころ爆発。
遠距離での激しい水と氷の魔法合戦がはじまっていた。
「くっそーーコイツ遠ざかって近寄らせない気!!!」
「ハハいつまで持つその爆発する泡の残弾は! 素直に凍ってくれないじゃじゃ馬水娘!」
激しい合戦に乗じて、ふれいは壊れた路地街並みの横道を抜けてまた仕掛けた。
「【ふれいぼむ】──」
「それはとてつもなくワンパターンというヤツだ【マザーローズ】」
壊れた街並みに潜伏待機させていた氷の薔薇は刺さって咲いていた地から浮き上がり、そのまま鋭い茎尻を向けて大した策もなく仕掛けてきた赤備えの剣士を襲った。
赤熱する剣を盾にし、薔薇を溶かすも、幾つかカッチューに突き刺さり、再び怯んだ面を向けてふれいが向かおうとしたときには白スーツの敵はそのポイントから遠ざかっていった。
「あーーーアイツさいあくの敵!! なんだけど!! こんな狡いストローどうなってんのよ!!」
「どうした撃って来い! ハハハ俺より呪われてるんじゃねぇかその炎? ハハハハハハ──」
氷道をエッジのある靴で滑り高笑いをする黒髪の男に、前方からチリゴミではなく──幾多もの紫の針が飛んできた。
男は前方から突然吹いてきた紫に反応しダイナミックなステップで滑り避けた。
「敵なら壊す!!」
「また新しいのか、女ってのは集まると小うるさいな、どいてろ」
金装飾の豪華な剣は、男の滑りに合わせて飛んできた。
二回目の援軍には男は慌てず自身の両手を凍らせて、無骨な氷の双剣とした。
その双剣で間近に怒れる銀髪少女の刃を防ぎ、隠された刃である氷のネクタイは少女の腹を指し示した。
ピンと伸びた氷のネクタイソードの隠し仕掛けは──同じく隠されていたマリティーコアの蠍の尾に、胸先三寸のところで絡み掴まれ脆くへし折られた。
「ネクタイはちゃんとしろクソ野郎!!」
「尻尾なんて振ってんじゃねぇぞクソ野郎!!」
『よそ見してんじゃないわよクソ野郎!!!』
狂気の睨めっこの最中に、まりょくコントロールされ急速に迫った魔法の泡粒は路地裏から横腹に届いた。
6発連鎖爆発する水泡の魔法は氷で武装する白スーツをついに焼け飛ばした。
「ふぃーーー……やっとスッキリ当たったわねー。このマリティーポップを無視するなんざぁひゃくね──あれ? あんたなんでいんの? 〝寿司屋〟?」
「さっさとその減らず口でアレは何か教えなさい、〝ダサパーカー〟」
銀髪の三つ編みポニーテール、リッチで深い臙脂色のドレスアーマーカッチューに尾てい骨の辺りから伸びる黒くイカつい蠍の尾。
庶民には手の届かない豪華エレガントなソードの切先を出会って0秒、よく喋るラムネ色のパーカーへと向けた。
魔法少女ソード少女レベルイレブンのマリティーコアは氷と水と炎の魔法合戦が繰り広げられていた大荒れのデータゾーンへと乱入した。
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