第37話 イレブントゥエルブ

▼おおさかデータゾーン11▼にて


状況はほぼクリアされたと思われる。


倒し残しがないか通信が復活するまでの間、見回りをしていたマリティーブランは剣を鞘に仕舞った。


既に走り抜け辻斬られた河川敷のストローたちは次々と機能を停止した。


えびす橋の影で、ひとつ少女は息をつく。


「今はイレブン、いくら斬れば…魔法ソード少女はソードマスターになれるのだろう……ッ。ダメねっ、私は……の魔法ソード少女じゃないのに──」


あの公園に待つ、記憶より長くなった金髪とエメラルドの瞳。

何をしていても、何を斬っても、何に打ち込んでいても思い浮かべてしまう、強烈な光のような存在。


自ずと敬っていたあの日の記憶の中と、目の当たりにしたあの日のリアルに──マリティーブランはストローを斬るだけでは発散できず…鬱屈した気持ちをため息にかえるしかなかった。


ふと目に入り見上げた──ヌリコの看板が前を見据えて走りゴールしている。

そんな白く健康な姿がどこか光に似ていた。

ブランは何も言わずに、暗い橋の下から移動しようとしたその時──



上から不意に来た殺気に魔法ソード少女のカラダは素速く反応した。


地を穿つようなものすごい衝撃音とともにさっきまで架かっていた橋が落ちていく。



「! 新手のストロー? いや…」



地を抉った巨大な剣を肩に担ぎ、赤く長いクセっ髪が揺れている。


散らかった粉塵から現れた巨躯のシルエットは、鼻息荒くイカつい声を発した。


「避けやがって……てめぇか、天才イレブンだとか調子乗ってんのは」


「(見たことのない…大剣? 魔法ソード少女…さっきのわかりやすい…一太刀はMT10以上のインパクトがあったわね) なに? だれ?」


「こんなもの送りつけてきやがって落ち着きスカしてしらばっくれるたぁ、いい度胸と心臓だ。仮にもイレブンのソードマスター候補がひとつ上の先輩にずいぶん回りくどいことをしやがるな、ええ??」


そう言うとくしゃり投げ捨てられた手紙を受け取り、ブランは一度赤髪の女の睨む顔を見てナカを確認した。




⬜︎

マリティーレッド様へ



拝啓

お尻ぺんぺん


いつも威勢のいい姉貴肌でえらそうな真っ赤なマリティーレッドちゃん。そんなマリティーレッドちゃんだけど……お尻のひだり蕾にかわいいホクロがふたつちょんとあるのしってまーーす。


そーそー本題、いまごろ鏡越しに真っ赤になってるマリティーレッドちゃん、元格闘家だかケツデカゴリラだかなんだか知らないけどいつでもタイマンでかかって来い♡トゥエルブだからってふんぞり返って調子乗んなよ♡わたしの椅子あっためてるだけの脳筋ごーりら!




天才イレブンのマリティーブラン


P.S.逃げんなよばーーーーーーか♡


⬜︎




さっと全文を読み込んだブランはそのクールな表情を変えず。


要らなくなった身に覚えのない紙切れを吹く風に自由に泳がせて捨てた。



「──しらないわ」


「コロス!!!」



既に両者の剣は剥き出しである。


赤髪を乱しながらスカした敵へと急接近するマリティーレッドは、後ろに溜めた巨剣を横薙ぎにし、


ブンッと威勢よく風を押し斬った鉄の塊に鈍い手ごたえはなく。


片手で振り抜いた鉄の切先の上に、華奢な黒セーラーがちょこんと乗っていた。


マリティーレッドが嘲笑うソレに口を間抜けに開いたときには、荒れる黒スカートから現れたすらりとした右足のローファーが側頭に食い込んでいた。


「魔法ソード少女とはたたかわない。あなたの因縁はしらないけど、いちど頭を冷やして」


いい蹴りを貰いずり下がった両足はやがて止まり、貰った赤髪の側頭部を手で撫で上げていく。


「あぁ、──冷えてきたね。しかしてめぇのご挨拶でまたあったまってきたのが事実。頭を冷やすのに他人様のアタマを蹴り上げるたぁ……いいじゃねぇか天才イレブンのマリティーブランッ!!!」


今度は縦に、骨太な剣は振り下ろされた。


ズガッと地を砕いた豪快な剣をまたひらりと靡かせた黒セーラーは躱す。


「アレは私じゃない」


「んなこたぁどうでもいい、蹴られた分はきっちり蹴り返してやらないと止まらねぇ人間の根っこの闘いの悲しい性ってナァァ」


赤髪の巨躯は地に刺さった剣をそのまま手放し、予め予測していた黒セーラーの避ける方向へと走った。

そして勢いよく、捉えた黒い細身の真ん中を蹴り上げた。



「魔法ソード少女試験の模擬試合とおなじ、シールド値が50%を切ったら終わりでいい?」


弾き飛ばされた黒セーラーは宙返りしながら川を渡り向こうの河川敷へと舞い降り、まだまだ落ち着いた様子で向かいに見える赤髪へと提案した。


「ルールありも別に嫌いじゃない、それでいい! でもだからって安心するなよ?適度に緊張しろよ? 本気出さなきゃオマエ下手すりゃ死ぬぞ?」


「あなたが出すなら私も出す」


「フッフッふふふ。アハハハ言ったナ? そいつはありがテェ……なら今から全力だッッもう二度とこの剣の上でさっきみたいな大道芸なんてしようと思うなよオオオ!!! 手とまりょくを抜いてみろ…きっと後悔して死んじゃうぜえええ!!!」


クールな美少女の粋な即答を受けて、啖呵を切ったマリティーレッドは赤くまりょくを食わせた巨剣を地に振り下ろした。


そうして生じた荒くも赤い衝撃波は地と川を豪快に斬り裂き、少女の皮の横を通り抜けた。


「悪いけどあなたなんかで死ぬわけにはいかないわ。でも、さいきんはマンネリ気味だったからその感じで来てくれると良いトレーニングには、なりそう?」


「フッフッその徹底したスカしっぷり、泣かし崩すのも楽しそうじゃねぇかッ魔法ソード少女──!!!」



ただならぬ水飛沫は上がる、リクエスト通りにぞくぞく放たれた赤い暴力的な衝撃魔法は大阪の街をお構いなしに崩していく。


盾にし反応した赤い巨剣に素速い黒のビーム弾が突き刺さる。

スライドさせた剣の影からその赤髪はニヤリとするどい犬歯までを見せた。豪快なだけではなくガードにもしっかり、アタマを置いている。


暗黙の手慣らしだったのか、お互いのウォーミングアップだったのか。反応を窺い終えたふたりは────


やがて流れてきた無人の川船の舞台へと、

のりこんだ踊る剣と剣が風音をお互いの耳元で立てて斬り合い、やがてかち合った赤と黒のまりょくが混ざり合い──元気に迸った。

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