第36話 ジレンマとカタルシス、呪いと祝い

天地2つの太陽は、やがてひとつに────


赤焼けが沈むとともにさっきまでの戦闘の息遣いは無くなり。4人の魔法ソード少女たちは綺麗に平らげられた勝利の象徴である城跡の赤へと集った。



雑談❶真田ふれいとマリティーテイルのばあい


重い剣を地に刺す杖とし、

いつまでも勇ましい姿で硬直するふれいに砂漠色のパーカーは近づき、ぐるりと一周様子を見て無表情でふれいの真正面に立った。


「へびーで動けないんすぱ?」

「んー、──ちょっこし?」

「へびーな親近感湧いたすぱ、やっぱきょうりょくな魔法にはデメリットもあるんすぱね?」

「んー…どうすればいーい?」

「目視や足をじっとつけとくみたいな何かジレンマがあるんすぱね? こっちも魔法をつかうとそんな感じすぱへび」

「じれん…ま?」

「すぱっと大爆発する代わりにへびーに硬直するということすぱ。ふたつのうちひとつを自由にすると他が上手く動かなくなることすぱ。ちなみにジレンマの反対はカタルシスすぱ」

「──…あぁーー、わかった──! …かたるすし?」

「カタルスシは浄化や解放…なんか放り投げてすごくいい気分という意味すぱ。ジレンマが進化するとカタルスシになるすぱ、だからカタルシスの魔法をめざせばジレンマの魔法が解消されてその硬直もきっと無くなるとおもうすぱ」


「んーーー。んーー? わかった──! かたるすし!」

「いまのそのかんかくがカタルシスすぱっ」


「「あははは」」


ぺーぺーな新米にどうすればいいと問われ、すぐに返ってきた先輩魔法ソード少女からの回答。

ジレンマの魔法とカタルシスの魔法、

マリティーテイルが説いた感覚の正体にどこか思い当たった真田ふれいは面と向かい合い笑った。


目指すはカタルシスの魔法?


笑ってすこしカラダの硬直がやわらいだ──


真田ふれいは魔法ソード少女になってからも幾度と繰り返した今までの当たり前に、首をかしげ疑問を持ちはじめ……。分かり合える感覚を詳らかに教えてくれた微笑む先輩魔法ソード少女の言うことをすなおに信じた。



雑談❷マリティーポップとマリティーシーのばあい


鮭の切り身のプリントされた黒いウェットスーツ。

そんなヘンな格好が上陸している。

さっと艶やかに黒髪をかき上げ左に分けた大人なデコ出しスタイル、水のしたたるお姉さんだ。

大人なお姉さんは朱色の瞳をくりくりと見開き、じっと目を薄く細め待つ水色の少女に話しかけた。


「助かったしー」

「そ、どもーまいどー」

「さては…お姉さんと同じ水のしたたるいい魔法ソード少女だね?」

「はぁ? そうねー、あんたも見た目より…なかなかやるんじゃなぁい?(まっ、近頃天才の私もあれぐらいできるだろうけど)まっ、このマリティーぽ」

「切り身ちゃんスーツあるよ!」


突如、前触れもなく喋りを遮り出てきたもう一着。

お姉さんの着ている色違い、──もう一着。

元気な目をしたマリティーシーがそのヘンテコを手に持ち、ポップへと見せつけた。


「…は? いらない」

「ぶりっ子のブリなのに?」

「意味がわからない!! って誰のどこがぶりっ子!!! あんたとの会話中ぶりっ子成分一滴も出してないでしょ!」

「えぇーまたまたー、とりあえず一回着てみよ? コレが似合わないようならぶりっ子疑惑罪も晴れるシー、一石二鳥じゃーん」

「はいはいぶりっ子疑惑罪なんて成立してないのよ、ぶりっ子なんてわたしの対極じゃないの」

「ハイハーイぶりっ子の特徴その──」

①計算高くかしこい

「まそうね? せっかく魔法なんて使えるんだから頭空っぽの無策でたたかうわけないじゃない」

②話すとき手腕を広げて小刻みにジェスチャーしがち

「うるさいわよ! わたしだけじゃないでしょ!」

③隙あらばお姉さんに甘えてくる

「いつ甘えたってのよ…怒声しか浴びせてないってのに」

④声がデカい

「うるさいわね!!」

⑤リアクションがいちいちおおきい

「ぶっ飛ばすわよ」

⑥なんかぶわっと泡とか出す、花とか

「少女漫画的アレね、はいはい」


「てことで6つ当てはまった少女ちゃんにはぶりっ子スーツを進呈! しゃけっと、いやぶりっと?」

「とりあえず6発殴らせて」


鰤の切り身がプリントされたぶりっ子スーツ、

同じ水のしたたるいい魔法ソード少女としてマリティーシーはマリティーポップをお茶目に認めたようだ。





マリティーポップは共闘したマリティーシーとマリティーテイルから救援成功報酬として2人の残まりょくをぶんどった。


「さなだふれいあんたはまりょくぶんどらなくてよかったの?」


「んー? んー…ぼちぼちぃ…──!」


「はぁ? はぁ、相変わらず訳わかんないわね。まっあんたのあいても慣れはしたけど」


戸惑いかんがえるも披露されたいつもの親指立ての万能魔法に、マリティーポップは口を開けずに微笑んだ。


残存まりょく、元気ともに十分。

オペレーターとの通信が繋がりしだいまた、このところ何かと一緒のマリティーポップと真田ふれいはあの低いオンナの声に従い次に提示されるであろう〝おもしろそうなノイズのする〟データゾーンへとおもむく気であった。


そうこう城跡で小休憩しながら英気を養っていると──気になる視線がだんだんと……────


「で、さっきからアイツなんなの…チラチラ見てくんのめちゃくちゃ嫌なんだけど…ん? なによ? ちかづいて、そんで? あーはいはいまりょくねまりょく、あははなるほど恥ずかしかったわけぇ?悪いけどもうハラ」


「呪った!!!」


「は!? あんた、は!?? えなに???」


ニヤつきながらファンに手を差し出したマリティーポップは、近付いてきたマリティーアイから欠けた剣を向けられ、トツゼン──【ひだりの小指が動かなくなる魔法】を受けてしまった。


「小指イッポンつよくなる!!! すごく、いい呪い!!! ヤハハハ──」


黒尽くめの女は動くようになったひだり手をぷらぷらニギニギと遊ばせてワラッている。


「いや、意味わかんないんだけどおおお!!! ってまじぃ!? ──ふざけんなッもっどしなさあああい!!!」


呪って祝う、


そこらに散っていたストローの残骸から解析したいい呪いを友好の証にプレゼント。


ひだりの小指がイカれた水色髪の少女は木に飛び移った黒い小悪魔を追いかけた。

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