第32話 黒いイレブン
切先から放たれた水色と黄金のまりょくビームは前方へとはしっていく。
放たれたビームは白い巨人へと直撃するも、その程度の威力では大物を仕留めるには至らず。
片手をついたままの謎の姿勢でいた白い巨人は、周囲の建物残骸をデータ片と化し、地からナニかを隆起させていく。
ふれいがご挨拶代わりに壊したはずの巨人に似合う得物が──魔法のようにせり上がっていく。
「あぁーーーソレやると思った! ほんとなんなのよこいつ!」
「だから私にまりょくをよこせと言ったのにッッ!」
「はいはい、そんなことよりそこそこヤレるのは分かったから魔法ソード少女の邪魔はしないでよね【バブルポップ】!!」
「チッ…イレブンの私が…! 後で覚えてなさいよッ水色野郎ッッ」
マリティーポップとマリティーコアは攻め手をゆるめず頑丈な巨人の注意をひたすら自身たちへと向ける。
その間──
土地勘のあるマリティーコアに指示された予定通りの地下道ルートを使い、赤備えは進んでいく。
目標に近づきちかづき、
やがて、あたためられつつある膨大なまりょく熱源に目無しの巨人は気づいた。
地下階段を駆け上り背に回り込んで来ていた赤備えに、勢いよく腕を回した。
ふれいが仕掛けようとした瞬間より数歩早く──不意に地表を覆ったカゲ、
素速く振り下ろされた棍棒に、いそぎかち合った剣は────爆発。
まりょくを込められた火球がまた巨人の棍棒を抉り破壊した。
またも爆風と巨人の膂力に吹き飛ばされ、不恰好に地面に突き刺さった赤備え。
奇襲は明らかに失敗。
だが──失敗する方にはんぶん以上気をベットしていた者は────
アスファルトから足だけ出ていた赤備えは、巻きつく蠍の尾に強引に引き抜かれた。
「馬鹿がッミエミエで突っ込むヤツ! チッ──使いなさいッ!」
パッキリと折れた安い剣を一瞥したマリティーコアは、仕方なしに他人に大事なモノを握らせた。
真田ふれいはマリティーコアから〝エレガントソード〟を受け取った。
「チッ…いい?そのまま腹に突っ込んで、さっきの赤い魔法をブッ刺す! 3、2、1──」
「うん、みかねこ、わかった──!」
「み、みかね? ッこの尾は猫じゃなああああいッッ!!!」
かわいらしい猫の尻尾ではない、獅子の尻尾であり蠍の尾。
尾のチカラを用いて目一杯、マリティーコアは真田ふれいを投げ捨てた。
大魔法を発動したインターバルで硬直していたふれいの体は不思議と、装備させられた豪華な西洋風の剣に動かされ、問題なく動いた。
銀髪少女の怒りの形相とは裏腹に投げ捨てられた位置方向さえ完璧、このまま一気にエレガントなソードを巨人の心臓に突き立てるだけであった。
風に乗り風を切りこのまま一気に────チェックメイトの一刺を────
目の無い白い巨人はパックリと、顔にあった縦の筋を開いた。
巨大な瞳を見開き、──眼下に迫った赤い羽虫を見下げた。
瞳から繋がる細い糸がじりりとカッチューを焦がし──
違和感と本能と握る剣がしらせる。
真田ふれいは一直線に進んでいた身を強引に捻りヘソを天へと向けなんとか反応し、自分を見つめる光線を斬り払った。
大魔法と未知の魔法が衝突し、紅白に濁り大爆発。
あとコンマ数秒のところ──巨大のど真ん中を授かった剣で射抜く予定が……防がざるをえない秘めた瞳からキラリ発された、ただならぬ巨人の光線を浴びてしまったふれい。
「やっ──ナッ!?? 巨人に目!? 馬鹿がまたしく」
「って何やってんのよさなだふれい!! 【バブルポップ】!!!」
真田ふれいの刃はとどかず……マリティーポップはすかさず切り替え援護した。
開いた瞳へと集束し殺到する泡魔法が凄まじい轟音を響かせるも、
両手のパーで覆われたその頭部、両手のパーはものの見事に消し飛んだものの──
キラリと光る巨大な目玉は、表面がうっすらと焦げただけ。
「まずっ…!?」
「揃ってナニを、──赤いうすのろ突っ立ってないで逃げなさい!!!(チッ…私の剣が)」
見つめられ──じりじりと焦げゆく、大魔法の反動でいつものように硬直する赤備え。
べたついた黒髪の少女は苦笑いを浮かべて、握る剣を自力では離せない。
大きな大きな瞳に、焦げてゆく熱くなっていく──イヤな予感。
一気に太く────白い光線は地に鎮座する赤い一点を目指し貫いた。
動けないふれいは迫り来るあまりの眩さにその赤い目を閉じた、
光量にヤラれた赤目をまた開いたときに──
────射られたのは黒いマト。
貫くまでは及ばず、突然飛来した黒い円盤が光を遮る傘となり巨人の光線をまるまる受け止めた。
弾かれた余分な白い飛沫が、辺りを穢していく。
ぼやける…ふれいの眼前に立っていた背は黒い、
なつかしく…見慣れた黒いセーラー服。
吸収した巨人の白、放出する少女の黒、黒い円盤のパレットはまりょくコントロールし混ぜ合わせたビームを薙ぎ払い。
聳え立つ巨人のカラダを瞬く間に切り裂いた。
「ってえ、え? おスカし!?」
跳ね返し、斜めに疾った閃光は鋭い焼け跡を町ごと、刻み。
ローファーコンベアⅡは出力を上げ一気に発進した。
黒いスカートは疾風になびき、小人から貰った鋭いカウンターに慄く巨人の左脚を──張り付き上っていく。
螺旋を描き張り付き上る、少女を崩壊した両手では叩き潰すのも困難。
巨大な瞳の一寸前に、剣を構えた黒セーラー。
焼け付くその瞳は捉えた、クールタイムを待たずに強引に発射された白い閃光は────
黒い閃光に塗り替えられた。
誘ったのは、最後の足掻きと暴発事故を防ぐただそのため。無駄な足掻きを吐き出させたマリティーブランは後頭部へと瞬く間にまわり、突き刺した剣から特大のまりょくビームをくれてやった。
巨人の頭は消し飛び、抉られた首元辺りはじわじわと黒く染まり、やがて巨体は膝をつき──爆発した。
降り立った────黒い女神はワラわない。
爆風をその細身に受けて────やがてソレもおさまりただの寒風が、乱れる黒髪に吹いた。
連続して大魔法を行使し、まだ動けないふれいの目の前で、ただ佇んでいる。
モノを言わない黒と、自分とはちがう華麗な闘いざまに呆気に取られた赤がただしずかに見つめ合う。そして慌ただしく駆けつけた、水色がその間に加わった。
「ちょっとあんた久しぶりじゃない今までどこいってたのよ、まさか偉くなっちゃってボランティアの現場を離れたァ?」
「関係ない」
「はぁ? すこしは、あ」
「どうでもいいのよ」
「なにが? ナニ言って」
「あなたたちでは無理、この程度──倒してみせて。魔法ソード少女なら」
「ちょっ! はあぁ??? 何いつにも増してえらそうにこのマリティーポップがあの白い巨人の両手ぶっ飛ばしてなければって待ちなさぁい!!!」
話途中に背を向いたマリティーブランはそのまま荒れた道をローファーコンベアⅡで滑走し去っていった。
「──なんか変ねぇ……説教はいつものことながら、ひと昔前のおスカしって感じ。あんなだっけアイツ?」
遠くなっていく背を見つめながらマリティーポップは首を傾げ、両手をさっぱりとひろげた。
「チッ……。さんざんなクソが…」
マリティーコアは勝利を手にし生き延びたものの悶々と……納得のいかない夜とダメな安堵に悪言を吐き出し、勇ましく握られたまま動かないきらめく剣を目指し歩いていった。
現れた、高い戦闘力を誇る白い巨人ストロー。
近場にあった白鬚神社からシラヒゲと仮に名付けられた巨大な未確認ストローは激戦の末に滅された。
結果的に▼たかしまデータゾーン9▼は2人のMS11と2人のMS5MS0の魔法ソード少女たちの協力……もあり無事クリアされた。
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