第31話 白い巨人

▼たかしまデータゾーン9▼ にて



人生において未だ来ないとおもっていた絶望と向き合うときが来る。一寸先は闇、剣をてにとり自ら飛び込んだ闇にすら未熟な少女の怒りは込み上げておさまることがない。


敷かれた黄金のレールの上を行き、何ひとつ不自由なく恵まれている…順風満帆な人生であった少女は何が不満なのかあるときおおきく脱線をした。


他人から見れば誰にも理解不能。敷かれてあった黄金のレールをわざわざ穢して、向かう先など──その結果がこれだというのなら、それはあまりにも馬鹿なことだと人は言うだろう。



その身を守っていた獅子の盾はくだけ、


一本後ろに結んでいた三つ編みの尾も濡れた髪にほどけた。


「私はイレブンのマリティーコア…誰の娘でもない……こんなところでこんなところで終わらない! 認めないっ、終わるなんてそんな世界を…許せないッッッ」


夜の暗色の湖を割り、水面に佇んでいた鳥居はぐしゃりと踏み潰れた。


現れた白い巨人妖怪は──傷つき醜くなった少女へとその鉄槌を振り下ろした。



『────えんど!!!』



火球は咲く。あかくあかく。


地から飛び上がった熱い剣は、天から振り下ろされた巨人の棍棒を抉り破壊した。


絶望がせまった死の選択を…認めなかったマリティーコアの瞳には、知りもしない真っ赤なモノが堂々と湖上に咲き誇り────真っ赤なカッチューを着た少女が爆炎に吹き飛ばされ激しく転がり込んできた。


「おもしろそうなノイズってこれのことね。怪獣とたたかうのはきいてないっての、また象野郎みたいなハズレくじじゃないでしょうね」


紅い熱源が失せた頃を見計らい、攻め手を緩めない。

湖を陣取る白い巨人の頭部めがけて殺到した泡魔法が、連続して爆発した。


「あぁーもう、お荷物がふたつなんて冗談っ!」


マリティーポップは倒れた赤備えのふれいの首根っこをひょいと掴み、得体の知れないオンナの尻からのはびた尻尾を掴みその場から後退した。


暴れる巨人の拳がさっきまで少女たちが立っていた地を破壊し、寸前のところで危険エリアから逃れた。





「ハァハァ…だれ…」


「あんたこそだれ、見かけないわね。なんかヘンな尻尾掴んじゃったけど文句ないわよね」


「はなせ! はなしなさい! 邪魔を…」


「はいはいはなしたし、むしろ邪魔なのあんただし。ってそんなことよりアレなに、ストロー? 蜂の巣よりデカすぎない? はぁ?」


湖付近から離れたマンションの屋根上で、掴んでいた尻尾を離し、マリティーポップはご要望どおりに見知らぬ女をその場に下ろした。


風に乱れた銀髪をととのえながら、マリティーコアはゆっくりと立ち上がり、見下ろすマリティーポップの視線を睨みつけかえした。


「チッ…知らないわよ。あのクソが勝手に琵琶湖から出てきたんだから。それにだからだれなわけ? イレブンの私に馴れ馴れしい口遣い」


「はぁイレブン? なにそれしんないわよ。売り出し中のマリティーポップを知らないなんてあんた損ねぇはははとりあえず、一旦逃げるってことでいいわよねええ、ってあんた硬直とけてないの」


「んー、もちょい──!」


マリティーポップに抱えられたままのふれいは、もう少しよろしくやってくれのサムズアップを示した。


「はぁ…あんたたちのお守りやるために魔法ソード少女になったわけじゃないんだけどねぇ。あはははは」


3人の少女たちの視界は前方──聳え立つ白い巨人の手から根こそぎ飛んできたビルが、4つの足が佇んでいたマンションをすり潰した。







白い巨人は見つけたまりょくに対して地に生えている建物を手に取り投げつける行為を繰り返した。


休む間も与えないほどに破壊行為にふけり町並みをすり潰していく。


瓦礫、粉塵の飛び交う戦場で3人は巨人の攻撃をかわしながら様子を見ていた。


「デカいからうすのろなんて願望と幻想じゃないの!」


「そこの雑魚、まりょくをよこしなさい」


「はぁ? だれが雑魚? 助けられといて、嫌よ」


「チッ…アレをぶち壊すには一番強いイレブンの私にまりょくをかすのがイチバンなのが分からないの? はやくしなさい、ソッチでいい」


「んぁ!? ちゅべたいっ!?」


口答えの止まないマリティーポップからイラつく視線を外し、急に接近したマリティーコアはふれいの手をとり、にぎった。


冷たい手が見つめるふれいの体温を奪っていく。


奪っていく、


じーーっと、凄み見つめるグレーの瞳、キラり見つめ返す赤い瞳。


繋ぐ手と手の間に──電柱と轟音が突き刺さった。



「……チッ! まりょく譲渡もできないの! はなせっ!」


見つめる赤目を攫い、そのまま槍のように飛んできた電柱をまっすぐに避けた。


いつまでも握る手に逆に奪われていくまりょくの感覚をきらい、マリティーコアはくっついていた真田ふれいを引き剥がした。


「あははは無駄無駄。赤の他人からまりょくを奪おうだなんて自信過剰じゃないの、あんたやられてんのに、それに赤いそれ〝私のまりょく〟だから勝手してんじゃないわよ」


「まりょくがあればあんなデカブツ即ぶっ壊す!」


「あってダメだったんじゃん、そんなのに貸すわけないし。魔法ソード少女舐めてんの? イレブンだかなんだか知らないけど、頭に血が上って状況みえてないんじゃなーい」


「チッ…いちいちムカつくヤツ!」


「あんたもね。そういうことだから手っ取り早くウチの爆弾娘をぶつけるしかないわね、あんたはその尻尾丸めて床で寝てたらぁ?」


まるで売り言葉に買い言葉。即座にかえってくるポップの煽りに、


「ッ…しくったら殺す!」


コアは腰に差していた豪華な模様の描かれた鞘から剣を抜いた。

眉間に皺を寄せた表情は、仕方なくこの場かぎりの剣をとった。


「あはははどの口で言ってんのか、口と尻尾が多くて羨ましいじゃない。ま、いつものようにしくるんじゃないわよ、さなだふれい」


「んー、わかったマリティーポップ──! しくる…らないっ──!」


ダブルサムズアップ。立てられた少女の両手の親指と良い笑顔に、

見せられた者はやる気元気まんまんと受け取ったのか、それとも────



「…やっぱり私にまりょくを貸しなさいムカつく水色女、こんなところで死にたくないでしょ。駄々こねてないでいくらほしいの」


「あははは金で信頼は買えないって知らないの? 誰も1デシリットルも…マリティーポップの進化は止められないっての!」


みっつの切先は、同じ方向へ。


迫る足音、アスファルトにひびく足音は容赦なく近付いてくる。


刺々しい振る舞いのマリティーコアを動かしたのは目に焼きついた赤い火球と耳にすりぬけた水色の減らず口。

コンパクトに丸められていた蠍の尻尾飾りはピンと天へと逆立ち、見目美しい気品ただようその名剣を夜の明かりに輝かせた。


魔法ソード少女たちはデータゾーンの町並みを破壊する未知の白い巨人を倒すために、今一斉に駆け出した。

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