第30話 〝個性〟

少女の腹の虫と腹の虫がそうだんし、きまった。


ストロー殲滅後のお夜食は、うどん屋で──



▼うどんのまほう▼にて



マリティー本部の所有する安全なデータゾーンに展開しているうどん屋【うどんのまほう】。

日夜データゾーンをストローから守る魔法ソード少女たちのために、縁あってか許可、守秘義務の契約を得て出店している店も少なくはないらしい。

魔法ソード少女たちを食事でサポートする縁の下のちからもちともいえる、お代はきっかりいただくがありがたい存在なのである。



さっそく入店した2人はテーブル席につき、初見ということでどちらもお店おすすめの品を注文した。


3人おなじものを──


「誰これ?」


「まだ死んでなかったか」


気がつくといつの間にかいた、

対面するふれいの横にいる、緑色の目つきの悪いトカゲ女がなんなのかポップには分からず。


だが、耳に入ったその声はどこかで聞いたことがあった。

何故ならば一生忘れないだろうと思っていたからだ、そのえらそうな鬼の声を。

それはもう聞きに聞いた、魔法ソード少女になりたてのときに──


「はぁ?? って!?」


「どうしたぺーぺー2号」


「ってあんたああああ!」


「月見肉うどん×3お待ちぃ!!(なぜ懸の俺がうどん屋を…本店で修行させられちまったよ。10に1人の才能あるってさ、母ちゃん…)」


店長のお兄さんに運ばれてきた月見肉うどん×3人前。


偉そうなメリーガンはさけぶポップに割り箸をよこせと要求した。





ずるるるる……と小気味よい音に麺はすすられた。


琥珀色のスープの水面を見ながら、マリティーポップは話す。


「ま、このところストローも少しは歯応えあるのよねぇ。きょうもブンブンうるさかったしねぇ」


「今のうちにやめておくのも手だ」


「やめないっての」


「お前より強いやつはこんな組織にもゴロゴロいる、任せればいい」


メリーガンは行儀悪くも箸をふれい、──ポップへと向け微笑った。


「はいはいなんか耳元でうるさく聞いたことあるわね。そんなのっ、私の方が強くなってりゃいいんでしょう がっ! 進化するマリティーポップ進化するバブルポップでね! その機会はだれにも親にも奪えないってのずるるるるるる────」


マリティーポップは真ん中に陣取っていた月見をくずした。丼の熱さであたためられた中身はちょうどいい半熟、黄色がスープに混ざり切る前に麺とともに一気にいただく。


「フッ、言いつけ通りに考えてはいるようだな。一途でかわいいものだ」


「ずるるるるッッはぁ?? 誰があんたなんかのっ!ばバブルポップだけで十分なだけよ! 縛りプレイ、ハンデよハンデ、天才の!」


「フフッ、熟しきったソレが天才だといいな。──凡才の方が楽だがな」


空の器と、妙なセリフを言い残してメリーガンは去っていった。ガラガラと音を立てて、戸が閉まる。


すすっていたうどんを飲み込み、マリティーポップは飲み込めない緑髪の言葉と背姿にクエスチョンマークを浮かべた。


「凡才の方が……何言って? って払いなさーい! 食い逃げええ!! ちょっとうどん屋あんたつかまえなさい!!」


「おっ、おう?(いや無理だろ、あの女フンイキ明らかその筋のこわいじゃん……俺うどん屋だし)」



うどん屋の男は見るからにこわくてヤバい女を追いかけず。


マリティーポップは3人分の勘定をすませた。






▼デモネの私室▼にて


いつものように秘書は白い椅子にかけるソードマスターの前に立っていた。


「まさか会わせるとは思いませんでしたね」


「ふふ。いいのよ」


「ところでその情報は正確で、本当に存在するのですか? マリティーのヤバい魔法技術ならば記憶の改竄や捏造、これまでの話を聞くところなんでもできそうなものですが──ですね」


デスネは後ろをチラリと振り返り、飾られている背の何かを見てはまた、元の正面に直った。


「さぁ、」


波打ちカップの中──チャプチャプと飴色の水面にあそばせ取り出した、


「いたとしても枯れているんじゃない」



紐で吊るされた三角から滴る、しずくの音が静かな部屋にかすかに響いていく。



「枯れている? ────なるほどそうであれば、はい。余計なことをしましたねソードマスター」


「あらそうかしら? ふふ私はね、母親でも全能でもないから。世話までは知らないわ」


「はい伝説に憧れているマリティーブランにへたに見せるべきではありませんでした。その場合どちらにせよメンタルケアが必要です」


デモネの言ったことを推測理解したデスネは淡々と答え改善案を提示した。


「ところでデスネあなた、このところあれこれ勝手してるようね」


デスネの言葉を上書きするように、白いカップを少し口元にかたむけたデモネは好きに喋った。


「はい、勝手ではなく客観的に戦力分析をした結果ヤッちまった成り行きです。はいですので既にその成り行きのさなかと慰安旅行で貴重なソードマスター候補を見つけました。真田ふれい、マリティーポップ、それとオーデオ所属の魔法ソード少女カタナ。この3人です。突出したマリティーブランとともにMS10のさらに上とされるイレブン、またはトゥエルブに入れるべき伸び代のある逸材ぞろいです。早急に新鮮なモノをぶち込めばいろいろと促進浄化されます、はい」


デスネはまとめた資料の束を勝手に机の上に置いた。


それでもソードマスターはマイペースな様子でまたカップをかたむけ、ゆるりと……。


「ふふ、おねつね。魔法ソード少女とはなんだったかしら?」


「軍隊ではなく、剣と魔法と〝魔法ソード少女主義〟ですね。マリティーは他の魔法ソード少女組織より古き良きその傾向がつよく残っているようです。しかし魔法ソード少女主義という概念があまりにもふわふわしすぎていてデスネにはあまり分かりませんでした。ですがご安心をデスネ認識をアップデート改めしかと確認しました。さきほど候補に挙げたいずれの魔法ソード少女も個性がありますええ個性の蟹蟹パニックです、ですので魔法ソード少女ならび魔法ソード少女主義とは〝個性〟真田ふれいのサムズアップのジェスチャーと笑顔は周りの頬をゆるませる個性、マリティーポップのテンポの良いツッコミは個性あわわわー、オーデオのカタナのおふざけはツルハシのツッコミを誘うソレありきの個性、マリティーブランならびデスネの持ち合わせている淡いクール系美少女属性も個性──ですね? ええ、どうでしょう」




「ふふふ、────あなたおかしくなったの? ──おもしろいわね」



サムズアップし静止したメイド服は、やがて一礼して去った。


口角をすこしあげ微笑むソードマスターは机上にある紅茶色の資料を手に取った。

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