第28話 魔法ソード少女と魔法ソード少女
現れたイレギュラー、エレファントマンの討伐から数ヶ月後。
魔法ソード少女組織に属す者達は、きょうもストローが現れ荒らすデータゾーンのクリアにあたっている。
▼まるがめデータゾーン10▼にて
ツルハシ、カタナ、ッペーネロッペー。
あの激戦を生き抜いたオーデオに属するMS7の魔法ソード少女たちはいつものように協力し、大型ストローを相手にしていた。
「動くなよ【エメラルドマウンテン】侵略しろ【バーンルビー】林の如く邪魔すんな【ダイヤモンドクラッカー】バーゲンセール中だやれよカタナ、ペネロペ!」
エメラルドマウンテンで相手の行動範囲を制限、制限した敵の鼻先に転移させた宝石バーンルビーをお見舞い、ダイヤモンドクラッカー、得物のつるはしで砕いたダイヤモンドは鋭いショットガンとなり小型ストローのお玉杓子を葬り通り道を整備した。
まりょく大放出、宝石魔法のバーゲンセールを浴びた白い大蛇はアスファルトと家屋から発生したエメラルドの宝石柱に挟まれ身動きが取れなくなった。
大蛇はジタバタうねうねと長い体を暴れさせ宝石の牢がひび割れていく。
ツルハシの作ったチャンスに金のポニーテールを揺らし走る。道端──屋根上から飛びかかってきたカエル三匹をノールック、思い描いたとおりに持つ雷剣で斬り裂いた。
緑のブレザー、灰のスカートをはためかせ、ビシッと戦いやすいように纏め上げた金のポニーテールは走り止まらない。
「あぁいい感じ、、いっちょ魂…振り絞れよ【ライトニングフレーバー】!」
白い鱗の喉元へと突き刺したMT2規格の剣、雷剣は突き刺した部位を焼き焦がし青いまりょくを孕ませたまま、手元を離れた。
『カタナあんこーるっぺ』
大表曲をひとつ披露し、脱力するカタナの体は既にまりょくをたらふく食わせて待機用意していた腰差しの柄を握った。
ッペーネロッペーはマイクソードからその声を拡散させ打ち合わせ通りのタイミングでカタナを激励する。
「あぁ! 魂×2! バチバチやってやれ私のスタイルッ【スーパースイートサマーレイン】!!!」
仲間の激励を受け、カタナのまりょく量は跳ね上がり、次の大表曲は緑鞘から抜き出され横薙ぎに斬られた。
宝石をぶち壊した白い大蛇が襲いかかるも一歩遅し、白腹をぱっくりと青く一文字に彩られ────
喉元の一刺、横薙ぎの一薙ぎ、技と技を合わせた爆雷の柱はぞくぞくと迸る。
降り立つ雷柱は轟轟と獣を取り囲み、天から降り頻る五月蝿い雷雨となり襲いかかった。
テンポを上げアスファルトにリズムを取る柱と柱は合わさりやがて、まわりのまりょく残滓を取り込み取り込み成した────極大の雷魔法がスベテを呑み込んだ。
「やった────ナ。はぁ、うちの馬鹿はどうしちまったんだ。これじゃまるで……魔法ソード少女だな」
新調したメガネごしに見とどけた────夜の街、白い大蛇はそこにはいない、抉り焼かれたスクラップがからころこんと豪雷の後にひびいた。
「よーし上手くいきすぎた…。うどんパワーでストロー殲滅、帰ったらここ寄ろうぜ」
「なんかふるくさいっぺー」
「いんやこういうとこがイチバンうまいっ、おーいツルハシきょううどんでいいよなー」
無造作ヘアーはやめ、きちんと結ばれた黄金の髪、すっかり見慣れたその緑の背中は、魔法ソード少女。
▼みのおデータゾーン10▼
目立つ水色は高みから見渡し立ち、赤い鳥居の上からブンブンとうるさい虫たちへと切先を向けた。
「家にかすり傷つけたぐらいで寄って集ってうるさいわね【バブルポップ】」
夜空に垂れ流される冴え冴えとした泡粒の魔法は、巣を刺激した結果襲来してきた蜂型ストローの兵隊へとぶち当たりはじけた──羽は砕け散りそのするどい針がマリティーポップまで届くことはなく、長々と爆発連鎖していく。
大魔法は豪快ポップにお見舞いされ蜂の群れを葬った。
しかし、寺の上部に建築された厳つい巣から補充された蜂の兵隊たちは、また巣の攻撃者であるマリティーポップへと向かっていく。
泡粒と蜂達が戯れ爆発する空模様に、
『隠れん坊は終わりだいけ、ぺーぺー、ヤレ』
低音のGOサインが耳元にでるまで潜んでいた赤備えは、祈り供えてあった赤い達磨の山から飛び出した。
剣を抜いて赤備えは目指す、敵の本陣へと。
しかし動き出しては即気付かれた、巣を守っていた慌ただしい翅はもう1人の攻撃者へと向かった。
激しい爆発音が勝尾寺の境内上空にひびく中、抜け出した2つの泡粒は赤備えにたかった蜂をホーミングし消し去った。
それでもなお寄りたかる蜂は、針に刺されようが剣を刺し返し、再び刺されようが構わず──跳躍した。
きらめく、大きく上に振りかぶった剣は、だんだんと赤熱する。
「ふれいぼむ・」
「えんど!!!」
一気に突き刺したMT10の重厚な刃は──まりょく爆発。
紅い円球が、まんまるとひとつ歴史ある勝尾寺をのみこみメカメカしい蜂の巣をのみこみ────スベテを真田ふれい色に染め上げた。
紅い魔法はスクラップも残さぬほど標的を焼き切って明けた。
だが燃えずすっきりと崩壊した寺から、
剣を持ち突っ立つ赤備えの少女の姿が現れた。
ひとつ息を吐き表情を緩めた黒髪赤目に、上空からぶんぶんと迫った翅の音は──駆け寄った水剣に斬り刻まれた。
ふれいの目の前に舞い降りた、水色の髪をざっとお直しし、青い瞳がニヤつき、勇ましいポーズで不動のままの赤目を覗き込んだ。
「よっと。ほんとあんたいつもひとりではどうやってんのよ。──え、ストローに殴られてるうちに硬直が治る? あははは、馬鹿ねぇ」
「お寺……──!」
「どういう感情でサムズアップしてんのよ! ってあんたもすこしは成長してるのね。(リアクションがいつもより早いじゃないの?)ま、マリティーポップほどじゃないけど。寺なんてデータゾーンなんだから壊していいのよ、それにハッハッハ勝利の神様も大勝利に喜んでるでしょうね!」
「まぁこれぐらい切り抜けられて当然よね、ピンチのうちじゃなーいってかんじ」
「え────象人間のほうが強かった? あはは今やったらこの新生マリティーポップⅡがタイマンでぼこぼこの泡まみれにしてやれるのにね残念残念!」
「そういえば見かけないわねぇーおスカしさん。──さなだふれいあんたも見てないって? ハンっ、どうせ偉くなっちゃったから、こんなぺーぺーのいる現場には来ないんでしょうね! あはは、ところであんたきょう飯は────」
赤備えの身でぐーぱーぐーぱーと確認、準備運動。
硬直する体は以前よりも早く動き始めた。
数々の窮地を生き抜き成長を遂げたMS5のマリティーポップと、
まだまだぺーぺーMS0、扱いに困るイレギュラー真田ふれい。
巡り合わせたデータゾーンを無事クリアし、ふたりの少女はまりょくを消費し空いた腹を何で満たすか相談している。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬜︎⬜︎
⬜︎
異例の速さで巨大魔法ソード少女組織マリティーのMS10にまで上がった者は、ソードマスターと裏で取り決めていた約束通りに報酬を授かった。
魔法ソード少女として活動しだして、1年に満たない数ヶ月。
その内容は濃く、日夜データゾーンでストローを倒した数も自分では正確に把握しきれない程に。
されどあっけなく、早いものでもあった。
(しっていても…ソードマスターは渋るものだと思っていたけど……ほんとうに)
ここにやってくるまでの秋風がきょうはこんなにも寒い、黒いセーラー服はゆく……舞い落ちる舞い落ちた枯葉をローファーは踏んでいく。
昼の公園のベンチでひとり、ぽつんと座っていた。
金色の髪を風に好きになびかせ、
エメラルドの瞳がやわらかくどこかをみている。
なにもないなにげない公園の風景を楽しむように、日常をぼーっと眺めている。
いっぽいっぽ────踏まれていった枯葉の道に、その人はほほえんだ。
少女は立ち止まる。なびいた黒髪にしっかりと留めた────ちいさな白い翼に密やかな魔法を込めて、
魔法ソード少女ド屑オンライン第一章(終)
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