第26話 水玉夏館③
▽水玉夏館、茶室(ご自由にお使いください…の間)にて▽
畳に綺麗に正座する175cmの平坦声に、絵札が読まれていく。
見つめ合う取り手どうし、そして畳にちらばる絵札を見下げ集中する白熱の視線、とくてんは現在あるぱかランナーが帰り2対1。
旅館に用意されていた藍染の
黒髪キラつく赤目、かるたのよく似合う少女真田ふれい。
対するは茶室に似合うアイスグリーン色の髪をしたッペーネロッペー。
「足がよんほんーー」
「もらっぺーー。──パンダっぺ?」
「ぶっぶーー、ダックスフンドそれはオカピ。不必要にはじき飛ばさないでくださいはしたないですね。オカピは行方不明ですね脱走したどうぶつカードはデスネの檻に破棄します」
「尾がいっぽんーー」
「んーー? あー! ──ゾウ」
「ぶっぶーー、サイ」
ばちんばちんと叩かれた畳の上のカードは、自信満々のオカピとゾウ、だがしかし両者不正解。
さっきから聞こえてきた…静かな旅館に似合わずバチバチと騒々しい音に、暇をしていた足は駆けつけた。
「おい待て待て待て! おちつけ、もっとじっくり考えてやるやつじゃねぇか。──…〝どうぶつかるた〟かよ、懐かしいな。(たしか読み手がその答えのどうぶつの絵札をみて好きにヒントを読みあげるからやる度に味が変わって飽きないんだよな、うん妙に中毒性があるやつだ…思い出してきたアレは15年前の若かりし──)って足四本尻尾一本で取ってちゃクソゲーにも程があるぞ。そんなんで勝ってもあんまりうれしくないだろ(しかもお手つきなしかよ……友達とヤルのにいちばんおもしれぇやつじゃねぇか)」
しれっとあらわれた金髪メガネ、すこし観戦していたところあまりにも手が早い両者の勝負にツッコまざるをえなかった。
しかし、なつかしいどうぶつかるた。
ツルハシは霞む幼い頃の記憶をおもいだし、すこしにやけた。
「真田ふれいさんお手つきによる三振で二者残塁のままスリーアウトチェンジ、この回裏のッペーっぺーさんの攻撃です」
「──ん?」
どんと175cmの膝横に置かれた野球盤のちいさなスコアボードは2対1。塁上に置かれていた、どうぶつランナーたちは残塁したままデスネの檻へと撤収された。
審判兼読み手の後ろの掛け軸のさらに上に、イチマイの紙が貼られている。
畳の上に散りばめ置かれたミステリーを一旦固唾とともにしまい、金髪はメガネを掛け直し、書き連ねられた手作り感のある黒字を読み上げていく。
⬜︎
どうぶつ野球盤かるた 特別ルール
攻め:
①お手つき=三振
②取り手が一枚取るとヒット1ベース進
③連続して取るとツーベースヒット2ベース進、さらに連続して取るとスリーベースヒット、ホームランと打撃内容がどうぶつバッターたちのテンションが上がりグレードアップ継続する
④読み手が事前に宣告したホームランどうぶつかるたは取れば問答無用でホームラン、ただしお手つきした場合は即負け失格退場となる。ホームランどうぶつかるたの数は審判兼読み手のさじかげんで決めてもいいものとする。
守り:
❶お手つき=四球
❷一枚取ると塁上の1番先のベースにいるどうぶつ走者をアウトにし1アウト
❸次の()の場合に連続して取るとダブルプレイ(どうぶつ走者がいずれかのベース上にいる場合)
⭐︎読み手のカードながなくなった場合は表裏の攻撃かかわらずそこで試合終了。最終的な得点数で勝敗を決める、同点の場合はかるたの取得枚数の少ない効果的に攻めれたほうの勝ちとする。
⬜︎
以上のルールを前のめりのメガネごしに────
「おい滅茶苦茶器用なこと同時進行してやがんな!? や、や野球盤とかるたの悪魔合体かよ…なんだそれ──異種異種の未知の領域すぎて未だスベテを理解できねぇぞ…(お手つきが四球と三振か……なるほどな…いい落とし所…なのか??)」
「はいこの茶室に用意されていたボードゲームの中でお2人の好きなものを悪魔合体させデスネがルール整備しました──ですね、どうぶつ野球盤かるた」
「まじかよ。かるたがボードゲームなのかは定義的にはそうなんだろうが…ってこれほんとに成立してんのか……よ? 読み手のかるたが無くなったら終わり……コールドはなしか、いい落とし所…なのかァ?? 言ったら攻守交代制のかるたか……やったことがねぇからわかんねぇ…なんだこれ」
デスネの躊躇ない悪魔合体によりツルハシの未だかつて見たこともないミックスボードゲームが生まれた。
スコアは2対1、攻守は交代し、守りの真田ふれいと攻めのッペーネロッペーは観客にツッコミを入れられた間にも自陣と相手陣その中間のどうぶつ絵を目と脳にインプットしながら──暗記時間にあてるほどに白熱集中している。
観客にもルールが理解されたうえ、そして始まったノーアウト走者なし裏の攻撃。
ひとつ手に取り隠されたどうぶつの絵柄が、平坦声で読み手のデスネにそのヒント特徴をことばにし読み上げられていく。
「シマシ──」
「んなのもうシマウマああああ!(オカピはペネロペに弾き飛ばされて死んだ──読み手のカードも檻の中だ、いねぇッッ) もらった!!!」
ッペーネロッペーの手にはしたなく弾き飛ばされてオカピカードは現在茶室のどこかで行方不明、措置として読み手のオカピカードは檻の中にある。
シマシマのどうぶつはシマウマしかいない。
ツルハシは古い記憶に知っていた、オカピとシマウマの引っ掛け問題を。そしてシマシマのどうぶつはこの二匹しかいない、さらにたいてい読まれるのはシマシマというその分かりやすい特徴から。
これしかない──ツルハシはバチんと勢いよく右手を叩きつけた。
読み手と乱入した取り手、見つめ合う緊張と自信と焦らす間に────────デスネは真顔をつくっていた唇を窄めた。
「ぶっぶーー。ぶーーぶーーーーのぶーーーーーー。出題:シマシマのーー尾っぽをもつどうぶつは──はいワオキツネザル──ですね」
「ワオキッッだれだそれ!!! し、しまった…私としたことが…そんなのまでいるのかよ今のどうぶつカルタは…?? 私のいない時代になんつぅ進化を……」
「もうーー。もっとじっくりおちついて考えるっぺ。ツルハシどんまん」
「め、面目ねぇ…」
ッペーネロッペーに不作法を諭される始末、見ない間に種類をふやし大幅に進化していたどうぶつかるたにツルハシは浅知恵をひけらかしかかり──敗れた。
「つるはしぃどんまい──!」
「あ、ありがてぇ…──!」
真田ふれいから貰ってしまったどんまいのサムズアップに、ものすごくゆっくりと親指を立てて落胆するツルハシは答えた。
この後、
騒ぎを嗅ぎつけたマリティーポップも途中参戦し、どうぶつ野球盤かるたは、かなりの長時間延長回をプレイされ盛り上がったという。
▽
▽
▽水玉夏館、大庭▽にて
石灯篭がもりあげるオレンジの暖明に照らされる、汗の球。
「はぁはぁ…課題はもっぱらスタミナかな…」
「そうね。それも大事、魔法ソード少女には」
はじまったチャンバラの決着はつきそうであった。
いくら手にする得物が業物であり木刀と天と地の隔たりがあろうとも、その身の動きや経験センスまでは刀に見合うものには押し上げられない。
ふらつく足で構える刀は割れてはいない。
しかし、腹が割れそうなほどにカタナの呼吸は深く荒い。
『割ったら勝ち割れたら負けッ』
打ち合うために課した卑怯奇怪なルールも提案者の体力が尽きて、打ち合えなくなればその先は────
「そこまで」
旅館の大庭に聞こえた声はどちらでもない。
だんだんと明かりに表情姿明らかにされ現れたのは、マリティーブランは知らない、
「おおっ…?」
つかれた舌を出し犬のように呼吸する、カタナは知る。
「たたかいの邪魔をしてごめんね、って君はなんでソレを勝手に賭けるかなぁ」
「の、ノリでぇ…はぁはぁ……」
「それかなり大事なモノなんだよ」
「……そうみたいね」
クライマックスを迎えつつあった両者のたたかい切先と切先の間に、ゆっくり割って入ったのは。
紺色の長髪に山吹色の触覚髪が4つ、暗めの髪に映えている。すらっとしたその背は高い、旅館の景観に似合う浴衣姿であった。
マリティーシルブにも似た、どことなく気品のある人物は物腰柔らかにつづける。
「オーデオがオーデオでやっていけるのはその刀があるから、という側面があるね」
「え、そうなのォ??」
カタナはその知り合いの女とその汗手で握る刀を交互にチラチラと見ておどろいた。
「おどろくか? そうだな魔法ソード少女たちのMTシリーズも〝これら〟を参考に作られていると言われているね」
「へぇー! そうなのかよ! ──わかんねぇけど」
「こ…これの名は
「りょくみつ? へぇー、お前そんな名かよ!
「かっ…カタナくん、名付けるのは自由だが仮にも秘刀であり名刀にそれは…どうかと思うぞ?」
「ごめんごめん渾身の魂の四股名だったんだけどなぁ、先約がいたなら仕方ねぇ! りょくみつリョクミツ…ん、いい線いってるぜスノー姉さん──!」
カタナは変わらぬカタナ節で話し、お偉いお姉さんへとこのところハマっているサムズアップを見せつけた。
「いい線といわれても名付けたのは私じゃないんだけどなぁ…(こけむすめ…)」
「ソレは──どうすれば手に入れられるの」
もっとも気になるのはその名刀の名前ではなく、MTシリーズの由来でもない。
汗を一筋頬へと垂らしながら依然土産の木刀を握るマリティーブランは、スノーと呼ばれたその浴衣女の目を見つめた。
「この古い刀に興味ありとは珍しいな……んー。カタナくんみたいに運かご縁か、もっと確実なのは──ソードマスターになる」
姿勢綺麗にかつ自然体で立つスノーは、すこしだけ溜めてしっかりとブランの目を見て答えた。
「ソードマスター…実力がひつようということ?」
「うん、ソードマスター。あぁ確実とは言い過ぎたかな? ソードマスターでもこれらを貰えないまたは使わない人はいるよ。魔法ソード少女は性格実力さまざま、それまでに培った身の丈に合う、使い慣れた武器が1番ともいえるからね。ツルハシやマイクや傘や刀…オーデオは剣にかぎらず特に色々な武器があるからね」
「そう。たしかにあなたたちは違っていたわね。…秘刀名刀リョクミツ……あの日みたのは、しろい────白鞘」
目を瞑ったブランはあの日みた霞むがたしかな光景を、辿っていき白い鞘──そんなちいさなヒントを探し思い浮かべた。
ぼそりと涼風にながした言葉に、スノーはブランのその閉じてゆっくりと開いた黒目をじっと見た。
「白鞘? あぁ、君は────そうか。奇遇にもお互い探し物かな。レベルは」
「MS5」
「ええ? うそだろ!?」
マリティーブランの魔法ソード少女としてのレベルはMS5、彼女はルーキーであり中堅レベルに上がったのも異例の速さではあったが……
カタナはその一言だけで大口をひらいて驚いてしまった。
まったく実力に見合っていないからだ、低すぎて。真剣と木刀でチャンバラをしたじぶんと同じとは。
「あはは…オーデオはまだまだ人材難だからねー。〝こんなこ〟でもMS5。そうだな……こっそり見させてもらっていたかぎり君ならすぐソードマスターといったところかな。ふふ。お邪魔でなければウチに遊びに来るかい、なにか手がかりになるかもしれないよ」
微笑んだスノーは浴衣袖の右手をブランへと伸ばした。
友好の証か、何かを知り認めたのか。
その空いた手はさそっている────
「私はマリティー、本物の魔法ソード少女を追っている。だからソレはできない」
「本物……────なるほど一途かぁ。オーデオで共にストローのいない未来をと、思ったが残念。そうそう2人とも湯にでも浸かったらどうだい、いい湯だったよここ、初めてだけど。またプライベートで来ようかな、ははは。じゃあ、つづきはやめた方がいい。せっかくのいい宿だから」
言葉とは裏腹にさそわれた手をブラン自ら握り、やがて紺色の長髪と浴衣姿は離れていった。
大庭を去りゆく、借り物の下駄の音が静寂にコツコツと響いていく。
冷えた汗粒をシャツ袖で拭いたお調子者は去りゆく背を見つめニヤけながらだまり、
黒セーラーはゆっくりとひらいた右手をみつめる。
去り際まで口にした物腰の柔らかさとは裏腹に固く握手しながされたまりょくの質は、その身に受け取ったマリティーブランのみぞ知る。
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