第24話 水玉夏館①

▼マリティー本部イージスオペレーションシステム個室710▼にて


依然映像は乱れている、担当した魔法ソード少女から報告された状況をもとにオペレーターは頭を働かせた。

長山透のアタマでは関連するような事は未だ思い当たらなく眉間に皺が寄っていく。


「マリティーブランが言う…黄金の炎魔法をあやつる象人間……なんなんでしょう? そんな種類のストローは思い当たりませんね…?」


作業椅子に座り、背を向けながらも自分の後ろの人物に問いかけるように長山透は語った。


「カスが考えることじゃない」


この日も狭い部屋を無断で入り監視しにきていたメリーガンは、長山透の神妙な言を一蹴した。


「えぇ…? いやカスも考えますよ。7人も魔法ソード少女が一箇所のデータゾーンに集まったんですよ、それ程の相手…しかもマリティーブランが1人では苦戦するぐらいなのですから。そんなの、」


「フッ、お前は鵜呑みにするか」


「え?」


振り向いた長山に、屈んだ妖しい緑髪が耳元でささやく。


『盾にもならないカスを信頼しているわけがないということだ』


一瞬ヒトの感情を狂わせるような妖しい香と、ぞくりとする熱量をもった言葉に──座っていた椅子のキャスターを走らせそのまま長山透は緑髪から遠ざかった。


「え!? いやっいやいやいやいや!!! そんなことを! ……いやいやいやあーやなことを……そんなはずがないじゃないですか、あったとしても、うん! 真田ふれいさんの時のように何か最もなハートウォーミングなッ事情があるんですよ! まったくその辺の魔法ソード少女とは芯が違うんですよマリティーブランは!」


「フッ、──違うといいな」


ざらつくモニター映像に見た集う7つの小粒。

チリが積もっている────



(黄金の炎に赤い炎が勝り…善悪に然程関係のないイレギュラーを、わけのわからないイレギュラーが討った……こいつは、コイツらは、どこまで戦える。また始まるというのか伝説の魔法ソード少女とヤツの言うデータラインとやらの……──フッ、ヤツらの考えることは、まさにくだらんな)



アイギスのオペレーターメリーガンはシャツごしに疼く古傷をななめになぞり、──しずかに微笑んだ。







時刻は18時30分過ぎ。


水玉夏館すいぎょくかかん▽にて


データゾーンで役目を果たした7人の魔法ソード少女たちは縁あってか鳥取県の水玉市に訪れた、運良くも当日予約が取れたこの山奥にあるお忍びチックな旅館で。



空いていた宴会場の一席を借り、宴らしい宴は始まっていた。


出てくる出てくる、運ばれてくる。


蟹、


蟹、


蟹蟹海の幸。ずらりとならんだ赤赤と見目豪勢な蟹蟹パニックな景色に──


「きましたでました蟹蟹パニック」


デスネの言う通り蟹蟹パニックという状況が相応しいお料理の数々、蟹しゃぶ、焼きガニ、蟹鍋、蟹寿司、蟹バーガー、蟹味噌パスタなどなど。隙のない構成が卓上に絢爛に広がっていた。



「うおーーー蟹いいい大和魂があわあわと震えるぜ!」


「大和魂が震えるなんて今時生粋の日本人でも言わねぇぞおい、女子、女子だよな?」


「まるで蟹のUFOキャッチャー…っぺぇ…」


「女子っぽい…のか? バカっぽいのか?」


オーデオの魔法ソード少女たち三人衆も、これには喜びを隠せず。

カタナは目をまん丸にし体は目の前の蟹メイン料理に前のめりにのめり込み、

ッペーネロッペーも目をキョロキョロといったりきたり興味津々、其処にないボタンをばちんと机をたたき押した。

ツルハシは何かおかしな料理はないかをさり気なく先回りし探しながら2人へのツッコミも欠かさない。




「んわーーぁ、蟹──!!」


青い瞳のカタナお姉さんに次いで赤い瞳のふれいも前のめり、行儀悪く元気にリアクションしている。

そして右となりの水色に可愛らしいVサインをはなった。


「蟹だからぶいぶいピースってぇ? やかましいわよ、あははは」


マリティーの回し屋もしっかりと反応した。

真田ふれいの笑顔とVサインをもらい、マリティーポップは明るくVサインを返して笑い飛ばした。


「ではいただきましょう〝蟹パニ〟えぇ待ちきれません、いただきますの号令を要求します」


「既に略してあろうものを略してんじゃないわよ、きいたことないわね〝蟹パニ〟。っていただきますの号令ってなんか言い方がいかめしいわね、号令じゃなくて合掌? ソレもちゃんちゃらいかめしいわね」


「蟹パニはイカ飯ではありま──」

「わかってんのよ。次いくわよ」


ご馳走は目の前──こんなところで立ち往生している暇はない。

ツッコミをクリアしたマリティーポップは切り替え切り捨てて次へと向かった。



マリティーの魔法ソード少女たちと向かい席のカタナは麦茶のコップを手に取りひょいと立ち上がった。


「あぁイカ臭いのよりせっかくだもっと女子会っぽくいこうぜええ! せーーっの!」



カ:ッぺ:ふ:「「「蟹パニぃ〜〜〜〜!!」」」



ポ:ツ:「「乾杯みたいにッッ…!!」」


声を揃えたげんきなお馬鹿たちに対してキレ味のある声は揃った──首はくいっと動き、金髪メガネと水色髪の視線が合ってしまった。


「──なによ?」「なんでもねぇ…」



「いただきますの号令はまだでしょうか?」


「あんた馬鹿でしょ、はいはい〝いただきます〟スタート」


蟹を両手に持ちメイド服の女はいただきますの号令待ち、早く蟹を分解したくてうずうずと握りしめながらの待機。

見かねたマリティーポップの号令をもらい、デスネはさっそく銀色にきらめく器具を手にし蟹を分解しはじめた。


「はい、蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具よーい、ドーーーーーーン」


「ちょっと待ちなさい、あんた今呪文唱えなかったぁ!?」


蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具かにスプーンですが何か? お邪魔はやめてください蟹パニですよ、デスネいきます!」


「いや、なんかクッッソ違うの出てたでしょ! さっき!」


「うるさいっ、蟹パニいいいいいいい」


「なんなのよあんた…はぁもういいや、ん──蟹バーガーなんて洒落てて珍しいじゃないどれど──」


「蟹ぱに…」


しずかに呟いたポーカーフェイスは、覗き込み突き刺さる水色の視線を無視した。


ポップは物珍しい蟹バーガーをがさがさと包み紙の音をたて手にし、ブランはみずみずしく美味しそうな蟹寿司をひとつ箸で摘んだ。



立ち上がったカタナ、ッペーネロッペー、真田ふれいの成したこのところなにかと魂でつながるトライアングル。


元気に発せられた3人娘の〝蟹パニ〟の号令で、

個性豊かな魔法ソード少女たちの宴ははじまった。

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