第10話 片栗粉

赤い赤い夕陽は消えいるように沈みゆく。



あれだけいたストローを呑み込むように燃やして、だいけい公園は台形というよりはだだっ広く円くなり、あのド派手さから考えるとそんなに燃えてはいない──しなしなと地からエンドされた白煙がのぼっている。やがてそれも冷めた。




「ナガヤマ今から言うこと秘密回線にできる」


『なんでしょう? ハイ──さかのぼりしましたが』


「うん。救助した魔法ソード少女…の聞くところによると、このデータゾーンに紛れ込んだ民間人がいるみたい。現在保護、マリティーで活動する私としてははじめての事態…ということになる」


『データゾーンに民間人……えぇ!? ──あぁ、なるほど』


「なるほど?」


『その場合の対処ですね。いまから片栗粉をそちらに送ります』


「どういうこと?」


『片付けるそういうことですマリティーブラン』


「……」


『えっと勘違いしてほしくないのですが。送るのは懸ではなく決定権はマリティーブランにあります。そうですね…お茶にでも溶かすといいでしょう、味は知りませんがたぶん大丈夫なはずです』


「それでかたくりこ…──(あの時のあれはそういうこと)……いち魔法ソード少女…に任せられるってことはたとえば外にながれてもいいの? 厄介じゃない?」


『あーそれに関してはあまりよろしくないのですが、すでにそういった眉唾物は人々のあいだで流れているところですよ。さすがにそこに100人はいませんよね? まぁ隠しすぎては隠し味は意味をなさないといいますか、塩梅といいますかバランスといいますか…はは。つまらない戯言でしたね失礼。今は……データゾーンのまりょく残滓がひどくて少しこちらから観ることができないみたいで、何かそれいがいのイレギュラーが?』


「いや、民間人はひとりよ。まりょく残滓がひどいのはちょっと四角い変なのが焼け壊れただけよ。わかったじゃあそうしてナガヤマ」


『え四角い……分かりましたハイ、では────────』



マリティーブランは黒髪で右耳を覆い通信を一旦閉じた。

手に入れた証拠品をパラパラとめくりながら手書きのアリバイを確認していく──


「おかしなことばかり……──剣にまりょくを注ぎ込んで斬撃を浴びせ同時にまりょくを向こう側へ一気に移すそして循環するまりょくは遅れてまりょく爆発を起こす、魔法ソード少女なら出来て当然…いや自称民間人……でもそう考えられる服装と状況と証拠はそろってる、動き自体も動けるときに動けるだけといった感じ、はじめて剣を握って剣に操られるように動けるそういうすわったタイプもいることは知っている。それにまりょくを一気に注ぎすぎて暴走? でもアレじゃどのみちダメね。魔法ソード少女はじぶんのまりょくに耐性があるとはいえ…アレじゃまるで一度きりの自爆魔法……後で四角の残骸を中央に配置しておけばいいか」


「見た目は赤い炎の魔法、熱量もかんじた……そういえば炎ってあまり出会ったことはないけどただのまりょく爆発よね? でも辺りは燃えてはいないから炎ではない? どんな魔法色であれデータゾーンだからと捉えるのがきっと正解ね……なんかもうめんどくさいから終わってくれるといいのだけど。────魔法ソード少女というより少女、みかねこ…」



日付はまさに今日の真昼間、


場所はだいけい公園ではなくさんかく公園、だいけいでもさんかくでも四角でもどうでもよくマリティーブランは公園の名前なんて気にして生きていない。


ご当地猫図鑑④にうつるデフォルメされた黒猫を見ながら。



「ほんとに硬直してるわね……ほんとなんだこれってかんじ……? ってあんた代表曲がま・さ・か【愛のぼむ・えんど】なんてなんなのよ【ダイナミックソード】か【ソ・ファンタズム】にしないからこうやって変なことになるのよ!」


熱も冷めた円形グラウンドの中央、剣を両手に勇ましいポーズで綺麗に固まったお間抜けがいる。


水色の魔法ソード少女はその精巧なお間抜け銅像をじっくりと鑑賞しながらはなしかけている。話題は【ソぴーず】の代表曲のつづき、無駄話ができるほどにしばらくスカした指示待ちの暇であった。


「だいなみ、ふぁんた? …なにそれ?」


「はぁ!? あんた知らないの!?」


「んーー。お母さんが好きだからわたしも好き! ──!」


「お母さんが好きだからわたしも好きサムズアップ! シャキーン! あーあるある…じゃないわよ。まったく代表曲って自分で言っといて一曲しか知らないってクッソにわかねーどんだけ仲いいのよ。にわかでも5曲は知ってるわよにわかの・にわかねぇ。それに普通そっからグレて家にあるCDとちがうバンドとか借りまくって聴くでしょ給食のじかんの水・金週二で流してイチファンがそのアーティストをさりげなく刷り込んで布教するんでしょうが、あんた大して学、音楽がなさそうね」


「あわわ……んー…音楽がなさそう?」


「なんで的確にそこだけ疑問をていすのよ…。(ポンコツなのかするどいのかいらないのか…)まぁいいわ、帰ったらそのにわかのあんたのお母さんってのに代表曲をしつこくきいてみなさい、きっと5曲は出てくるわ」


「んーー? ──!」


「シャキーンじゃないのよ。ってなんでそこだけ動いてんのよ! えぇ? ──あぁなんか笑ったら動かせるようになったぁ? 馬鹿みたいあはは笑える。わたしの美味しいまりょくとスコア活躍機会をちゅーちゅー奪ったあんたなんてこのまま公園の銅像になっちゃえばよかったのに、あはははは」


どうやらちょっかいを出しにきたマリティーポップと話すうちにふれいの右腕だけは自由がすこし効くようになったようだ。


「そんな隙さらしてちゃ借りたまりょくのいっちょまえの大魔法もナンセンスね、つよいマリティーポップ先輩には余裕で敵わないわあはは。間違いないよ、あんたやっぱみん・かん・じーーんっ」


不意に正面に接近したポップはふれいの乱れべたついた前髪をととのえ、ぴんっと無防備な肌色を弾いた。


ふれいは丁寧に鋭くおでこの中央を打たれてしまう。

たしかにまるで、好き勝手やられ放題イタズラされ放題の公園の銅像であった。


「あだっ…!? いつぅ……──!」


「なんでヨ! デコピンにサムズアップなんてはじめてみたし…いいわアンポンタンなあんたにリアクション芸ってものをこちょこちょと叩き込んでぇぇッッツ」


「!? ちょーちょちょちょあひへはははは────」



デコピンの次は〝こちょこちょ〟


こんなしゃべる銅像が公園に突っ立っていれば常人ならこちょこちょしたくなるものなのだ、


つよい魔法ソード少女とただの少女、ふたりの笑い声とイタズラはしばらくつづいた────





あたたかい瓶にさーっとながし混ぜられた。


ちいさな羽飾りに指先でふれ、ふれた指をしばし眺め────交錯する感情をなつかしんだ黒髪は、あたたかな瓶を両手に。


明るい声のする中央へと歩いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る