第3話 偽りの愛と嘘

偽りだらけの私にも仲間が出来た。

アルバイトの子にも慕われ、最高な職場だった。


20歳で入社し、1年経った頃、異動命令があり、隣町の店に異動した私にもようやく後輩が出来た。

38歳、中肉高身長、よく喋りよく笑う、失礼な奴だった。


「あれ?はじめまして、渡井信弘(わたい のぶひろ)です。昨日二日酔いで休んだ子?」


「違います」


前日、月経痛が酷く休みをもらっていたのを、店長が、気を利かせたのか

「二日酔いで休んだって言ったらきっと仲良くなれるよ」

と伝えたらしい。


(何この失礼な奴、嫌いだな)


この失礼な奴と2人で、お店を任されるのかと思うと、最悪な気分だった。



どうやら前職で、居酒屋の店長をしていた彼は、初めは私にたくさんのアドバイス、たくさんのフォローをしてくれた。


「春桜さんさ、仕事の話、職場でしてたら堅苦しくなっちゃうから、飲み行こうよ」

「疲れてるんでちょっとならいいですよ」

「おれ、お金ないけど」

「飲み代くらい出しますよ」


余計な一言。私を苦しめる一言だった。



21歳になった頃、私は仕事が終わると、友達と朝まで浴びるまで酒を飲んで、二日酔いで仕事に来る日々が続いていた。酒が飲めるなら何でも良かった。


そんな時に、酒飲み仲間が増えたのだ。

彼は、酒を飲むと自慢話ばかりだった。


「おれが店長やってた時は全店舗で1番の売り上げ出してたんだよ、全国1位。

店に泊まって、一日中仕事してたから、今は定時で上がれて、こんな楽な仕事ないよね」

「そうなんですね、すごーい」

「タイに出張も行ってて、給料も今の3倍だったよ、その頃に会ってたら春桜さんにも奢れたのに」

「その頃に会いたかったなー」


飲み代は、いつも私の奢りだった。


何回も同じ話をされたけど、毎回初めて聞いたフリをした。

その話を聞くのが心地よかった。

何も考えずに、酒を飲んで、話を聞き、てきとうに返事をするだけ。


私は、彼と長い時間飲めるよう職場の近くで一人暮らしを始めた。お金を借りた。

次は返さなくてはいけないお金。


彼には彼女が数人いるらしかった。

彼の家の世話をする彼女、彼の欲を満たしてくれる彼女、彼の金銭面を助ける彼女。


私も彼と寝たかった。彼の助けになりたかった。必要とされたかった。


彼の彼女たちに負けないように尽す日々が続いた時、気づいたら、お金が足りなくなっていた。


そして、そんな生活が一年経とうとしている時、彼の嘘に気づいた。


「実は自分でお店を経営していて、そこの店の店長が逃げたから、今すぐお金が必要なんだよね」

「そうなんだ、いくら?」

「50万なんだけど、手元になくて」

「わたし、そんなお金ないよ」

「半分でも助かるんだけど、無理?」

「うーん、半分なら頑張れば出せそう」


そんなお金はなかった。

また、お金を借りて、お金を渡した。

彼のために。そして、私のために。


彼のインスタはフォローしていなかったけど、アカウントは知っていたので、覗いてみると、前日にキャバクラに行っていた。


次の日、一緒に酒を飲み、私の家に泊まる彼のスマホを充電しようと手に取ると、キャバクラの25万の領収書が、手帳型のスマホケースから落ちた。



「おはよう、起きないと遅刻するよ」

「うん、コーヒー作って」

「うん」


見なかったことにした。

彼と一緒に居たかったから。



嘘とお金に悩んでいた私は、お酒を飲むと過呼吸になるようになっていた。

彼に病院に行くように言われ、心療内科に行くと、鬱病になっていた。


もうやめよう、諦めよう。彼から離れよう。


でも離れられなかった。

過呼吸になると、彼は優しく介抱してくれる。私だけを見てくれる。


彼に必要にされたかったのに、私が彼を必要としていた。


いつからか、彼が私に暴力を振るうようになった。

記憶がなくなるまで酒を飲み、私を殴り、蹴り、髪を持って部屋中を引きずった。


私は仕事に行けなくなった。

この頃から、毎日死に方を考えている。


何回か自殺未遂をしたけど、どれも死ねなかった。彼が死なせてくれなかった。


今日はどうやって死んでやろうか。

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