第2話 地獄の始まりと嘘

「パティシエになりたいので、専門学校に通わせてください」


嘘。

夢なんてなかったし、なんでも良かった。

高校卒業そうそうに働きたくもないし、ギリギリお金を出してくれそうな一番楽な道を選んだ。


「本気でやるならいいよ、お父さんに頼んであげる」


私が3歳の頃に、母は離婚した。

だけど、月に一回、父と母と姉と4人で会って、ご飯に行ったり、出かけたりしていた。

家庭裁判所で決めたらしい。


幼い頃の父の記憶はほぼ無く、

月に一回会うだけなので、他人だと思っていたが、お金を出してくれそうなので、得意の嘘で繋いだ。


「お父大好き!私頑張るね!!お金も卒業して働くようになったらちゃんと返すから」


もちろん返す気なんて無かった。


「春桜がパティシエになりたいなんて知らなかったなあ。お金のことはいいから、頑張れよ」


割と器用に何でもこなしてきた私は、専門学校もなんなく卒業。

ただやりたい訳ではなかったので、仕事は続かなかった。

朝は5時出勤、夜は19時終業、22時まで自主練習。

自分に甘かった私は、入社3日後シェフに軽々と頭を下げた。


「すみません、幼い頃から病気がちで、体が強い方ではなく、また病気が見つかってしまいました。入社早々に申し訳ございませんが、退職させていただきます」


嘘。


同期には、何も言わずに辞めた。


辞めた後のことは何も考えてなかったので、とりあえず自動車の免許を取って、就活でもしようかなと呑気に考えていた。


アルバイトをしながらお金を貯めようと思っていたが、働けど働けどお金は貯まらない。


「あれ?おかしいな、こんなに働いてるのに」


アプリで通帳残高を見るたび、引き出せない3桁の数字が映る。


「千円以下の硬貨は引き出せないのか」



散財三昧。

インスタに載せるべく、ブランド物の服や小物を買っては、中古品屋で売っていた。


「春桜はオシャレだね!何でこんなにブランド物買えるの?」

「稼げる仕事してるからねー、貯金も出来たし、家でも出ようかなあ」


嘘。

稼げる仕事なんてしてないし、貯金もゼロ。


インターネットで調べると、そういうのを発達障害というらしい。きっと私は違う。ただ嘘つきなだけだ。


中学を卒業してから母とも一緒に暮らせるようになり、母に心配させないようについていた嘘がまた始まった。

嘘は、次第に大きくなっていくらしい。

大きくなって、私を取り込んでいった。

私は、嘘の塊になった。


カフェのアルバイトを辞めて、もっと稼げるアルバイトをしようと、居酒屋の面接に行った。


「フリーターなら、正社員やらない?」

「じゃあやります。」


行き当たりばったりの人生、なんかの縁かと思い、居酒屋の正社員になることができたのだ。

私の天国と地獄の始まり。


祖母からお金を借りて、車の免許を取り、母からお金を借りて、車を買った。


「必ず返すから」


私は、真っ当な人生を送るべく、仕事を始めた。



まだやり直せる、まだ取り返せる。

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