第5話 ミミックの過去……え?違うの?

「わしの話はもう良いだろう。そろそろおぬしの話を聞かせい」




 ラケルは助けをもとめるように回りを見た。




「まったく往生際が悪い。まあ、話なら今でなくとも道中いくらでも時間はあるが」


「いっ、いや、まだ先に話していない人がいるよねっ?そっちから話してもらわないとっ」


「……ここにはおぬしとわしの二人しかおらんが?」


「そもそもトロイさんは人じゃなくて鎧だし」


「じゃあ誰だというんじゃ!?」


「そこにいるでしょ?……ミミックさんが」




 ラケルは宝箱を見つめている。


 ……。


 ラケルは宝箱を見つめて……いる。


 ……。


「あれぇっ!?」


「……『あれぇっ!?』じゃなかろうが」


「ここはミミックさんが『よくぞわたしに気が付いたわね?』とか正体を明かしてくるところじゃないの?」


「宝箱が話せるわけなかろうに。常識で考えい」


「鎧に言われたくないけれど」


「で、どうする?わしは道々に話をしてくれるのでもかまわんぞ?」




 ラケルは迷った。今、あきらめてこの鎧を着るのか、それともまだ話を引き延ばして隙をみるのか。




「僕がラケルだって最初から知っていたみたいだし、隠しても意味はないか……」


 ラケルは大きく息をついた。


「僕の名前はラケル・トランスゲート、一応は冒険者だよ。……一人ではまだダンジョンに入れたことはないけどね。ちょっと前までは幼馴染たちののパーティにいたんだけど、まだしばらくは一人でやっていこうかなー、なんて」


「……ちょっと待て」


「ん?何?」


「おぬし、両親は?」


「何、突然?いないよ」


「『いない』とは『どこかに行っている』という意味か?」


「うん、そうだねー。今頃どの辺にいるのかなー。天国かもしれないし、……地獄かもしれないね?」


 なにげない口調なだけに変な重みがあった。……おいおい、いきなりのシリアス展開か。


「……あー、うん、……よくわからんが、余計な質問をしたわしが悪かった」


「うん、確かに悪いよね、まったくクロイノロイさんは」


 ……よし、シリアス回避。


「いやここは『そんなことないよ』って言うところで。……それになんかわし、悪霊みたいに言われてない?ほら、わしにだってちょっとはシロイところもあるぞ」


 そう言ってトロイは向きを変えて、飾りのようについた房を揺らす。


「いや、それ、小汚く薄汚れているから、白くないよ?」


「がーん!」


「本当に『がーん!』なんて台詞、言うことあるんだ……」


 驚愕の事実だった。




「い、いやおぬし、それでよく今まで生きてこれたな……」


「今まで『しゃべる鎧』なんて非常識なものとは出会ってないからね。その対応をどうのこうの言われてもねー」


「なにおぅ、わしは『歌って踊れる鎧』じゃぞ!……いや、そういうことでなく」


 さあ、みんなも『鎧が歌いながら踊っているところ』を想像してみよう。……うわあ。


「……」


「どうしたの?」


「なんか、おぬし以外にも失礼なツッコミが入った気がしてな。……いや、おぬしほどの年齢でひとりで生きていくのは大変じゃろう?」


 年端もいかない少年が一人で生きていけるほど、この世界は甘くない。……残念ながら。


「ん、みんながいたからね」


「みんなって?」


「さっき言ったでしょ?僕の幼馴染」


「幼馴染といったって、おぬし、両親は……」


「うん、だから、そういう『施設』の。僕なんてまだ良い方だよ、親がいてもそういうところに来てたりする子もいるからねー。親がドラッグ依存症だったり、暴力振るってたり、放置だったり、……奴隷に売られないだけましだったかもしれないけど」


 ……え?なに?ちょっと待って。やっぱりシリアス展開になるの?……マジ?


「まぁでも、一日一回はなにかを口に入れられたし、それぞれ一枚は名前つきの服も与えられてたし、シスターも良い人だったし、みんな仲良くしてたし。……ただ、いつまでもそこに世話になっているわけにはいかないからね。みんなで冒険者にでもなるかー、ってパーティを組んだんだ」




「ふうむ……」


 トロイは腕組みをしながら聞いている。←さあ、『腕組みをする鎧』、想像してみよう!


「……でも、トロイは僕のこと知ってたんだよね?ミミックさんを開けるなり『ラケル、わしとパーティを組もう!』とか言ってたし」


「いや、それは、……とにかく蓋が開いたら誰にでも『パーティを組もう』と言うって決めてたし、その後で……おぬしの服に名前が書いてあったから『ああ、ラケルって名前なんだな』と思っただけだし……」


「がーん!」


 衝撃の事実だった。

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