第6話 ラケルの幼馴染パーティ
「がーん……」
ラケルは相変わらず驚愕の事実に打ちのめされていた。
「なあ……いいかげんに前の話を引きずるの、やめん?」
「……いや、だってこれが僕のアイデンティティだから」
「やなアイデンティティやな……」
言ってから、よしっ韻を踏んだ、と思って一人悦に入るトロイであった。
「だって、『がーん』なんて言葉、一生使うことなんてないと思ってた僕が『がーん』って言っちゃったんだよ?そのこと自体が『がーん』だよ!がーん……」
「んな改めて言わんでも……」
なんだかラケルと立場が逆になったように思うトロイであった。……ちょっとくどい?
……お忘れのことと思うが、トロイは鎧でありかつ魔導士でもあったりする。まさしく、トロイは今、惑う魔導士と言えるだろう。……よし、タイトル回収、っと。
そんなことはさておき、話を戻すことにしたトロイだった。……そろそろしつこい?
「それで、その幼馴染パーティって……」
「あ、そうそう、結構有名だったんだよ。知る人ぞ知る、知らない人は全く知らない、って」
……それは有名なのか?と思わなくもないトロイだった。……もういいか。
「聞いたことないかな?<大人になった子供たちアダルト・チルドレン>っていう名前のパーティ」
なんか名前地の文とニュアンスルビがくい違っているような、というツッコミの代わりに、トロイは別のコメントを入れてみることにした。
「わしはダンジョンの奥に引きこもってたせいか、そういう名前のパーティは記憶にないが。有名だったってことは結構強かったのか、そのパーティは?」
「ううん、有名だったのはいつまで経ってもFランクから昇格しないパーティだったからだよ」
トロイは凍り付いた。FランクからEランクへは自動昇格だとばかり思っていたからだ。それぐらい普通はすぐ昇格してしまうため、Fランクパーティの存在そのものが稀少と言えなくもない。
「その、それは……なんと言って良いか……」
「何も言わなくて良いよ。……というかむしろ鎧が話していること自体が変だし?むしろ何も言ってくれない方が良いかな」
「おぬし、容赦ないな……。わかった、もうわしからは何も言わん」
「ありがと、じゃあ行くね」
ラケルはトロイに背中を向けた。座り込んで、体の前に手をつく。いわゆるクラウチングスタートの姿勢である。スタートダッシュに勝負をかけるつもりらしい。
「こらあっ!」
ラケルはその姿勢のまま振り返った。ただ、上げていた尻は一度下ろしている。
「……トロイからはもう何も言わないって言ったじゃない?」
「おぬし、これを機にわしから逃げるつもりじゃったろう?」
「うん、そうだけど?」
あっさりと首肯され、言葉を失うトロイだった。
「約束通り、何も言わず見送って欲しいな」
「……わかった」
トロイはあっさりと了解した。結成前からパーティ解散の危機である。
「……黙って、付いていくとしよう」
「えっ?」
ラケルは想像してしまった。自分の後をぴょんぴょん飛びながらついてくるミミックの姿を。今は人目がないからまだ良い、でも街中でそれをやられたら……。
「これが、修羅の道、か……もう、どうあっても引き返せないんだね……」
「お、おう、なんか大層な話になっているような気もしないでもないんだが……」
「トロイは気にしなくても良いよ。もう僕には失うものなんて何もないから……」
「いやむしろそれ気にしろって言ってるし!なんか、わし、すげー悪者になっとらん?」
「……何言ってるの?トロイはもともとノロイさんでしょ?」
「いや『さん』付ける場所間違ってるし!……わしの方こそずうっと毒吐かれてない?さっき出会ったばかりのおぬしに。わしの心がヒロイからこそまだ……」
「あーそれはないよ、『ヒロイ』はない。『エロイ』ならともかく」
「……今までの流れでわし、エロイと言われなきゃならんような要素あった!?」
「まったくもうわがままだなぁ。……じゃあモロイヨロイさんで」
「今にも崩壊しそうだからやめて!」
ラケルはくすりと笑った。
「まあ、トロイが一緒だと退屈はしないで済みそうだね」
「……ん?」
「これからよろしく、トロイ」
ラケルはトロイの前に来ると、手を差し出した。トロイが言葉に詰まる。
「あの……」
「ん?」
「わし、鎧じゃから、文字通り手も足も出んのじゃけど……」
ラケルは微笑む。
「まったく、そういうところがトロイは残念だよね!」
「わしを残念な奴あつかいするなぁ!」
だけど、二人(?)の声はどことなく明るかった。
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