第4話 トロイの過去

「往生際が悪いと思うんよ……いいかげんにせん?」


 ラケルはくどくどと話を続けるトロイをぼうっと見ていた。……なぜか地面の上に正座だ。


「いや、わかるよ。鎧に説教うけている自分は何だろうとか思うと、情けなくなるよな。わしも鎧の身で何で人に説教しているのかと思うと、なんか虚しいし。だけど、そろそろ観念して決めん?」


 ところが、ラケルとはいえば(これ、ほんとうにどこから声出しているんだろ?鎧の裏側にスピーカーついてたりとか……)とか思っていたりする。


「はぁ……」


 おお、鎧がため息をついた。ラケルはおもわず拍手をしそうになって、その手を直前で止める。それで、トロイは一層深いため息をつくことになる。


「それで、トロイさんはあんなところで何をしてたの?」


「お?おぅ、よくぞ訊いてくれたっ!」


「いや、そうしないと、ずっとこんなところでにらみ合っていることになりそうだったし……」

 だけど、そもそも、鎧に目なんてないはずなんだけどなぁ……。


「こんなところ、とは言うがな、わしだって以前はあのダンジョンの最奥におったんじゃ。つまり、ダンジョン一番のお宝というわけじゃ!」

 ……え?この変な鎧が?

「だがなぁ、……誰も来んのじゃ!ずーっっと待っておったのに誰も来ん!確かに、わしの宝箱を開けるにはあのダンジョンの大ボスを倒す必要があった。倒す必要はあったが……正直言って、図体がでかいだけでそーんなに強そうな奴じゃなかった。ドラゴン、とかならまだ格好はついたんじゃが……モンスター名すらよくわからん。一応人型のモンスターだったが……おつむが弱そう、という以外なんの特徴もない奴だったな」

 ひどい言われようだけど……でも、少なくとも僕ではきっと勝てないんだろうな、と思うラケル君であった。


「でも、本当に誰も来なかったわけじゃないよね?誰がノロイさんを解放してくれたの?どうしてその人に付いて行かなかったの?……(そうしたら、僕と出会わずに済んだのに)」

「おおい、ちょっと待て。わしの名前はノロイ、トロイじゃない!……ん?なんかわしまで自分の名前がよくわからんようになってきたじゃないかぁ!トロイトロイトロイノロイトロイトロイヨロイトロイトロイ……良し、わしの名はトロイ!」

「良くはないような……いや、どうでも良いか。でも、僕の前に蓋を開けてくれた人がいるんだよね?その人とどうして一緒じゃないの?……(そうしたら、こんな面倒なかったのに)」

「さっきから、最後にぼそっと何か言っておらんか?」

「いいや何も。で、どうなの?」

「だから、さっきから言っておるだろうが、誰もやって来なかったと!」

「え、じゃあ誰がその宝箱を……」

「……わしが自分で開けた」


 そういえば、この変な鎧はさっきも自分で宝箱から飛び出てきた。……おかしい。手もないのにどうやって蓋を開けているんだろう?……体当たり?


「……まさか、自分で大ボス倒して出てきたの?」

「それがのう……わしが宝箱からそとを覗いたときには、もう死んでおった」

「やっぱり誰かが来て倒していったんじゃないの?宝箱に見向きもしなかっただけで」

「奴は図体がでかくて、おつむが弱そうだと言っただろう。……わしが思うに、部屋から出られなくて、そのまま餓死したんじゃないかと。……なーんもない部屋じゃったからのう」


「……」

「……」


「さて、と……」

 ラケルは立ち上がり、ズボンについた砂を払う。そのまま背を向けて一歩踏み出したところで呼び止められる。

「おおい、何もなかったことにして立ち去ろうとするなぁ!」


「何もなかったのは部屋じゃ部屋!話自体をなかったことにするな!」

「いやちょっとあんまりすぎて脳が理解を拒否してました」

「これからが本番なのに……」

「いや、どうせあれでしょ?部屋の出入口を大ボスの死体が塞いでて出るのに苦労したとか、今度は中ボスのところで待ってたけどやっぱり誰も来なかったとか、少しづつ手前に移動しているうちに気が付いたらダンジョンの外にまで出てきてたとか……どうせそんなところでしょ?」

「な、なぜ知ってる!?」

「……大当たりですかそうですか……」


 でも、一番聞きたいのはそこじゃない。

「そんな話よりも、そもそもなんで鎧なのよ!?」

「わしにもいろいろあったってことよ……」

 ノロイが遠い目をしている……ことがわかるラケルは逆に情けなくなって呟いた。

「うん、鎧の過去なんて聞くものじゃないってことですね」

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