第2話 わかった、わかったから!
「おお、そういえば自己紹介がまだだったな。わしの名はトロイ、見ての通り魔導士じゃ」
ツッコミどころ満載である。
え、何いきなり自己紹介始めているの?この空気読めないの?こっちはもう完全に逃げ腰なんだけど?
トロイ?……この姿に擬態して何かやらかす気なの?
見ての通り、って、あなた鎧ですよね?鎧が魔導士なの?
そもそも、どうして鎧がしゃべってるのよ?
どう考えても、「トロイ」じゃなくて「呪い」だろ、もう。
過去の輝かしい戦歴を語るトロイをよそに、ラケルはそっと宝箱の蓋を閉じた。隙間から、引き続き熱く語るトロイの声が聞こえてくる。真っ暗な箱の中、語り続ける鎧……不気味だ。
ラケルはゆっくりと宝箱の前から後ずさる。
「そこでわしは……ん?なに蓋とじとるんじゃあ!」
蓋が閉じられていることに、トロイがようやく気が付いたようである。……確かに「とろい」な。
「おぉい、またんか。このっ、待てというに」
宝箱がずりずりとにじり寄ってくる。ちょ、なんでこっちが逃げようとしているのが分かるの?しかも、まるで見えているかのようにこっちに一直線に向かってくるし。
動くときの振動で、蓋が開いたり閉じたり……お前はミミックか!
もうなりふり構ってられない。ラケルは走って逃げだした。
……これぐらい逃げれば大丈夫かな。ラケルはもと来た方向を振り返り、それを見た。
宝箱が、蓋をがたがた開け閉めしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねつつこっちに向かってくる姿を!
……お前、完全にミミックだろう!いや、ミミックより怖いわ!
もう完全に理解できた。ラケルに逃げ切れるわけがない。ラケルは速く走れるわけでも、体力があるわけでもない。一方、宝箱はとろいわけでもなくのろいわけでもなかった。
断頭台で執行時刻を待つ死刑囚の心境で、宝箱が来るのを待つ。
「なんで逃げる?」
いや、普通逃げますよね?……というか、蓋をかぱかぱしながら話すのやめてください、ミミックにしか見えません。
「まあ良い、わしとパーティを組もう……そういえば、おぬしの名を聞いていなかったな?」
あ、これ、絶対に教えちゃいけないやつだ。
しかし、名前も知らない、初対面の人間とパーティ組もうなんて正気か。しかも鎧(……宝箱?)が。
「え、えーと、僕は……ノロイ?」
「自分の名前を名乗るのに、どうして考えたり、疑問形にする必要があるのかはわからんが……」
偽名を名乗ろうにもとっさには何も浮かんでこなかったんだからしかたないんだよ。しかし、我ながらよりにもよってノロイかよ。
「まあ、良い。我々はこれから一緒のパーティだ、よろしくな、ラケル」
いつの間にかパーティ結成されちゃってるよ……って、どうして名前知ってるの!?
誰か助けて……と周りを見渡しても誰もいない。
そうでした、あのダンジョンは素人でも攻略できるとの噂で、だから攻略できてもほとんど旨みはなく……そんなダンジョンに人が集まるわけもない。当然のように、周辺一帯には人っけが全くない。
誰の助けも期待できない、逃げ場はどこにもない、目を付けられた、なぜか個人情報まで握られてしまっている……詰んだ……。
「さあ、わしを着るがよい!」
いや、どう考えても呪われるよね、これ?
「どうした、早くしろ」
ラケルはやけになって叫んだ。
「わかった、わかったから!」
……でもパーティを組むとは言ってない。
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