惑う、魔導士

玄霧 幻霞

第1話 出会いは唐突だった

「よう、兄ちゃん。わしとパーティを組まんか?」


 いきなり話しかけられたラケルはあわてて目の前のを閉じた。




 おかしいと思ったんだよなぁ……普通、宝箱はダンジョンにあるもの、それが常識だ。ただ、中に何かが入っていることは少ない。仮に宝物が入っていたとしても、他の冒険者が先に手に入れてしまう。何かが入っている宝箱なんて、まだ誰も踏み込んでいない最奥にある宝箱までたどり着くか、誰にも手を付けられずに残っていた宝箱に運良く巡り合ったか、誰も手を出そうとしなかった宝箱に運悪く出会ってしまったか、ぐらいのものである。


 そもそもダンジョンの宝箱を空けてしまったのがいけなかったのかもしれない。


「ダンジョンの中ですらないものなぁ……」


 あまりに堂々と置かれてあったので誰の目にも入らなかったのか、もしくはあからさま過ぎて敬遠されたのか。とはいえ、強くなれる可能性があるのなら、ラケルにはそれを無視する選択肢はなかった。




 ラケルには、まだ一人でダンジョンの奥に入れるほどの実力はない。弱すぎるのだ。幼馴染で結成したパーティメンバーには入れてもらってはいたが、盾役はまずラケルを守り、戦士役はラケルに近づく敵から倒し、魔術士はそれでも衰弱するラケルの回復が最優先事項となっていた。


「うん、僕がいない方がみんな戦いに専念できるし、追放されない方が不思議だよね」


 それでもみんなパーティに残るように言ってくれた……とてつもない人格者集団である。でも、誰から見てもラケルがお荷物であることは明白で、だからみんなには『一時的に』ということでパーティを抜けることをようやく許してもらったのだ。


「まずは、一人でスライムぐらいは倒せるようになりたいなぁ」


 ……ただ、冒険者パーティにいたことでさえ不思議なレベルではあったりする。




「おーい、わしを無視するなぁ!」


 宝箱の中から声がする。しかたなく、ラケルはおそるおそる宝箱を開いて『それ』と対面する。


「まったく、最近の若いもんは礼儀を知らん。で、わしとパーティを組まんか、と聞いておるのだが?」


 そこにあった(いた?)のは、一つの(一人の?)鎧だった。

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