第5話奇跡

「そうか...。

大した無理をしたな。」


暁先生は、病院で乾いた笑みをこぼす。


でも、それも私には意図的なことだって分かる。


「退院してから保護するまでに、わざわざ一度家に帰るって言うから、どうしたのかと心配したけど...。」


「私は大丈夫です。

先生こそ、大丈夫なんですか?」


「なにが...?」


「私が退院した日、具合が悪いって休んだじゃないですか。」


「ああ...、そうだったな。

すまなかった。」


「いえ。

でも、よく体調悪くなるときがあるみたいだから、心配です。」


先生は少し驚いたようだった。


「俺の心配なんて...いや、ありがとう。

まあ、大したことじゃないけど、持病があるから。」


「え...大丈夫ですか?」


「うん。普通、持病ある医療従事者なんて受け入れてくれない場所も多いけど。病院の方も、認知してくれてるみたいで、迷惑かけながらも一応仕事はしてるよ。」


「そうですか...。」





数時間前...。


「305号室の患者さん、奇跡的に回復したそうよ。」


「本当?

なんだか、こういうこと、多いわよね。

前の癌の患者さんも、一時は危篤状態まで悪化したのに、脳の腫瘍が消えて、簡単な治療で済んじゃったんだものね。」


「変だと思わない?」


「そりゃあ、変だとは思うけど。」


「それもこれも...暁先生が来てから...じゃない?」


「...確かに。

というか、回復した患者がほぼ全部暁先生担当じゃなかった?」


「ええ...。そうじゃないとしても、回復した期間が全部暁先生の夜勤勤務前後よ...。」


「そういえばどれもこれもおかしいわ。

まだあんなに若いのに、大変な仕事任されてるし。持病とかあって、病院にとっては面倒な人のはずなのに、優遇されてる感じだし。」


「それと...。回復した直後、暁先生急に休まない?」


「ああ、確かにそれもあるわね...。

でも、だからって、暁先生と...具体的にどんな関係があるのかしら。あの人は魔法が使えるってわけじゃないでしょ?」


「分かんないわよ。

もしかしたらそういう可能性もあるわよ。」


「まさか。」


「そういえば、201号室にいた真壁さんも先生担当だったわよね。」


「ああ、あの女の子?

今日また、顔見せにくるらしいわよ。」


「家庭内とか、色々複雑らしいからね。

心配ではあるけど。」


「私たちは先生のいうことに従うだけよ。

そろそろ仕事戻りましょう。」


「ええ。」





手続きなどが終わるまでしばらく暇を持て余していた。


仕方がないので、病院の外の散歩を始めた。


そこで。


「...。」


幸せそうに微笑む知らない家族の姿がある。


小学生になるぐらいの女の子が、父親の手を引いて歩いている。


その様子を母親が微笑ましそうに見つめる。


「ねえ、パパ、

もうすぐ退院できるんでしょ?」


「うん、さくら、今までありがとう。」


「えへへ、病気治ってほんとうによかった!

一緒にまた自転車でサイクリングしにいこうね。」


「うん、約束。」


...。


「神様って本当にいるのね。」


母親がふと呟く。


「ああ。

あの日、夢の中で男の子に会ったんだ。」


「男の子...?」


「ちょうどさくらと同じぐらいの男の子でさ。手を引いて、ここまで連れて来てくれたんだ。」


「その男の子が、かみさまかなー。」


「どうだろうね。

パパはそう思ってるよ。」


男の子...。


私が見た男の子と...、



「先生と、同じ...?」


何人かの人にきいてみると、やはり、男の子を見たという目撃情報があった。


患者だけではなく、看護師の中にも見たという人がいるらしい。


一体...あの男の子は何者なんだろうか。


そして、


数々の奇跡と、暁先生との関係は...?

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