第四章 メンヘラ、最強の個人勢とコラボする

第17話 ショタ系Vの中の人は、ゴスロリ美魔女

「はじめまして。壬生みぶ ペーターゼンこと、跡部アトベ 詩乃シノですぅ。シノとお呼びくださいませぇ」


 ゴスロリ少女が、うちに頭を下げる。


「こ、ここ、こんにちは。おもむろ アンです。本名は、愛宕アタゴ リアンです!」


「リアンさんですね。よろしくぅ。じゃあ、スタジオに参りましょうかぁ」


 ゴスロリ少女に促され、車に乗り込む。


「ぐほおお。これは!」


 ダッジチャレンジャーだ。しかも、白いタイプの。


「これは……『バニシング・ポイント』の方ですね?」


「はいぃ。あの映画、大好きなんですよぉ」


 なんと、運転手さんがいる。


「ご自身で運転なさらないんですね?」


「『事故ったら仕事できなくなるから、自分では運転しない』と、人気俳優さんがおっしゃっていて。マネをしてみたんですよねぇ」 


 むつみちゃんが車を使ってもいいといったが、シノさんは「社長にケガをさせるわけにはいかない」と断ったそう。


「じゃあ、乗ってくださいねぇ」


 むつみちゃんが助手席に乗って、ウチとシノさんは後部座席に。


「あの、失礼なことをうかがうんですけど」


「なんでしょうぅ?」


「ホンマに、女の子やったんですね……」


 壬生ペーターゼンは、「男の娘」で通しているキャラだ。

 服装は女子なのに、声がショタなので、聞いている方は脳がバグる。


 ショタ絵描きのイラストレーターを、ママに持つ。

 巨乳キャラの「タコ・カイナ」と同じママであるが、こちらが本職だ。


 壬生ペーターゼンの中の人は、性別不詳と呼ばれていて、「おじさん説」もささやかれていた。車の趣味がおじさん全開で、とても女子が乗るような車をチョイスしない。


「ウフフ。よく言われてますぅ。いつもは『ボクは【アズきんぐ】なのだ!』とか、しゃべっていますからね」


「生アズきんぐ!」


 シノさんはそのショタボイスがウケて、トークソフトのショタ声まで担当するほど。


「す、すいません無礼な話をして!」


「この車は私というより、父の趣味ですね。父が車好きで、私もその遺伝子を引き継いだといいますか」


 コレクションは父親から譲ってもらったものは一つもなく、自分で買ったものだという。

 

「女の、子、ではないですかね?」と、シノさんは付け加える。

 

「ちなみに、おいくつなんですか?」


「今年で、四〇ですぅ」


 び、美魔女だ……。美魔女が、ここにいる。

 ウチより干支一周分、歳を重ねているなんて。

 妖精みたいな見た目なのに。

 エルフって多分、シノさんみたいな存在をいうんだろう。


「服も、オーダーメイドなんですよ」


「買ったんや、ないんですね?」


「はい。私くらいになると、可愛い服があっても寸法が合わないというのが多くてぇ」


 かといって小さすぎると、子ども用になってしまうという。


「さすがにキッズサイズのお洋服は、化粧をしている女にはドギツ過ぎましてぇ」


「いいと思います。本当のお金持ちは、スーツも仕立ててもらうそうですから」


 ガチのリッチはブランド品を買わず、一から作ってもらうらしい。


「ありがとうございますぅ。むつみさん。あ、到着いたしましたわぁ」


 なんか、洋館のようなお屋敷が見えてきた。

 

 車庫が、広い。

 勝手に開くガレージを持ってる家なんて、初めて見た。

 お金持ちの家っていえば、やっぱり自動開閉型ガレージって感じ。


 駐車場に入っていたもう一台の車を見て、ウチは思わず唸った。


「うおお。トヨタ2000GTやん」


 こちらの車も、白い。

 

「よくご存知で」


「いえ、レースゲーで使っていまして」


「ウフフ。これ、乗りやすいですよねぇ」


 こちらでは、ウチらを乗せられないね。二人乗りのクーペだから。


「もう一台、あるんですよね」


 その車が、帰ってきた。

 漆黒のトランザム・ファイアバードが。


 乗っていた人を見て、また驚き。


「あっ、しらすママやん!」


 なんと、しらすママが運転をしていた。


「ママもコラボ?」

 

「当たり前じゃん! 愛しのぺーちゃんと来たら、来るしかないでしょ!」


 というか、ウチとシノさんとのコラボを手配してくれたのが、しらすママだったという。


 しらすママは壬生ペーターゼンガチ恋勢であり、グッズも大量に持っている。


「運転、大丈夫やったん?」


 シノさんは、むつみちゃんにすら運転させないほど、慎重な性格だ。

 そんなシノさんが、手を仕事道具にしているしらすママにだけ、ハンドルを握らせるなんて。


「私有地を、一周させてもらっただけよ」


「ちょっと待って。私有地って?」


「裏山全部」


 しらすママが、ベランダから向こうへと案内してくれた。

 すぐ裏手が、小さな山になっている。

 テントも、張ってあった。


「クマとかシカとかの野生動物とかは、さすがにいないですねぇ。リスとかはいるかもですが。せいぜい鳥ばかりでしょうね」

 

 まさか、この庭すべてが、シノさんの所有物だってこと?


「山でキャンプもできますよー」


 道路には、アスファルトも張ってある。

 すぐ下にはフェンスと、『私有地につき、立入禁止』の看板も。

 ガレージから裏に回ると、すぐに車で山登りができるようになっている。

 

「車を動かしたくても、私は運転が苦手でして。広いお庭を設けてそこで走っていれば、ノロノロ運転でも他のドライバーを邪魔しないかなと」


 シノさんはおっとりした性格なので、二〇キロで走っても特に気にしないらしい。


 スポーツカーはぶっ飛ばしてナンボだ、と思うのだが。


「私は、車を眺めているのが好きでして。運転は、得意ではありませんでしたぁ」


 シノさんが、苦笑いをする。

 VTuberのときは、ワイルドなゴスロリ少年ってイメージで売っているのに。


「ささ、中へどうぞー」


 家の中に入って、さらにびっくりさせられた。

 メイドさんがいるのだ。

 

 さらに、老執事も。

 スーツを着ているとはいえ、「ピリッ、シャキッ」とはしていない。本人は気さくな好々爺である。

 執事って、こんなんだっけ? コスプレか?


「ああ。こちらは、ヘルパーさんなんですよぉ。リタイアしたけど張り合いがないとおっしゃっていまして、私が雇いましたぁ」


 普段は年金で暮らす、おじいさんなんだとか。

 ちなみに、おばあさんは厨房を担当しているらしい。


「おじいさんは、ハウスキーパーの資格を持っていますぅ。おばあさんは元調理師で、定年まで大学の学食でずっと働いていらしたそうなんですよぉ」

 

 他のメイドさんも、おばちゃんばかりだ。若い人もいるが、それでもウチとそんなに歳が変わらない。


「みんな、ワーキングプアの方々でして。守秘義務さえ守ってくださるならと、この家の管理をお願いしていますぅ」


 ハウスキーパーである老執事から教わって、掃除を担当しているという。

 会社経営に興味がある人もいるらしく、セミナーも兼ねているのだとか。


 前の事務所にいたスタッフも、シノさんについてきた。


「円満退社ではあったんですけど、やはり私が抜けるなら自分も、ってスタッフが多かったんです」


 それだけ、シノさんには人望があったわけだ。

 

 専門的な業務は、スタッフに任せているらしい。


「もう、家というより事務所や」


「本当ですね」


 これが、本物の金持ちの姿か。


「ジェットバスや!」


 浴室を見せてもらうと、寝そべることができるタイプのお風呂が。


 しかし、露天風呂などはなかった。

 

「ここは終の棲家にしよう、と思いまして。医療面なども考慮して、そういう設備は排除しています」


 サウナや大きな温泉に行きたくなったら、近くのジムに行くという。


「こういうお仕事でしょぉ? 人と会わなくなってしまうのですよぉ。だから人をたくさん雇って、ジムも積極的に利用するんですよぉ」

 

 そこはやはり、VTuberか。


「では、お仕事場に参りましょー」

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