第7話 ほしいも開封
むつみちゃんに手伝ってもらい、フリマに出品する洋服を撮影し、大事に箱詰めした。
あとは、注文が来るのを待つだけ。
夜の配信をスタートさせて、ほしいものリストで得た商品を開封していく。
「はいどーもー。
最初に取り出したのは、コスプレ衣装だ。
「おお、案外本格的やない? これ」
取り出したのは、ミニスカポリスである。スカートの中が見えないように、黒のインナーつき。
「さっそく着替えてきましょう」
ポリスに着替えて、再び画面にインする。
「どうこれ? 胸がないんで、ちょっと胸元が開いてもあんまりうれしくなさそうやけど?」
リスナーからは、「そんなことない」と意見をもらう。
「まあまあ。むっちり系は、カイナに任せよう。あの子はムッチムチやからね。こういう衣装は映えるでしょ」
本当にアラサーかというくらい、カイナはとんでもないワガママボディの持ち主である。
「お次は、フード類。いってみようか」
最初のフードは、ツナ缶。
「ツナ缶はね。どれだけあっても特に困らんからね。ありがとー」
次に取り出したのは、レトルト類である。
「海軍カレー。これ食べてみたかったんよ。ありがとー」
また、機内食で出される「高高度でもおいしく食べられるカップ麺」が出てきた。
「最初見つけたとき、『こんなんあるんやー』って、思ったわ。これ、お中元とかで送ったら、友だちとかが面白がってくれるかも。ありがとー」
本当はリストに、Tボーンステーキなども入れていたのである。
しかし、いつ生モノを食べられるかわからず、リストからは外した。
続いて、お酒コーナー。
ハイボール缶が大量に届いたのはもちろん、ビン類も届いている。
ただこれは、ほしいもからのリクエストではなかった。
アニメのキャラクターがラベルに描かれた、コラボ商品である。
「送り主さんから、メッセージが来てますね。『アンさんは梅酒がお好きと聞いたので、アニメコラボ梅酒をお送りいたします。ボクも同じものを買いましたよー』やって。ありがとー。もうスパチャはええから。満足やから!」
同じ人から、さらにスパチャを二〇〇〇円ほどもらってしまう。
「次は、お菓子やね。おお、トルティーヤ! 補充できました。ホンマにね。トルティーヤは好きなんですよ。で、なんで好きかというと、じゃん!」
ウチは、映画のDVDを画面に見せる。
「これこれ。この映画でね。好きになったんですよ」
友だちからススメられた、サスペンス映画だ。
「登場人物のおっさんがナチョスを食ってる場面がね、ええのよ。手をベタベタにして食べるから、めっちゃ汚らしいねん。やけど、なんかうまそうに食べるんよ。食ってるのん、殺人鬼やのにね。このシーンの直後に、女の人を、殺人専用に改造した車の助手席に乗せて殺すのよ」
とにかく、美人が殺される映画が見たいほど、精神的に参っていたときに見たので、印象に残っているのだ。
「おすすめなんでね、みんなも見てちょうだい。そんで、DVDといえば、こちら!」
ほしいもに載せていたDVDを、紹介する。
「次に紹介する映画は、邦画です! この作品は、実話をベースにしていて、テレビで報道された事件を再現した、映画なんよ。主人公も、ジャーナリストで」
やばすぎて、どこにも配信されていない。DVD買うしかなかった。
「え、うそ! 配信始まった!? ウソやん……ホンマや! 見れるやん!」
映画配給会社のチャンネルで、まさかの配信スタートしていた。
しかも、三〇〇円前後で見られる。一四日間、無料体験つき。
「でも、公開時間的に、これは完全版じゃないかもね。DVDでええか。そのうち、配信版も見ましょう」
おおお。ヤバイ買い物をリスナーにさせてしまった。
情報不足なり。
「あとは、これ重いな。あっマンガか! マンガの全巻セット! 電子書籍もええんやけど、現物で欲しいヤツもあるのよ」
部屋に彩りが欲しかったので、こちらは本棚にしまうことにする。
「このマンガと同じ制服を、送ってもらいました! 着替えてくるわ」
ウチはフレームアウトして、着替えを始める。
夜におうちで制服とか、ちょっと背徳的だ。
アラサーだがな! それもまた、いいか。
「こっちは、サプリセットやね。目を酷使するので、ブルーベリー系はどんだけあっても困らんね」
アプリは他に、貝類の成分を含んだ「二日酔い防止」の効果が期待できるものを。
「服とか靴とかバッグとかはないんか? って意見が飛んでるなあ。あんなあ、まだ怖いわ」
以前、通販でピンヒールを買ったことがあった。
サイズは合っていたのだが、履き続けると小指が痛くなってきたのである。
それ以降、洋服やヒール類は、店で直接買うことにした。
足にフィットする靴を注文できるアプリもあるらしいが、まだ信用ができない。
「ゲームはね。まだ詰まってる。攻略しきれてない分があるから、それを実況するよって。次のセールのときに、一緒に見ようか?」
リスナーから、歓喜の声が上がる。
五月頃にセールがあるらしいから、そのときにリスナーを巻き込んで買うことにした。
あとは、消耗していたコスメ類が数点ほど。
他には、気まぐれで買ったキャンプ用品だ。
「キャンプ行くかなぁ? 行こうか。ちょっと気分を変えたいときに、外でカップラーメンでもええかな」
あまり凝ったキャンプなどはできないが、焚き火くらいなら。
ウチが買ったのは寝袋とテントは、夏用だ。
多少暑くなってきたときにでも、やればいい。
砂浜キャンプして、水着で配信もあり、か? 一瞬見せるだけなら、Youtubeの肌色検閲にも引っかからないだろう。
もらったキグルミパジャマに着替えて、クッション類を紹介する。
「みんなありがとー。フリマ始めたから、部屋も片付くと思うから、みんなからもらった品物は大事にしまえるよー。ホンマにありがとー。おやすみー」
ウチが配信をしている間、むつみちゃんがナチョスを作ってくれた。
「おいしい! おおきに、むつみちゃん」
「いえいえ」
「かーっ。酒に合う!」
リスナーからもらった梅酒を、早速開けた。
無糖炭酸で割っても、甘みが出ている。
むつみちゃんは梅酒もダメのようで、無糖の炭酸だけで飲んだ。
他の晩ゴハンは、タコスである。
「ほんでさ、むつみちゃん。ほしいもの公開って、意味があるん?」
「おおいにありますよ。買い物の傾向が、わかります」
ウチがなにを必要としていて、なにを不要と思っているかの把握ができるという。
「生肉を求めていなかったので、そこまで必要性を感じていないのかもですね」
「Tボーンステーキとかは、ホンマにほしいよ?」
「動画のネタで、ですよね?」
あれはおいしいのだが、意外と調理がしにくいらしい。
食べている動画があったが、焼けるまで相当な時間を必要としていた。
「ああいう変わり種は、お店で食べたほうが美味しいんかもな」
「ほしいも公開配信を、やった意味がありますね。判断力の強化に、つながったので」
お金を貯めるには、どこにお金の比重が向いているかを把握する必要がある。
自分の価値観がわかりやすく視認できる「ほしいも」は、その指標にちょうどいい。
「ところでむつみちゃん。いや、社長っ。ここから本格的に、投資をしていくんよね? なにから始めたらいいんかな?」
お茶をぐいっと飲んで、むつみちゃんが答える。
手に、ウチの通帳を持って。
「今は、勉強しかしません。ひとまず、生活防衛資金を貯めましょう」
「なんぼくらい?」
「一〇〇万ほど」
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