未来に触れて思うこと
「任務遂行おめでとう。 まずはこれを」
謁見の間に着いて一番に差し出されたのは、ピンクと白で作られた愛らしい花束だった。
さっきまで着ていたドレスだったらより似合ってただろうけど、今の私は萌黄色の制服姿。
とても花束の似合う装いではなかったけど。
「……花は好きじゃなかったかな?」
「いえ、初めてもらったので驚いただけです! こんな素敵な花束を頂けて嬉しいです!」
「キアノスから貰ったりしないのかい?」
「ありません。 そもそも頂くような間柄でもありませんので……」
「そうか……。 これは後で呼び出しだなぁ」
「……?」
「愚弟のことで不服な事があるなら遠慮なく言ってくれていいからね。 他にも何か気がかりがあるなら話を聞くよ?」
「……お心遣い感謝致します」
二人は本当に仲がいいんだな。
それが知れて笑顔でお礼を伝えたら、陛下は頷いてその美しい顔を綻ばせた。
「で、キアノスはちゃんと外で待ってるかい?」
「はい。 でも何故同伴が駄目なんですか?」
「圧がすごいから」
「圧……?」
陛下は苦笑いを浮かべた。
聞かれたら困るのか、はたまた違う理由があるのか。
元は兄弟だし、きっと二人にしか分からないやり取りがあるんだろう。
私は改めて陛下に勧められた革張りのソファに腰を下ろした。
「今回こんな悲しい事が起きてしまったのは
「陛下のせいではありません! 陛下や閣下は……私がセロであっても、一人の人間として接して下さるのでそれで充分です」
「そうか……。 君にそう言ってもらえて嬉しいよ。 これで少しはルカス殿にも顔向けできるかな」
少し大袈裟では、と言いかけたけど、憂いを帯びた賢者の微笑みを前に、私は言葉を飲み込んだ。
「実はね、ルカス殿と約束をしていたんだ」
「約束……ですか?」
「彼が初めて稽古をつけてくれる事になった日に言われたんだ。 『剣を教えるからにはセロが笑って暮らせる時代を築くと約束しろ』ってね」
「そ、それはまた……」
「でも彼は本気だったよ。 セロを、弱者を救えない人間に国を背負う権利はないと、ハッキリ言われたんだ。 その時の言葉が今でも心に刺さっている。 今の私がいるのは、彼のお陰なんだ」
魔物の暴徒化事件の後、新国王とその護衛騎士が献身的に国の復興支援に努めた結果、シヴェルナ政権は多くの民から支持を獲得する事に成功した。
その後セロを含む弱者を取り巻く劣悪な環境を徐々に改善、加えて法改正を行う為に国民の意識改革も並行して進めている。
それについてはまだ批判的な意見も多いみたいだけど、徐々に賛同者も増えつつあるらしい。
その結果、今は人身売買といった闇取引だけでなく、不当な雇用契約を行った際にも厳正な刑罰やペナルティが課せられるようになった。
勿論叔父にも、極刑が確定している。
国のトップに立つ二人を突き動かす原動力が、
この二人にとって、父の存在は本当に大きなものだったんだ。
「君の事は勿論、エメレンスも今後は保護管理対象にさせてもらう。 これに関しては異論は認めないからあしからず」
「……承知しました。 あの、それでエメレンス様の容態は……」
「まだ眠ったままだが命に別状はないよ。 ただ身体に埋め込まれていた魔晶石は、既に身体の一部になっていて摘出が不可能だった。 救えなくて残念だ」
「そうですか……」
この件で逮捕されたアンカスター家当主の話によると、どうやら叔父のザクセンからセロを買い取り彼らを使って魔晶石の可能性を探っていたらしい。
きっとエメレンス様はここで私達の話を聞いたんだろう。
魔術師の家系と名高いアンカスター家に生まれた子どもがセロだと分かった途端、家族はその存在を隠した。
けれど法改正の流れで研究が立ち行かなくなった時、エメレンス様が犠牲になってしまったのだ。
当主は念願だった人体改造が成功した事で、ようやくエメレンス様を表舞台へと出したのだ。
出世の為に自分の子まで実験台にしたアンカスター家にも今後、厳しい処分が下されるという。
「彼さえよければこのまま別組織に移って働いてもらおうと思ってる。 まぁ何処へ配属される事になっても、出来る限り手を尽くすつもりだから心配しないで」
そう話す陛下の笑顔には不思議な力があるみたいで、私は大きく頷いた。
陛下ならきっとエメレンス様を良い方向へ導いてくれる筈だ。
「さて、ここから先はアルバート家の爵位についての話だ」
先程までとは違う陛下の声色に、思わず私は息を呑んだ。
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