暴かれてしまった想い

 ここの所調子が良かったのに、エメレンス様に告白されてからずっと気分が優れない。

 

 あの時の事、何故エメレンス様は知ってたんだろう。

 もしかして私を助けに来た時にいた兵士から話を聞いたとか。


 でもあの時にいたのは皆黒の制服だった。

 だから閣下の不利になるような事を軽々しく話すような人はきっといない。

 じゃあどうやって……?


 答えが見つからないから同時に不安も掻き立てられて、なかなか眠ることが出来なかった。


 そしてとうとう迎えた武闘祭前日。

 前夜祭は見習い含め騎士は全員休暇になるらしい。

 皆実家に戻り、一市民として前夜祭に参加するのだ。

 日頃町の安全に尽力する騎士達を労う意味もあるんだろう。


 勿論私もその一人だけど、私は自室のベッドの上で過ごしていた。

 フェリス様からのお誘いもあったけど、どうしても町を出歩く気分にはなれず、今回は断ってしまった。

 そういえばアルフレッド様が閣下と一緒に過ごせって言ってたな。

 でも結局あれから会うこともなく、事付けを頼む気にもなれずに今日を迎えた。

    

 閣下は今頃美女に囲まれて労われてるのかな。

 端麗な容姿の騎士団長様だ。

 周りが放って置くはずがない。

 そんな場面を想像すると、また胸がギュッと苦しくなった。

 

 ぐぅ。


 ……さすがに夜まで何も食べないでいると、お腹も限界にきてる。

 幾ら悩んでいても、コレは生きていく為だから仕方ない。

 私は重い身体を引きずって厨房へと向かった。



「あれ、明かりがついてる……」


 夕食の時間も過ぎてるから、厨房には誰もいない筈。

 不思議に思いつつ綺麗に片付けられた厨房に入ると、有るはずのない人影が見えて驚いた。


「閣下?!」


 声を上げそうになって慌てて口を塞いだ。

 何故か厨房の椅子に腰掛けたまま、無防備にうたた寝してる。

 周りを見回しても誰も居ないし、ユーリ様の姿も見えない。

 そもそも何で厨房で寝てるのかな。


 するとテーブルに金色に輝く飲み物が置いてあった。

 グラスの中でシュワシュワと綺麗な泡がたってるということはエールかな。

 もしかして、一人で飲んでたとか?

 料理も食べずにアルコールだけだなんて、かなりお疲れなんだろうな……。


 とりあえず私は小さく寝息を立てる閣下を起こさないよう、ゆっくりと近づいてみた。


 少し開いた薄い唇も、伏せられた長い睫毛も妙に色っぽく見える。

 何だろ、胸がドキドキしてきた。


 そう言えば、美女に囲まれて接待を受ける話は大丈夫なのかな。

 こんな時間になってるんだもの。 

 幾らなんでも今からじゃ……。


 でももしも屋敷に来ることになって、その方をユーリ様が迎えに行ってて、それを待つ間に少しほろ酔いになっておこうとでも思ってるとか。


 あれやこれやとぐるぐる妄想が駆け巡る。

 

「ん……」


 閣下が少し身動いだ声を聞いて、心臓がドクン、と一際大きく脈打った。

 そうだ、今、閣下と二人きりなんだ。

 途端に色んな感情が溢れてくる。

 でもそれは、全て目の前にいる人に繋がっていて、ようやく知ることができた。


 私、閣下の事が好きになってる。

 

 触れたい。

 縋りたい。

 名前を呼んで欲しい。

 他の女性の所なんか行ってほしくない。

 

 弱りきった心が色んな欲を孕み、衝動になって私を突き動かす。

 

 今だけどうか、起きませんように。


 私は恐る恐る閣下に顔を寄せ、頬にそっと口づけを落とした。


  


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