第41話 それも車?

 「そういえば、柏木さんの初デートはどうだったんですか?」

柏木さんはゲームに負けてないけど、どうせそんなことはもう忘れてるだろうから、聞いてみよう。


「わたし?わたしね、こだわる派だったんで、ちょっと遅いんだよね。ファミレスでご飯食べようとか、渋谷行こうみたいなのはデートの安売りみたいでイヤだったのよね。ドラマに出てくる洒落たデートみたいなのを夢見てたんだよね。だから実現しなくって。」

「どんな感じが良かったんですか?」

と、橋田さん。


「小さめの洒落た2ドアのイタリアとかフランスの車で迎えに来てくれて、鎌倉、湘南辺りの海沿いを軽く流して、ランチはヨットハーバーのクラブハウスでロコモコプレート。横須賀辺りでちょっと買い物して、夜は麻布十番の裏道にひっそりとある小さなフレンチでシェフのお任せコース、みたいな?」


「ちょっと、それ、私の父親世代のバブルとかって頃のデートコースじゃない?そんなデート誘ってくる人って居たの?」

飛鳥馬さん、まだ鮭皮チップス咥えてるよ。


「居なかったからデートデビューが遅れたのよねー。ってか、未だに一度もこんなデート誘われてないわ。女子の夢よねー、ねぇ橋田さん。」

「え、私そのデートコースはちょっと凄すぎて、逆に怖いです。私はネズミーランドとか行きたいかな、東京行くだけでも嬉しいし。」

「えー、怖いかなー。わたしみたいな恋する乙女は、昔のトレンディードラマみたいなキラキラ、フワフワした恋愛がしてみたいのよね。私をスケートに連れてってとか、京都ラブストーリーとか、ジムタクが主演してたドラマシリーズみたいな?」

「あー、なるほど、あんな感じですか。あれ、ドラマの中にしても設定として無理があるんじゃないかって思ってたんですけど、実はバブル当時は本当にそうだったんだって聞いてびっくりしましたよ。私の場合、同じ時代に居たとしても北海道なんで、あそこまで凄くは無かったんでしょうけど。確かに、あれが現実なら体験してみたいですよね。大学生とか、新卒新入社員のくせに外車とかスポーツカーで彼女迎えに来る、みたいな、ね。」


橋田さんが、柏木さんとキャッキャしながら話してる。やっぱり女子会ノリなんだね。でも、やっぱり女子ってどんな車で迎えに来るとか気にしてるのかな?

「外車とかスポーツカーとかって、やっぱりどんな車で来るかとはは気になるものなんですか?」


「うーんそりゃやっぱり気になるよね。その人の雰囲気とか考え方とはも解るし、周りの目もあるしね。」

「そうですね、別に車種の問題じゃないんですよ。車って人柄が現れますよね。実直で素朴な温かい人柄の人が、駅まで送って行くよ、っていって、軽トラの助手席に乗せて貰ったら、それはそれで嬉しいですよね。でも、おしゃれに気を使って、女子をエスコートするよ、みたいな人が軽トラ乗ってきたら、それはちょっと、ですよね。逆に、実直で温かい人が派手な外車乗ってきたら、この人大丈夫だろうかって思いますよ。」

柏木さんも橋田さんも同じような意見なんだな。


「なるほど。。人柄か、わかるような気もしますね。とこで、オレ、初めて芦田さんとランチの時、黒塗りセダンと高機動車で行ったんですけど、それはどんな人柄に見えるんですかね?」


「はぁぁぁっ? 高機動車!?」

橋田さんが素っ頓狂な声をあげた。

「ちょっと、なんですか、その話?」


まぁ、無理もない、というか、自衛隊員だからこそわかる高機動車に対する反応ってところだろうか?


「あはは、いきなりこの話は驚くよね。実はね、私達は警備上の都合で、基本的に研究所の中で生活していて、だから今回も基地から出る予定が無いんだけど、一応外出は申請ベースで出来るんだよね。ただし、外出時にもしっかりと警備がつくんで、外出先の状況によって警備のレベルが変わるんだけど、高機動車は最低限の警備体制だね。」

飛鳥馬さんが補足説明してくれた。


「オレ、外出するの初めてだったから、それ知らなかったんですよ。だから、友達をランチに誘ったんですよ。で、当日レストランの前に友達が待っててくれたんですけど、オレは黒塗りセダンからSPに囲まれて降りて、その後ろには高機動車が居るんで、友達は驚いてましたよ。オレは、めちゃめちゃ恥ずかしかったですし。」


「いやいやいや、高機動車が来たら誰でもびっくりしますよ、それも街中で。」


「オレだってびっくりですよ。だって、出かけようと研究所の通用口に行ったら、高機動車が止まってたんですよ。」


「リアル女子の初恋の相手と、人生初デートに高機動車で乗り付けた男ってことだね。スケールでかい男だねぇ。やるねー、下田くん。」

柏木さんがオレの肩をバンバン叩いて大笑いしている。


3人は笑い転げてるけど、結局またオレがツマミになってるし・・。


「下田さん、初デートで高機動車って、面白すぎますよ。これはもう結婚式は10式戦車で行くしかないですよ。いやいや、基地司令にかけあってC2輸送機貸してもらって、式場に降下してもらいましょうか。F35の方が派手ですけど、F35じゃ会場に降りられないですもんね。」


橋田さん、めっちゃノリノリだけど、空自ネタですよ、それ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る