第40話 遂に生ビール
「ハイ、なっまーえー。なっまーえー。」
なんだか昨日と同じ流れだぞ。完全に柏木さんペースに持ってかれたな。
「ええとね、並木ゆりちゃん。クラスにね2人アイドル的な子が居てね、一人がゆりちゃん、もう一人が八巻りつこちゃんでりっちゃん。ゆりちゃんは姉御肌的な感じで背が高いスポーツやってます系でね、りっちゃんは妹キャラ的な感じ? で、クラス中が2つに分かれてさ、ゆりちゃん派とりっちゃん派。」
「うんうん、良い話だねー。それでそれで?」
柏木さんの好物なネタだね、これ。
「いや、なにも無いよ。中3だから受験あるでしょ。あ、受験終わって卒業した後、一緒に映画見に行こうって誘ったんだけど、断られたわけじゃなかったけど、何となく時間が経って、高校入学しちゃったら忙しくなって、そのまんまになっちゃったな。」
「うーん、最後はちょっといけてなかったけど、途中までは良い話だったかな、ね、橋田さん。」
「はい、クラスに2人のアイドル、真っ二つの男子。良いですよね。」
橋田さん、めっちゃ楽しそうだ。もしかして飲み会云々じゃなくて、単に女子会に参加したかったんじゃないのかな? ここの職場、女子少ないし、こんな子供っぽい話する人居なさそうだし。いずれにしても楽しそうなら良いか。
「はい、次は、2番目に負けた下田くんー。はい、スタート!」
「え?2番目に負けたって、それじゃ、柏木さん以外全員負けってことですか?」
「あったりまえー。はい、始める!」
「え、でもオレ、前話した通り、女子とつきあうどころか、2人きりで話をしたことも無かったんですよ。」
「そうか、初恋の相手も2次元だったもんね。あれ?ってことは、リアル女子への初恋の相手も、デートしたのも、つきあってるのも今の彼女ってこと? うわ、じゃ今が初恋中で、デートもしてつきあってるってこと? 少女漫画みたいだよ。ねー、橋田さん、凄くない?」
「ほんと、少女漫画のストーリーみたいですよね。そしてこのままゴールインするんですよね。へぇ、下田さんって、ピュアなんですね。」
「いや、だからつきあってないですって・・。」
「ほら、橋田さん、見て見て。下田くんのレザーのネックレス、これ彼女からのプレゼントだって。」
「うわぁ。初恋の相手からネックレス、結婚披露宴の紹介ビデオで流れるやつですよね。」
「ほら、またオレがターゲットになった、もう。次行ってくださいよ、次、もう。」
「おっけー。下田くん、今日はいい仕事したよ。良いよ、良い。じゃ、次、橋田さん!」
「えー、私もですか? えー。」
いや、えーって言ってるけど、楽しそうでノリノリだよね。
「私、生まれも育ちも、ここ北海道なんで、デートっていっても一緒に牧場歩いただけなんですよね。街に行くには電車乗らないといけないけど、駅までも車乗らないといけないんで、子供だけじゃどこへも行けないんですよ。」
「で?初めて男子と牧場歩いたのはいつ?それは誰?」
柏木さん、お目目キラキラ。
「それがその、牧場歩くだけだから逆にハードル高くなくて、だから、結構簡単にデート出来るっていうか、案外早くて、小学校3年生の時に4年生の先輩と一緒に牧場行ったかな。高梨雄介くんって先輩。」
「小3でデート、雄介先輩!ヒューヒュー。」
柏木さんがまた、小学校の修学旅行の夜モードに突入だ。
「その先輩って今何してるの?」
「いえ、知らないですね、地元なのに、噂も聞かないかな。小さい頃に憧れてた人って、大人になってから振り返ると、なんでだっけ?ってなりません?」
「なるなる。子供の時に好きなタイプってちょっと運動できたらカッコいいみたいなノリで、大人になってからはちょっとねー、って感じだよね。」
「そうかな。私は今でもゆりちゃん好きだよ。」
うわ!飛鳥馬さん、そこでぶっこんで来るか?
地酒のコップ酒片手に鮭皮チップス咥えたオッサンが言うセリフじゃないでしょ。
「えー、そんなもんなの? 男子ってロマンティストなんだよねー。」
「ねー。」
あれ?かえってもりあがっちゃってるぞ、この2人。
柏木さんが引き戸を開けた。
「すみませーん、生ビールくださーい。」
「あ、私も生ビール下さい!」
え?橋田さんがビール頼んだぞ?
「あれ、橋田さん、車じゃないんですか?」
「あ、ここはスタッフにお願いすると、運転代行しくれるんですよ。基地の中だけですけどね。」
店長さんがビールジョッキを持って入って来た。
「あれ?橋田さん飲むの?珍しいねぇ。」
「店長、帰り、運転だれかお願いできますか?」
「はいよ、よろこんで。安心してガンガン飲んじゃってね。」
「こんなに楽しい飲み会って初めてです。こんな時に飲んだら美味しいんじゃないかって思って、頼んじゃいました。」
「お酒なんてね、無理に飲むものじゃないし、我慢するものでもなくて、飲みたい人が飲みたいときに好き勝手に飲めばいいんだよね。飲んだから偉いわけでも、飲まないから偉いわけでもないしね。気楽に行こうよってことかな。」
「はいっ。」
橋田さんが、蘊蓄があるのかないのかわからないけど、雰囲気だけで良い話みたいにしちゃう飛鳥馬さんの話芸に騙されてしまっている。
今の話、中身は全くなんにも無かったよ・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます