第37話 仕事の後は
予定通りとはいかなかったが、一応、訓練の全工程が終わり、研修棟の外へ出ると橋田さんのジープが待っていた。
「お疲れ様でした。今、今日の訓練に参加してた知人から聞きましたが、今日は防戦要請があったそうですね。凄かったって言ってましたよ。」
「仕方が無いとはいえ、訓練の内容が少し変わってしまって、今日の午後の皆さんには申し訳ないと思ってます。」
飛鳥馬さんがジープの助手席に乗り込みながら答えた。
「あ、そうでした、これが良いニュースになるのか分かりませんが、今日の夜、隊員クラブの個室が予約出来ましたよ。」
「うわ、それは今日一番いいニュースですよ。橋田さん、ありがとうございます。」
飛鳥馬さんの目が輝いている。酒豪族への変身を終えたようだ。
「わたしも行きまーす。」
あ、もう一人の酒豪族も変身してしまった。
オレも、特にすることもないし、馬鹿話するのって楽しいんで行こうかな。
「オレも行きます。」
「私も参加していいですか?」
え?橋田さん?たしか、お酒あまり強くないって言ってたような。
「いいね、皆で行きますか!」
酒豪族隊長がボルテージアップしたぞ。
「では、夕食後、19時頃にお迎えに来ますね。では、のちほど。」
宿舎に到着すると、すぐに橋田さんのジープが去って行った。
オレは少し疲れているので、直ぐに宿舎浴場に向かって、湯船に浸かってグダーっとしてから、食堂へ向かうと、ちょうど食堂の入口で飛鳥馬さんに会い、一緒に食堂に入った。
「今日は肉の匂いがしますよ。これは牛肉料理ですよね。」
「これもまた食欲をそそる匂いだね。今日は何だろう。でも、後で隊員クラブ行くから、ご飯は軽めにしとかないといけないな。」
酒豪族隊長飛鳥馬、戦闘準備開始ですな。
オレと飛鳥馬さんが席にすわって少ししてから柏木さんが入って来た。
「お待たせ―。今日は外行くからスッピンって訳に行かないからね。隊員クラブ、誰に会うか分からないから、ちゃんと内巻きにセットしてきたよ。ほらほら。」
そう言いながら両手で髪を軽く持ち上げている。
食堂のスタッフが配ぜんカートを押してやってきた。
「お疲れ様でした。今日は和牛サイコロステーキ温野菜添え、コーンサラダ、パンプキンスープ、いつもの松前漬けとお新香。デザートはバニラアイスです。」
「うわ、これは美味そうですね。」
「だね、軽く食べようって思ってたけど、ダメそうだ。ガッツり食べちゃいそうだ。困ったぞ。」
「大丈夫ですよ、お酒は別腹ですから。」
結局3人ともペロッと食べてしまった。和牛サイコロステーキには誰もあらがえないってことだな。
流石に飛鳥馬さんはデザートのアイスはパスしたが、両刀遣いの柏木さんはアイスもしっかり食べていた。
「そろそろ時間だね。行きますか。」
飛鳥馬さん、今朝食堂を出た時とは別人のような俊敏な動きで玄関へ向かって行った。
「19時って、こんなに外暗いんだね。もうすっかり夜だよね。」
「あ、星見えるー。」
「やっぱり空綺麗ですね、東京と違って。」
3人で空を眺めているところでジープがやって来た。
「お待たせしました。行きましょうか。」
3人が乗り込むとジープが走り出した。
「隊員クラブ、通用門の近くなので、ここから歩いても15分位なんですけど、車ならすぐですから。」
「もう見えてきますよ、ほら、あそこ、妙に怪しい感じで電気が光ってるところ、あそこです。いかにも怪しい店みたいな外観になっちゃってて、電飾のセンス変ですよね。でも、店長さんも良い人でツマミもおいしいんですよ。」
店は、赤と青のクリスマスのライトみたいなピカピカする電球で飾られてる。間違いなく健全じゃない店か、入っちゃいけない店の門構えなんだけど、ここは基地内だし、橋田さんも一緒なので大丈夫なんだろう。いや、これ、初めて来たら絶対入らないよ、この店・・。
のれんをくぐってドアを開ける。
「いらっしゃーい、あ、橋田さん! こっち、奥の部屋ね。」
店内は既に昼間の司令部の食堂のような感じで、隊員達の熱気と喧騒で溢れていた。
オレ達は、喧騒エリアを抜けて、奥の個室に入った。
「すっごい盛り上がりですねー。渋谷あたりの大学生がコンパやってる居酒屋みたいなノリですよね。ただ、男性率が異常に高いっていうか、女性は数えるほどしかいなかったですよね。そして、皆体格が良い。マッチョ男性限定居酒屋みたいな?」
「基本的に基地内の宿舎に居る独身者が来る店なので、男女比的にこんな感じになっちゃうんですよね。基地外に住んでる人は外の店へも行けるので。」
柏木さんと橋田さんが話をしながら隣同士の席に座った。
オレは飛鳥馬さんの隣に座る。
「失礼しまーす。」
個室の引き戸が開いて、鉢巻き姿のスタッフが入ってきた。
「みなさん、お疲れ様です。本日はご来店ありがとうございます、店長の春日です。早速ですが、お飲み物は何しましょうか?」
「まずは生ビールでお願いします。」
「わたしも生ビール!」
酒豪族2人は即答。
「オレはウーロン茶ください。」
「私はいつもの、レモンサイダーお願いします。」
「生2、ウーロン1、レモンサイダー1、よろこんで! お通し代わりに本日のおすすめのツマミを少しづつ盛合わせにしてお持ちしますね、少々お待ちください。」
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