第36話 防戦要請

 午前中の研修が終わり、司令部庁舎へ移動して、食堂に入った。

今日も食堂は熱気でムンムンしているが、やはりエプロン姿の救いの神が降臨してくれた。


「お疲れ様です。どうぞ、こちらへ。昨日と同じ席になります。」


観葉植物の陰のこの席、落ち着くな。


スタッフが配ぜんカートを押して戻ってきた。


「お待たせしました。本日の昼食は、みそバターラーメン、炊き込みご飯、行者にんにく入り餃子、コールスローサラダです。デザートはフルーツゼリー。皆さんには追加で、バタークッキーです。」


相変わらず、ボリューム満点の食事だけど、やっぱりペロリと食べてしまう。これは、ジムでも行って絞っておかないと体系変わっちゃうんじゃないだろうか。


食後は昨日橋田さんが言ってた、司令部庁舎内にあるお土産屋を覗きに行くことにした。


「北海道名産じゃなくて、自衛隊グッズがメインなんですね。」

「ま、観光地ではないし、空自目当ての人向けの店だろうしね。」


柏木さんと飛鳥馬さんはたぶん、地酒が無いので興味半減って感じだ。

オレは北海道って書かれてる空自のコースターを買った。これは、芦田さんにお土産として、プリズンに戻ったら送るんだ。


午後の訓練が始まって約1時間くらいした時、急に訓練室の外から足音が響いてきて、ドアが乱暴にノックされて勢いよく開いた。


「電脳研究所独立小隊の皆さん、統合司令部からの緊急入電です! 山崎一尉、ここへ電脳競技研究所との直通回線を繋げてもらえますか?」


え、統合司令部から? 今、山崎センター長じゃなくって、山崎一尉って官職名で呼んだよね、これはマジ対応中の呼び方だよね。何があったんだ?


訓練室のモニターに電脳研究所独立小隊の作戦司令、水野2佐が映し出された。


「飛鳥馬3尉、防戦要請発令だ。ネット侵犯が発生して第二防衛線が突破された。それも同時多発的に3件、防衛線が突破されている。2件はBチームで対応中だが、3件目の対応が間に合わない。よって、Aチームへも防戦要請が発令された。」


「了解。独立小隊Aチーム、防戦対応参戦します。柏木3尉、下田3尉、対応開始!」


訓練室のモニターにエスエスコンバット9が映し出される。


3人とも、さっきまでのオーバーアクションのプレイでは無く、普段通りのガチ対応が始まった。ちょうど訓練中で訓練室に居る7班のメンバーは独立小隊の実践を見て声が出ないどころか、微動だにせず、直立不動になってモニターを見つめている。


飛鳥馬さんも、柏木さんも、北海道に来てから一度も見せたことのない、防戦要請参戦中の真剣な目をしていた。


だいたいいつもと同じタイミングの約15分後、モニター上の警報サインが消えると、エスエスコンバット9の画面も消えて、水野2佐が映し出された。


「C国は撤収した、お疲れ。」


3人とも、ヘッドセットを外して椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。


「急遽で済まなかったね。君たちの出張中はこっちでなんとかしようとしていたんだけど、流石に3件同時は厳しかったよ。ところで、飛鳥馬君たち、みんなちょっとふっくらしてないか?美味しいもの食べ過ぎなんじゃないか?」


「あ、水野指令、それハラスメントですからね!」

柏木さんが冗談っぽく突っ込んだ。


「え?あ、いや、良い意味だからね。ほら、それより、皆の帰りを待ってるよ、お土産話楽しみにしてるから、ね。」


水野作戦司令がモニターから消えた。というより、逃げた。

こんな感じの会話は毎度のお約束なので、オレも飛鳥馬さんも慣れっこだが、ギャラリーの訓練中の7班のメンバーはポカンとしてしまっているようだ。オレたちの場合、自衛官とは言っても、あくまでも建前で、中身は研究員だから、階級関係なく話してるけど、こっちの人たちは本職さんなんで、こんな雑な会話はしないんだろうな。


「実戦を目の前で見られるとは思ってませんでした。凄い迫力でしたね、まさしく我が国の最終防衛線です。諸君はこんな経験ができてラッキーだな。」

山崎センター長がギャラリーに向かって話した。


すると、直ぐにギャラリーから大きな拍手が起こった。


飛鳥馬さんが教壇にあがる。

「訓練の途中でバタバタしてしまいましたが、予定では、基礎訓練の重要さを説明sるために、私たちの基礎訓練の様子をお見せする予定でしたが、実戦を見て頂いたので、結果オーライだと思います。私たちも、こうなるためには毎日毎日基礎訓練をしているので、皆さんも頑張って基礎訓練を続けましょう。というところで、残り時間が40分少しあるのですが、ここからは、せっかく訓練を受けたのですから、なにか格好いいテクニックを紹介したいと思いますので、覚えて帰って友達や、ご家族、または彼女に自慢しちゃってください。」


さっきまでの防戦対応中の真剣な表情とプレイとはまったく別の、優しい、失礼を承知でいえば、ちょっと抜けたような表情で飛鳥馬さんに全員の視線が集中している。

またしても、人たらし飛鳥馬の奥義、隊員たちの心をガッツリ鷲掴みが発動したようだ。




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