第30話 ウワサバナシ
「飛鳥馬さーん、地酒もらっていいですかー?」
「おー、どうぞどうぞ。イイよこれ。びっくりする位イイよ。」
飛鳥馬さんが柏木さんのコップに一升瓶から地酒を注ぐ。
「さぁて、これは鮭トバだよねー。」
柏木さんが鮭トバを一口かじって、地酒に口をつけた。
「くうぅぅぅ。」
柏木さんの両手両足バタバタが始まった、
すっごい美味そうなリアクションだね。
実は、ビールも酒もちょっと飲んだことあるけど、苦いし臭いし美味くないと思ってたけど、やっぱり子供だから美味しさがわからなかったのかな、20歳になったら酒飲んでみよう。
お酒は二十歳になってから、だしね。
オレもハスカップソーダで鮭トバ行ってきます。
くふー。鮭美味い。鮭の旨味が濃縮されてギュってしてもう、口の中は鮭になってしまった感じって、自分で何言ってるかわからなくなるな。
飛鳥馬さんはスルメをちびりびちりと齧りながら、目を細めなて地酒を飲んでは、ほわぁ、というため息を吐いている。お酒をじっくりと楽しんでいるようだ。
一方の柏木さんは、地酒からまたビールに戻して、ポテチをバリバリ食べながらビールをグビグビ飲んではぷはーぷはー言ってる。
同じ酒豪族とは言え、飲み方は人それぞれなんだな。
一方のオレは、塗れせんべいにホタテ貝柱を合わせて口に入れると、米と醤油とホタテが混ざって、濃厚なホタテ丼見たいな味になるっていう新発見に胸を躍らせていた。そう、このくだらなき時間こそが人生を楽しむ秘訣だとアインシュタインが言ったとか言わなかったとか、ま、間違いなく言ってないだろうけど。
「そういえば、最近聞いた話なんだけど、島崎さんが施設管理課の池上さんとつきあってるっぽいの知ってます?」
じゃがポックルをガリガリ食べながら柏木さんがいたずらっ子の様な目で話はじめた。
「え?なにそれ、知らないよ。なになに?」
「そうなんですか?」
来たぞ、こういう下世話な話こそ、友達との宅飲みの定番じゃないか。なんの役にもたたないし、クスリにも害にもならない話、これも宅飲みに必要なエッセンスで、これで条件は全てクリアされたって感じだね。
「夜、食堂で、それもわざわざ夕食営業が終わった後の軽食時間になってから、一番奥の席で2人で居たっていう目撃情報が何度かあるのよー。」
「池上さんは確かプリズン社宅じゃなくて、普通に通勤組だよね。外で何でも食べられるのに、わざわざ食堂で夕食食べて帰るのは変だよね。しかも軽食時間帯? それは人目を避けてるってことだよね。」
「でしょでしょ。でね、これが決定的なのよ。島崎さん、最近シルバーのチョーカーつけてるでしょ、あれね、池上さんから誕生日にもらったらしいのよ。」
「え?それ、何処情報なの?」
「それはほら、わたしたち女子だから。ね。」
「あぁ、国際連合直属非公開組織 特務機関給湯室ネットワーク的なやつ?」
これをサラッと言えちゃう飛鳥馬さんって、普段は大人しいけど、クレバーでオタク入ってて、しかも楽しい人なんだよね。
「なにそれ、ま、MI6やモサドよりは情報量多いし早いかもね はははは。」
学校でも女子の噂話は凄かったけど、社会に出ても一緒っていうか、パワーアップするんだな。女子の情報力って怖いな。
「だって、チョーカーとか、ネックレスとか、首輪系贈るって、もう確定でしょ。」
「首輪系って確定なんですか?」
「首と心臓に近い重要な部分につけるアクセサリーだから、信頼できる、心を許した人からの物しかつけないって聞いたことあるけどな。」
「んー、飛鳥馬さん、やっぱり真面目だよね。そうも言われてるけど、わたしに言わせれば、そんなの屁理屈で、実際はマーキングかな。ほら例えば、ネコ。野良猫と飼い猫を見分けるのは首輪でしょ。首輪つけとけば、これはウチのネコってこと。ネコが外歩いてて首輪つけてたら、あぁ、野良じゃないなってわかるじゃない。 飼い猫に餌あげたり、家に連れて帰ったりしないでしょ。要するに、コイツには、既にこれを贈った彼氏彼女がいるんだから、手出すなよって印かな。婚約指輪つけたら、それはもうほぼ、手出しちゃダメの印でしょ?その一歩手前の前の売約済の札みたいな?」
「そういうもんなんだ。凄い例えだけど、わかる気がする。女子ってそういう見方をするんだね。」
「なんだか教科書に書かれてないルールがあるんですね。でも、自分でネックレス買う人も居ますよね?それはどうするんですか?」
「ふむふむ。下田くん、勉強熱心でよろしい。でも、それはね、見た目じゃわからないんだな。ではどうするか、答えは、聞いてみる、だね。それセンス良いね、ちょっと見せてって。自分で買ったなら、こだわりあるから説明がはじるよね。で、プレゼントだったら、彼ぴに誕生日に貰っちゃったぁ、とか彼ぴ自慢になるよね。男子の場合も一緒、自分で買ったなら説明が饒舌、もらったものならちょっと照れ気味に貰い物って言うんだよ。」
恋愛ノウハウに書かれてそうな、ちょっとクサイ会話な気がするけど、ホントにそんなものなのかな?
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