第31話 ピーターパン

 「ところで、そういえば、下田くんのレザーのネックレス、センス良いよね。ちょっと見せて。」


「え、あ、え? これはあの、人に貰ったんで・・。」


「ハイ、確定、と。ほらね、簡単でしょ。」


「え、違いますよ、これは、高校のクラスメートから貰ったんで、彼女とかじゃなくて、その・・」


途中から柏木さんが被せてきた。

「はいはいはい、思い出して。今知りたいことは、野良ネコ、つまり餌付けできるかどうかであって、既に首輪をつけさせた相手がいるかどうかってことなのよ。下田くんがどう思ってようと、相手は下田くんに首輪をつけて、周囲に、私の男よ、ちょっかい出さないで!って印がつけられてるってわけよ。わっかるかなー。」


「それって、オレはもう彼氏だって言えるってことなんですか?でもまだつきあってないというか、一回ランチ食べただけだし。」


「うーん、そこがちょっと違うのよね。そういう状態だとすると、今はキープくんってことね。」


「キープくんって何ですか?オレ、実は女子とつきあったことどころか、2人きりで話をしたのも彼女が初めてで・・」


「よしよし、わたしたちの可愛いルーキーくんのために、お姉さまが解説してしんぜよう。例えば、今度の土曜日にデートに行くとする。食事はどうするか、フレンチがいいか、イタリアンか。はたまた寿司屋がいいか。海が見えるレストランが良いか、夜景が綺麗な高層ビルの最上階のバーがいいか。そこで、準備として、あまり良いこととは言えないけど、とりあえず候補を全部予約しとく。で、良心のある人だと、キャンセル料が発生する直前に、実際に行く店を決めて、それ以外をキャンセルする。酷い人だと、ドタキャンとか予約ぶっちするとか、よく問題になってるやつだよね。で今、下田くんは、その予約されてる店のどれかってことだね。予約済の寿司屋のカウンターってことだね。」


「オレ、予約済の寿司屋のカウンターっすか。寿司屋なんか回転すしのアプリで来店予約しかしたことないですよ。確かに一人だったんでカウンターでしたけど。」


「下田くん、悲しいこと言わないの。でね、下衆な話しちゃうとさ、わたしら研究員ってさ、国家公務員で、自分で言っちゃうといやらしいけど、エリート中のエリートじゃない。待遇も申し分ないし。条件だけで言えば、結婚相手としては最高でしょ? まぁ実際には行動制限がどこまで影響するか、とか問題は残るけど。 で、わたしたちってプリズンに籠ってるから外部との接触がないでしょ。出会いのチャンスが無いってことよ。ほら、わたしの彼ぴが出来ない問題と一緒ね。キミたちは言わば超レアポケモンなのよ、プリズン以外で目撃されることって、ほぼないでしょ。」

柏木さんがオレと飛鳥馬さんを交互に見ながら熱弁する。


「まぁね、ほんといやらしい話だけど、私が婚活パーティーでたら、この属性だけで間違いなく上位に入るよね。だってさ、東中大院卒で研究職の国家公務員だもん、チートの度が過ぎるよね、うん。」


「そうそう、わたしたちは結局チートの産物なんだけどね。あはは。でも、まわりから見たら、超レアポケモンだからね。」


「なんかオレ、まだ大人の世界に入りたくないですよ・・もっとピュアに生きましょうよ。」


「よ、ピーターパン症候群の超レアポケモン!」

柏木さんがケラケラ笑ったったまま続けた。

「それでさ、彼女は、その超レアポケモンがプリズンに入る前のたった数日の間にゲットしたってことよ。そりゃ、彼女からしたら、速攻首輪かけときたいでしょ。」


「えー、芦田さんはそんな大人の世界の計算でオレに近づいたわけじゃないですよ。彼女は学校のアイドルだし、実家は不動産屋だから玉の輿狙いなんかしないですよ。」


「芦田さんって言うんだ。で、学校のアイドル?不動産屋? わたしに言わせれば、それもフルコンボで揃ってるけどねー。」


「えー、なんでですかー。」


「これ、同じ女性目線での一般論ね。アイドル的存在って、維持費かかるよー。で、裕福なお嬢さんも金遣い荒い、っていうかズレてるよ、ま、それが維持できてる家だから、本人の問題じゃなくて、それが常識なんだろうけどね。」


「そんなものなんですか? オレはただ、彼女と話してると、こう幸福感と言うか、温かくなるっていうか、そう、優しさに包まれるみたいな?」


「おー、ピーターパンレアポケ、フォーリンラブだねー。で、どんな感じの子なの?」


「そうですね、オレなんか眩しすぎて直視できないですよ。クラスの華、いや、学校の華ですね。」


「おー、高校生の恋愛、新鮮だよねー。」

「あおはるって感じが伝わってくるね。」

柏木さんと飛鳥馬さんが笑ってる。


「ちょっと、オレからかわれてませんか?ってか何でオレの話なんですか。これ、島崎さんの話ですよ。」


「本人目の前に居る方が面白いじゃん。」

柏木さんがゲラゲラ笑ってる。


あ、オレ完全にツマミにされてた。まったく、これだから大人は油断も隙もありゃしない。

「だーかーらー、島崎さんの話ですってー。もー。」


「まーまー、ピーターパンレアポケモン、スルメでも食べなされ、ほい。」

柏木さんがスルメを手渡して、3人でケラケラ笑ってる。


オレがネタになっちゃったけど、ほんとに、こんなしょうもない話で盛り上がれる友達、いや、仲間が出来たんだな。なんかマジで嬉しいな。宅飲みサイコー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る