第27話 氷下魚の干物
訓練が終わって研修棟の外へ出ると橋田さんのジープが待っていた。
「お疲れ様でした。宿舎へ戻る前に何かすることはありますか? 買い物とか?」
「そういえば、ここって、どんな店があるんですか?地酒買いたいんですよね。」
飛鳥馬さんは基準軸が酒から一切ぶれない。完璧すぎる。
「自衛隊生協が2軒とコンビニが1軒。あと、司令部庁舎にお土産屋がありますけど、これは外来者向けだし、もう閉まってますね。地酒だったら生協の方が品ぞろえが豊富ですよ。」
「じゃぁ、生協行きたいです。皆はそれで良い?」
「いいです。わたしはビール買います。」
「オレも行きます。」
居住区画手前に生協があった。
「うわぁ、結構広いんだ。プリズン地下の生協とは全然違うねー。」
「ホントですね。品揃え豊富で良いですね、ここ。」
柏木さんとオレはゆっくり店内を見ていたが、飛鳥馬さんは日本酒レーダーが反応したようで、足早にどこかへ一直線に向かって行ってしまった。
オレは北海道なので、ガラナ飲料と、ハスカップソーダ。ランチで食べて美味かったんで、とうきびクッキーを買い物カゴに入れた。後は地元の珍味っぽいものでも見てみるか、と珍味コーナーへ向かうと、そこには、ビール500ミリリットル缶6本パックをカゴに入れた柏木さんがいた。
「何か面白いものありましたか?」
「んー。悩んでるのよね。鮭トバが気になるんだけど、これだとビールじゃなく日本酒の方が合いそうだし。これなんかビールにピッタリなんだけど、オージービーフのビーフジャーキーじゃ北海道じゃないしね。」
なるほど、酒のツマミ選びっていうのも簡単じゃないんだな。
そこへ、大事そうに一升瓶を抱えた飛鳥馬さんがやってきた。
「うわ、なんだかよさげな雰囲気のラベルですね、その地酒。」
早速柏木さんが反応した。
「そうそう、地酒のジャケ買いみたいな? でも、ラベルって酒蔵のイメージを表すからさ、こういうのって重要だよ。見てよ、これ、ぱっと見ポップで軽いノリな感じだけど、実はしっかりと守るべきところは守ってる、超実力派俳優がコメディーを演じでるんで、深みが増して更に面白くなるみたいな?」
なんだかわかったようなわからないような説明だけど、満面の笑みっていうのは、こういう状態だって教科書に書いてありそうなくらいの満面の笑みを浮かべて力説する飛鳥馬さんを見てると、こっちまで楽しくなってくる。
「そしてね、こういう地酒はクセが強いっていうか、軽くないはずだから、肴もちょっとクセがある方が合うんだよね。そうね、あ、これいいじゃん。」
飛鳥馬さんは氷下魚の干物を手に取った。
「氷、下、魚?ってなんですか、それ?」
確かに魚であることはわかるが、なんの魚なんだろう?
「これはコマイって言うんだ。あまり東京では見かけないよね。あ!そうか、確かこれも北海道名産だ。ってことは、北海道の地酒とは同窓生、同郷の友、道人会仲間、いや、道産子連合会爆誕ってことだ、うん、いいじゃないか、キミに決めた。」
飛鳥馬さん、現在日本のトップゲームプレーヤーと言っても間違いないプロゲーマーにして、最終防衛ラインのリーサルウェポンなのに、酒を前にすると、何かが壊れてしまうようだ。
「わたしもコマイって初めて見たかも。飛鳥馬さんが絶賛するなら美味しいんだろうな。食べてみたいかも。そうだ、夕食の後、皆でツマミ持ち寄って、色々食べ比べしない? 私、鮭トバとポテチ買うけど、違うツマミも食べたいもん。」
「いいね。私はこの地酒に合いそうなものメインで、氷下魚と、干しホタテ貝柱、するめを買うよ。」
「オレ酒飲まないけど、参加していいですか?なんだかすごいうまそうだし。オレはさっき食べたとうきびクッキーと、じゃがポックリ、濡れせんべい買いますよ。」
「そうだね、食堂は飲酒だめだろうから、食後に私の部屋で集まろうか。」
前の世界線では友達が居なかったから、もちろん友達の家に遊びに行ったことなかったし、今はプリズンで皆同じビル内に住んでるけど、それでも誰かの部屋を訪ねたことはなかったな。
姉さん、事件です。夕食後、飛鳥馬さんの部屋に集合するんです。オレ、友達の部屋にツマミ持って遊びに行っちゃうんですよ。皆であんなことやこんなこと話しちゃったりするんですよ。門限破っちゃうかもしれないんですよ。あ、最初っから門の中だったか・・。
ジュースだけだけど、飲み会に参加するならってことで追加で夕張メロンソーダも買ってしまった。準備万端だよ。
ジープに乗り込んで、宿舎へ着いた。
「お疲れ様でした。明日も朝、お迎えに来ますね。」
橋田さんのジープが帰っていった。
「夕食は6時半からだよね。じゃ、またあとで食堂で。お疲れ様。」
「お疲れ様ー。」
「お疲れ様でした。」
よし、夕食までに風呂に入って、その後、芦田さんにメッセージ送るかな。昨日はBBQ大会でチャットできなかったからね。
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