第26話 午後のひと時
食堂はとても広かったが、それでも時間を惜しんでエネルギー補給のような食事をとる隊員達の熱気と喧騒で溢れかえっている。料理を受け取るカウンターは長い行列、それでもしっかり統制が取れているので綺麗にビシッと並んでいる。席もほぼ満席、食べ終わると直ぐに席を立って、そこに料理を取った人がちょうど座る、という計算されているかのような見事なローテーションで回っている。
無言のルールがあるようで、一見さんお断り、初見殺し、いや、ジロリアン以外が見た二郎みたいって感じ?
オレたち3人は、普段はプリズンのこじゃれたカフェみたいな食堂で、スマホ見たりしながらゆっくりランチを取っているので、この勢いに押されて入口でオロオロしてしまった。
そこへエプロン姿の救いの神が降臨した。
「独立小隊の皆さん、お疲れ様でした、こちらに席用意してますので、どうぞ。」
案内されたのは、皆のテーブルから少し離れた、観葉植物の陰に置かれたテーブルだった。オレ達は自衛官とはいえ、あくまでも便宜的なだけで、基本的に研究員であり、その実はゲーム三昧の引篭もりなので、こういう雰囲気には馴染みずらいので、こういう、隠れ家的な席はありがたい。
「皆さんは料理を受け取りに並ばずに、こちらでお待ちください。一緒に飲み物もお持ちしますが、お水、麦茶、牛乳、温かい緑茶、何が良いですか?」
「私は麦茶お願いします。」
「わたしも麦茶。」
「オレは温かい緑茶が良いです。」
スタッフが配ぜんカートを押して戻ってきた。
「お待たせしました。本日の昼食、地鶏唐揚げポン酢あえ、ニシンの甘露煮、トマトバジルサラダ、けんちん汁です。デザートはリンゴ。あと、皆さんには追加で、とうきびクッキーが付いてます。」
ジューシーでプリップリの唐揚げにポン酢がベストマッチ、甘辛くてツヤッツヤのニシンは骨までサクサク。相変わらず新鮮なサラダ、そして具沢山のけんちん汁。北海道の食事ってなんでこんなに美味いんだろう。普段のランチよりご飯の量がおおかったのだが、ペロッと食べてしまった。ここに住んでたら、秒でデブまっしぐらになる自信があるよ。
オレたちは、流れ作業のように食事を済ませて席を立っていく隊員たちとは対照的に、食後にお茶を飲みながらデザートのリンゴと、とうきびクッキーを食べていた。
徐々に食堂の喧騒が落ち着いて、ついには席にはだれも居なくなり、調理室からの音が響いている。
「誰も居なくなったね、あぁ1時か。もう食事時間おわったんだね。私たちの午後の訓練は2時からだから、食堂出てどっかで時間潰そうか。」
飛鳥馬さんの提案で、3人で司令部庁舎の周りを散策することにした。
「あ、ここの池、鯉だけじゃなくて、大きな亀がいる!」
動物大好き柏木さんは、生物も好きらしい。
陽射しの下で、心地よい風にあたりながら、優雅に泳ぐカメを見てるのも案外心が落ち着くもんだな。お台場プリズンでは出来ない体験だもんな。
柏木さん、今度は植込みの所で立ち止まった。
「あ! これハマナスだ。赤い花が咲くやつだよね。」
動物、生物大好き柏木さんは植物も好きらしい。
出張って、皆の普段見られない姿が見られるんで面白いな。
「植物詳しくないから知らないけど、確かハマナスって北海道で有名な花だよね。甘酸っぱい実がなるんじゃなかった?昔、おみやげでハマナス酒をもらったことがあるよ。甘い系だけど、案外飲みやすかったよ。」
飛鳥馬さんの基準はあくまでも酒らしい。
散策した後も訓練室へは戻らず、植込みの脇に置いてあるベンチで缶コーヒーを飲みながら雑談して過ごした。やっぱり、ずっとビルの中で生活してるので、屋外に居ることを本能的に欲しているのかもしれないな。
「昨日はBBQ大会だったけど、今夜は何もイベント無いですよね? 夜って、どうするんですか?」
「私は、部屋でゆっくり一杯やるつもりだよ。昨日みたいに皆でワイワイするのも好きだけど、一人でYatube見ながらしっぽり呑むのも大事なリラックスタイムだからね。」
「わたしもNetfrogでドラマ見ながらビールぐびぐみよ。仕事終わりはビール、これ以外の選択肢は認めません。」
「え、それじゃいつも通りじゃないですか。北海道来てるのに・・」
「じゃ下田くんは何するの?」
柏木さんが口を尖らせてる。
「オレはゲームして、友達とチャットして・・」
「なによー、下田くんだって、いつもと同じじゃない。」
「みんなプリズン癖がついちゃってるね。」
飛鳥馬さんが笑ってる。
「さて、もう一仕事しますか。」
午後の訓練開始の10分前に飛鳥馬さんがベンチから立ち上がったのに続いて、3人で訓練室へ戻った。
午後の訓練は、レーダー2班、整備1班、総務2班、補給1班、通信施設2班の5班、20名が参加した。訓練の内容も進め方も午前中の訓練とほとんど同じだったが、隊員たちのリアクションは午前中よりも大きかった。
特に、最後30分のおまけのテクニックコーナーでは、リアクションの大きさに気分を良くしたのか、飛鳥馬さんのデモがノリノリになっていた。
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