第25話 プロ

 あと30分で午前中のトレーニングが終わるというタイミングで飛鳥馬さんが大きくパンパンと手を叩いた。


「はい、お疲れ様です。今やっている基礎トレーニングは、これからも毎日コツコツ続けて行きましょう。そして、残りの30分は、せっかくトレーニングを受けたのですから、いくら基礎が大事とは言っても、何か一つくらいテクニックを覚えて行かないと恰好つかないですよね? ということで2つ、テクニックというかタイミングを掴むコツを紹介しますね。」


そういうと飛鳥馬さんがテリトスを始めた。

着地直前に横滑りさせて隙間を埋める技を披露。


「これですね。これ、ポイントはタイミングだけなんですが、タイミングの取り方が難しんですよね。でも、これには魔法の言葉があるんです。ここ、こうストンって着地しますよね。これを声に出しちゃうんです。はい、ストン、着地しましたね。はい着地、ストン。 で、ストンのトの時に方向キーを押すんです。ストンのト、ですよ。はい、スト。」


テリトスが横に滑って、隙間にかっちりとハマった。


「はい、もう一度、ストッ。」

テリトスが横に滑る。


「皆さんもやってみてください。」


隊員たちがテリトスを始めた。

皆がストン、ストンと呪文のように唱えなえている。


「お、出来た!」

「よしっ!」


隊員たちの間から歓声が上がりはじめる。


「どうですか。タイミングの取り方がわかると結構簡単にできますよね。後は、これを落下速度を上げた時のタイミングもつかめれば、スコアをあげる有効なテクニックとして使えると思います。そして、もうひとつ、テリトスのテクニックなんですが、こちらは、実戦向きなテクニックでは無いのですが、魅せる系、デモンストレーション技になります。プロなんで、ちょっと格好良い所見せなきゃいけない時ってありますよね。そういう時に有効なテクニックです。テリトスを着地直前に回転させて、跳ねるような動きにさせるテクニックですね。これは、タイミングというか、テリトスの向きとタイミングなのですが、今のストンのス、の時にテリトスの長い辺を地面と平行にするんです。もちろん、スでやらないで、ずっと長い辺を地面と平行にして落下させても同じなんですが、跳ねるように見せるためには、スのタイミングで回転させて平行にして下さい。そしてストンのト、でまた回転ボタンです。はい、ストン、くるっとジャンプ。ストン、ジャンプ、とこんな感じです。これは手順が続くので、少し難易度あがりますが、試してみてください。」


また、隊員たちからストン、ストンという呪文が溢れだしてきたが、今度は少し難易度が高いので、なかなか成功者が出ないようで、歓声の代わりに、あ、とか、くそっといった声で溢れてる。


「よっしゃ、出来たー!」

トレーニング終了まであと3分と言うときに、ついに隊員から歓声があがった。


成功した隊員の周りに他の隊員が、集まってきて、地面すれすれで跳ねるテリトスを見て盛り上がっている。


「かっこいいな、プロみたいじゃんか。」

「いや、お前もプロだろ!」

「オレも早く出来るようになって、甥っ子に自慢してやるんだ。」

「オレは最初に彼女に見せるぜ。」


時計の針が12時を指した。

「はい、お疲れ様でした、これにてトレーニングは終了です。解散!」


山崎センター長の終了の声を受けて、一番前の席の隊員がパッと立ち上がった。

「教官殿に敬礼!」


ありがとうございました!

隊員全員がビシっと揃った美しい敬礼をして、足早に訓練室を出て行った。


「うぁわ、オレは、こういう集団行動的なのってテリトス回転させることより恰好良いと思うんですよね。」


「ん、いや、実際、向こうはプロの軍人さんだから、集団行動のプロでしょ。」

あちゃー、オレも飛鳥馬さんから身も蓋も無い、正しいコメントをぶっこまれてしまった。


「確かにプロだからでしょうけど、それでも、あの全員一斉に足早に移動するとか、颯爽として、カッコよかったですよ。」

お、柏木さん、ナイスフォロー。


「ん、いや、実際、足早にっていうか、急いでたでしょ。昼ごはんの時間だよ?」

うわ、連続で身も蓋もない、正しいコメントをぶっこんできたよ。


「そうですね、わたしたちも急ぎましょ。ランチ、ランチ、今日は何かなー。」

柏木さん、コメントガン無視。


「食堂は、隣の司令部庁舎だったよね。行こっか。」

飛鳥馬さんがスッと訓練室を出た。


オレ達が司令部庁舎へ入ろうとすると、もう既に昼食を終えたであろう隊員さん達とすれ違う。


「まだ昼休みになって10分ですよ。もう食べちゃったんだ。軍人さんは早寝早飯ってほんとなんですね。」


「そうそう、あと、早グソでしょ?」

なぜか柏木さんがガッツポーズをとっている。


「いやいや、それ、女性が居ると思ったからあえて言わなかったのに、自分で言いますか?ってか、そのガッツポーズなんですか。頑張ってクソって感じですか。」


「頑張ってじゃなくて、踏ん張ってる感のジェスチャーね、わからないかなー。」


「ん、いや、実際、それ、食堂でする話かな?」


はい、ごもっともです。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る